57話 『しばしの別れ』
クロへと回復薬を渡し、回復していくのを見ているのは良いのだが、どうやら回復薬自体が少なかったようだ。そもそもクロの体力が多いからか、俺の持ってきていた3つの回復薬で足りなかったんだろう。マジックバッグがない現状、クロ達が買い物してくれた時に気を利かせて買っといてくれた腰にぶら下げれるタイプの小さめの革袋しかない。
もちろん、小さいだけあって、今回のように大怪我した時には確実に足りないだろう。クロの自動修復が回復薬と合わさって効果が増しているのが幸いだ。
『マスター。修復完了しました。辺りも明るくなってきています、テントへと戻りましょう』
「それも、そうだな」
自分の不甲斐なさなどを考えているうちに、クロの回復が終わっていたようだった。
(確かに辺りもだいぶ明るいな。この世界の人達がどれくらい早起きか分からないから、早く帰らねえと……)
「なぁクロ。今回の襲撃についてはシロや依頼主に話すか?」
俺個人としては、依頼主に話すのはまぁもちろんだと思うが、シロには聞かせたくなかった。モンスターならまだしも、人間と殺しあったなんてあまり聞きたくはない話だろう。
『そうですね。依頼主には話すべきだと思います。ただ、シロ殿にはどうでしょう……話しても大丈夫だとは思いますが、そこはマスターの判断にお任せします』
「そうか。分かった。シロがもし聞いてきたらやんわりと伝えてみるよ」
『はい。それがいいと思います』
こうして、俺達は朝日が昇ろうとしている中、テントへと戻ることに成功した。
幸い、テントに戻っても未だ起きている人は居なく、シロに至ってはまだ爆睡していた。
「……ト〜」
微かにしか聞こえない声だが、どうやらシロが寝言を言っているようだった。クロは俺に『皆が起きるまで休んでいてください』と言い残し、さっきまでボロボロだった体をもう一度動かしてテント周辺を見回りに行ってしまった。
「マキト。シロを……置いてかないで……」
聞こうと思って聞いた訳じゃないが、俺の耳にはハッキリと聞こえてしまった。きっとシロは悪い夢を見ているのだろう。そう思い、俺はシロの近くへと寄って頭を撫でる事にした。
「シロ。俺、頑張るからな。頑張って強くなるから。お前こそ居なくったらダメだからな」
寝ているシロに聞こえるわけもなく、俺の小さく呟いた独り言は虚空へと消えた。
「大丈夫だよ。マキト」
「───シロ?」
一瞬俺の声が聞こえて反応したのかと思ったが、まだシロは寝ている。たまたま夢の景色に対しての寝言が俺の独り言に重なっただけのようだ。
(シロ。俺はお前を置いて何処にも行かないからな)
もはや家族のように感じるシロを撫でながら俺は密かに決意した。
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俺達がテントへ戻ってきてからおおよそ1時間後、依頼主が起き、その頃にはシロもちょうど目覚めていた。
「マキトー! マキトは昨日ぐっすり眠れたー?」
「ん、お、おう。ちょっと問題はあったけどな。休めたには休めたよ」
「問題? なにかあったの?」
「まぁな。ちょっとした襲撃だよ。相手が弱かったから今回は余裕だったんだ。ま、俺じゃなくてほとんどクロが倒してくれたんだけどな」
結局俺はシロへと物凄くオブラートに包みながら昨日の襲撃のことを話した。シロは俺とクロが怪我していないか心配になってしまったようで、頻りに俺の体をチェックしていた。
「ねーマキトー。クロはどこー?」
俺が完全に怪我していないことが分かったからか、次はクロをチェックしたいんだろう。それ程シロにとって俺とクロは大事なのだ。そう思えただけで何となく俺は嬉しかった。
「ん? クロなら今依頼主とさっきも話した襲撃について話してるぞ」
「そっかぁ。それは邪魔出来ないや」
「お、おぉ。シロ、お前でもちゃんと迷惑がかかるって分かるんだな!」
「えっ!? マキト今シロのこと馬鹿にした!?」
「いやいや、してないしてない。マジしてないって!」
「嘘だもん!絶対今馬鹿にしてた!!」
『あ、あの。マスターとシロ殿。どうやらそろそろ出発するそうですが……』
シロがレイピアの鞘で俺を叩いてる中、クロは戸惑いながら止めてくれた。
「危なかった……クロが止めてくれなかったら死んでるところだったぜ」
「もう! マキトが馬鹿にするから悪いんでしょ!!」
「ほんとに感心してただけだって。落ち着けよ。あ、そうだ、クロ。シロを連れて先に依頼主のとこに行っててくれ。俺はちょっとナイトメアバットに隠れるよう伝えてくるから」
『かしこまりました。それでは、シロ殿。行きますよ』
「クロのバカー! それとマキトもバカ!!アホ!!」
クロが無理やりシロを背負い、依頼主の待っている方向へと歩き出した。シロがずっと騒いでる中、俺はナイトメアバット達を俺の元へと集めた。
「……そっか。2匹だけか」
俺は死んでしまったナイトメアバットがいる方向を少しだけ見つめてから、ナイトメアバット達に「王都から戻ったら迎えに来るから隠れて生きててくれ」と命令した。
ちゃんと伝わったのか分からないが、俺の言葉を聞いてから2匹とも行動を開始したからきっと大丈夫だろう。
「やべっ! 急がねえと!」
ナイトメアバット達の姿が見えなくなるのを確認した後、俺は全力で依頼主の元へと走りだした。
こうして、依頼主から襲撃された際にしっかりと守り通した事に関してのお礼を言われたり、王都へと向かう途中に数度モンスターと戦ったりと、色々あったがついに俺達は王都へと辿り着く事が出来た。
「これが、王都の門か……」
王都に辿り着き、まるでファンタジーの世界にあるような大きく装飾された門を見て、きっと今までも何度も思ってるはずなのに、どうしてか今回は余計にゲームの中に居るはずなのに異世界に居るかのように感じてしまった。




