60話 『模擬戦闘開始』
険しい顔つきの爺さん達と向き合う俺たち。
先に口を開いたのは俺たち、ではなく爺さんだった。
「私は冒険者ギルドのギルドマスター、『クレモンド』だ。以後覚えておいてくれると助かる」
クレモンドというギルドマスターが俺達に挨拶を終えたので、それに返すように俺はクレモンドへと自己紹介をしようかと口を開いた。
「すいません。申し遅れました。俺はマキ───」
「いや、挨拶はいい。私は実力の持たぬ者の挨拶は聞かない主義でな。今回の試験でお主らが見事昇格すれば話を聞いてやる」
ギルドマスターはそれだけ言うと、踵を返して消えていってしまった。残ったのはフルプレートの鎧を装備している三人だ。どいつもこいつも喋ろうとはせず、ただ立っていた。
「来い」
ようやく赤色のフルプレートの鎧を着たやつが俺を見て手招きしている。シロが少し不安そうな顔をしているが、俺は全く動じずに指定された場所へと立ち、そして、俺は赤色の鎧の男と向き合った。
「模擬戦闘のルールは分かるか?」
「いえ、ある程度しか」
「そうか。簡単に説明しておこう。ギブアップかもしくは、審判であるそこの二人による制止によって勝敗は決まる。死ぬと思ったらすぐギブアップするといい。手加減はするつもりなどない」
どうやらいつの間にかシロとクロを少し離れた所に移動させていた、他の色のフルプレートの鎧を着た奴らが審判らしい。
そして、その2人はきっとシロとクロが戦う相手だろう。
「さて、準備はいいか?」
俺は1度シロとクロに手を振ってから、赤鎧の男へと向き直した。
「ちょっと待ってくれ。ここで全力で戦っていいのか? 音とか激しくなると思うが……」
「その点は心配するな。この部屋の壁はそもそも中級冒険者でも傷すらつけられない素材になっている。それに、音については既に防音の魔法を掛けているから安心しろ」
いつの間に防音の魔法とやらをこの部屋に掛けたのだろうか。まぁでも、道理でシロが俺に向かって叫んでいるはずなのに、聞こえない訳だ。
「ま、それなら全力で戦えるな。あんたの名前はなんて言うんだ?」
槍を構え、俺は名前を尋ねる。槍を取り出した瞬間に、何かに気付いて少し驚いた赤鎧の男は自分の腰に下げていた細身の剣を引き抜き、俺に対して構え始めた。
「そうか。その槍はディルムッドの持っていた槍だな。お前があの男に認められた奴か。私の名はキング。ディルムッドとライバルだった男だ!」
持っている手に力を込め、言葉を放つと共に俺の元へと近寄ってきたキング。不意を突かれた俺はキングの攻撃に対してギリギリで防ぐ事しか出来なかった。
「───っ! 重っ!」
細身の剣で繰り出されたとは思えない重さの攻撃は槍で防いでも衝撃は消えず、俺は宙を飛んだ。
すかさず追撃に来るキングに対して、俺は体勢を崩したままで、かろうじて槍で直撃を躱す事しか出来ない。
「やべぇ。立て直さねえと……」
ようやく地面に足がついてもキングの攻撃は止むことがない。細身という部分を生かし、最初の勢いに乗った一撃と比べると弱いが、止まることの無い手数の多い攻撃は俺に一切の攻撃の隙を与えてくれなかった。
「所詮はこの程度か」
「うるせえな。まだ本気を出してねえんだよ」
「喋る余裕があるのならまだ楽しめそうだ」
啖呵切ってみたのは良いが、正直これ以上槍で防ぐ事が出来ない。いや、最初から全てを防げているわけでない。ただ致命傷に当たる部分だけをなんとか防げている状態なのだ。
『スキル:槍術を入手しました』
頭の中に流れて来る不意に聞こえた機械音声。どうして入手出来たのか分からないが、スキルとして槍術を入手した瞬間に、どうやったら上手く槍を使えるか、どうすれば攻撃を防ぎやすいか、それに加え、槍自体が途端に軽くなったのだ。
覚えたての槍術によってなんとかキングの攻撃を1度だけ弾くことが出来た。相手は偶然だと思ったかもしれない。けれど、この一瞬でも出来た隙を俺は見逃さなかった。
(アレをやってみるしかねえか……)
「荒ぶる火の精霊よ、砲撃となり敵を焼却せよ。『火の玉!』」
「その程度の魔法など効かぬ!」
ファイヤーボールをキングへと放たず、自らの手へと残したまま、キングの顔面を殴った。
いや、正確には殴ると同時に爆発させたというのが正しいだろう。自爆覚悟の技だが、流石に自爆するとは思っていなかったらしく、俺への剣での攻撃は止んでいた。
「これで、どうだ!」
爆発による煙で俺の姿は少しの間見えにくくなっていた。だが、赤鎧で見やすいキングの場所は一瞬でもハッキリした。
どうやらキングはまだ俺に気付いていないようだ。チャンスは今しかない。そう思った俺はこっそりと近付き、キングへと格闘術スキルの足払いを仕掛けた。
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