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異世界っぽいVR世界に閉じ込められたけどなんとかなりそうです。  作者: ねぎとろ


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62/116

62話 『クロの本気』

戦闘はもう1話続きます。

 真っ白のフルプレートの鎧を着た上級冒険者は戦闘を始める前に俺たちに名前だけ告げていった。どうやら『ジャック』という名前らしい。


 ただ、どうしてジャックがクロを選んだのかは俺には分からなかった。単に自分と正反対のフルプレート鎧を着ているように見えたからだろうか。それとも、クロがモンスターだと分かった上で本気で殺そうとしているのかもしれない。

 そんな事を考えているうちに、戦場に立ってからお互い一言も喋らないまま戦闘が始まった。


 クロの大振りの大剣に比べると、ジャックの剣は短く、短剣より少し長い程度しかなかった。

 剣と剣の打ち合いが始まると、当然ジャックの短い剣の方が有利だった。だが、クロもジャックの攻撃が当たる前に大剣を器用に扱って弾いている。一撃一撃が重いという事もあって、ジャックは弾かれた時に少し仰け反っていた。


『───そろそろ本気を出したらどうですか?』


「…………」


 クロがジャックに何かを言ったようだが、離れて見ている俺達には何も聞こえなかった。

 だが、クロが何かを言った直後からジャックの雰囲気が少し変わり、左手にはキングの持っていた剣とほぼ同じ形の剣を持っていた。


 2本の剣を巧みに操って戦うのが本来のジャックの戦いなのだと思う。そして、最初に1本の剣で戦った事を見るに、実力がなければそのまま短い剣で戦っていたのだろう。


 ……ほんの数回打ち合っただけでジャックに本気を出させるという事はクロは少なくとも俺よりは強い。きっと俺ならば本気は出させることが出来ても、それまでの過程に時間が掛かっていただろう。


「マキト、マキトは弱くないよ?」


「シロ? 俺は大丈夫だぞ? クロが俺より強いなんて分かってることだしな。別に悔しくなんてねえよ」


「……そっか」


「あぁ」


 もしかしたら顔に少しでも出ていたかもしれない。だからこそシロは俺の事を弱くないと言ったのだろう。お世辞かもしれないし、ただの同情からきた言葉かもしれない。いや、きっと俺を励ます為に言ってくれたのだろう。シロは優しい。周りをよく見ているし、俺の顔色が変わったらすぐに気付く。……そして、なによりもシロは多分俺よりも強い。


 劣等感に苛まれながらクロとジャックの試合を見ていると、クロはどうやら劣勢のようだった。

 まぁでも、当然といえば当然だろう。ジャックは上級冒険者であり、さらに双剣使いともなれば剣の速度は相当な筈だ。

 現に、クロは自らが持っている大剣でなんとか攻撃を防ぐことしか出来ていない。


『……あなた、さすがはお強いですね』


「こちらこそですよ。まさかここまで攻撃が当たらないとは思いませんでした、よ!」


 ジャックの攻撃の重みが増したのか、クロは防いだのはいいものの、完全に体勢を崩してしまった。一度体勢を崩されたらあとはもう負けてしまうだろう。俺はそう思っていた。


 だが、クロは違った。体勢が崩されたのにも関わらず、ジャックの猛攻を防ぎ、段々と反撃を加え始めたのだ。俺が直で見たこともなかったが、きっとこれがクロの本気なのだろう。

 シロもキングも、もう一人の上級冒険者も、そして俺も含めて誰もがその試合に魅了されていた。目が離せられないのだ。


「あなた、よくその大剣を振り回していて疲れないですね」


『私はまだまだ戦えますよ。それよりも、あなたはだいぶミスが目立ち始めてますね』


 既に試合は15分程度経過しようとしていた。俺の時よりも大幅に長い。そして、未だ終わる気配はなかった。クロはモンスターであり、アンデットだ。疲れはない筈。だが、ジャックはどうだろうか。攻めている時は良かったが、今や激しい攻防に変わってしまっている。クロの攻めが多くなったのを見る限り、ジャックは疲れ始めているのだろう。


 そんな時だった、クロの大剣をジャックが捌ききれず、重みに負けて吹き飛ばされてしまった。


『これで、終わりですね』


 クロの勝負を決める声が聞こえたと同時に、クロは大剣を走りながら振りかぶり、ジャックへと振り下ろした。


 ━━━━だが、クロの攻撃が当たることはなかった。それどころか、クロは体勢を崩して地面に座り込み、ジャックの双剣がクロの首へと当てられていたのだ。


 こうして、クロとジャックの激闘はジャックの勝利で終わった。

次はシロの番だよ!

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