48話 『調達』
少し遅くなりました。すいません( ..)"
扉へと向かい、俺は寝ぼけた状態で扉を開けた。完全に今の俺は不機嫌だ。そもそも、ぐっすり寝ているというのに、大きい音で起こされるということ自体が不快だし嫌いだ。だが、扉の向こう側に居た人に対して不機嫌な顔で居られない。
俺は、目の前に居るギルド長に対して寝起きで出来る最高の笑顔で挨拶をする事にした。
「お、おはようございます。は、早いですね」
「いや、私こそこんなに早くに済まない。どうやら、頼んでいた依頼が早まってしまってな、今日の昼に出発するらしいんじゃ」
「そ、そうなんですか。でも俺たちまだアイテムとかも購入してないですし、準備が……」
俺の言葉に一切の嘘偽りはない。というより、そもそもこんなに早く依頼が始まると思ってなかったから、アイテムも武器も買っていない。
しかも、それに加えて報奨金の中身を見ていないことから何を買うのかすら決まっていないのだ。
「そうじゃろうと思って、早いかもしれんがこの時間に起こしたんじゃ。それとじゃな、是非出発前にはディルムッドの所へ寄ってくれ。どうやらお主に話があるみたいじゃからの」
「あ、はい。わかりました。むしろわざわざ起こしに来てくれてありがとうございます!」
「それじゃ、依頼主は昼に街の門に居るそうだから遅れるんじゃないぞ」
「はい!!」
ギルド長は俺に必要なことだけを伝えると、そのまま去っていった。
「時間無いなぁ……」
昼から出発となると、残された時間は少ない。俺はとりあえず無理やりシロとクロを叩き起し、買い物に行く準備をさせることにした。もちろん、クロは普通として、無理やり起こされたシロは今までに見たこともないくらい機嫌が悪かった。
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なんとか二人を起こし、今俺たちは街へと買い物に来ている。起こされた直後はめちゃくちゃ機嫌が悪かったシロも今は街を全力で走り回っていた。
『マスター。まずは何を買うのですか?』
「うーん。そうだなぁ。やっぱり最初は武器、かな?」
ギルドから貰った報奨金は数えてみたところ、ざっと10万円程度だった。日本に居た時に比べると額は少なく見えるかもしれないが、実際はとてつもない量だ。それこそ、下級冒険者ランクのクエストじゃ手に入れるのに膨大な時間が掛かるだろう。
それに、この世界で重宝されている回復薬やステータス向上アイテム。例えば、回復薬にしてみれば一番効果が低いアイテムでも150円程度。街に売ってる最高級で1000円くらいだ。10万という額が一度で手に入るというのはやはり凄い事なのだろう。
「マキトー! シロ、この武器が欲しい!!」
シロが指差す武器は、店の外からでも見えるようになっている、いわゆるガラスケース張りになっているのだが、確かに凄く綺麗な武器だった。
真っ白なレイピアであり、大きさも少し小さめでシロて持てるサイズだ。確かに、この武器ならシロにも丁度良いだろう。
「なぁ、ホントにお前は戦えるのか?」
「あ、あったりまえじゃん!!シロだって、やる時はやるよ!!」
「そうかなぁ。うーん、でも護身用に持っとかせた方が良いのかなぁ……」
『───マスター。私はシロ殿も武器を持つべきと思います。やはり、自分の身を最悪守れる手段は必要でしょう』
「だよな。俺たちが守れない時に使うかもしれねえしな」
結局、シロの欲しい武器は買うことに決定した。値段にして約2万5千円程度。ガラスケースに飾られるくらいだからもちろん高いのは承知の上だ。それに、どうやら真っ白なレイピアには名前があるらしく、実際は『クイーンズレイピア』という名前らしい。錆びない素材で出来ていて、斬れ味も抜群。シロに持たせるには少し勿体ないくらいの代物だ。
「なぁ、この全身鎧の男に似合う武器とかこの店にないか?」
クロの武器についてはとりあえず店主に聞いてみることにした。正直、シロに真っ白なレイピアは凄く似合っている。それならば、凄い個人的な事だがクロにも似合う武器で尚且つ強い武器が持たせたくなったのだ。
「そうですねぇ。そのサイズの武器となりますと、大剣などは如何でしょう。最近入荷したばかりなのですが、黒曜石の大剣という武器などオススメですね」
「一度見せてもらってもいいか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
その後、店主は店の裏から黒曜石の大剣を持ってきて俺たちの前へと置いた。見た目自体は、さっきのシロのレイピアに相対する真っ黒って感じだ。柄だけは白いが、刃自体は全てが黒。刃全体に惜しみなく黒曜石を使っているのだろう。
「これ持たせてもいいか?」
「はい。大丈夫ですよ。ただ、お気をつけてください。この大剣は両刃剣になっておりまして、非常に危険なのです。是非鞘に入れてからお持ちください」
店主は持っていた鞘に大剣を入れてから、クロへと手渡した。多分だが、あの大きさの大剣は俺では持てない。
「どうだ? 大剣は上手く扱えそうか?」
『はい。多分、大丈夫かと。この武器は思っていた以上に軽いのでとても使いやすそうです』
「その大剣、軽いのか?」
明らかに重そうな大剣だというのに、軽いというのは少しおかしい。一体どういう事なのだろうか。
「その大剣が軽いのはですね、やはり黒曜石という代物を使っているからなのです。黒曜石で作られた武器は軽く、尚且つ刃こぼれしない。もちろん、錆びることもない。使おうと思えば一生使い続けることすら出来る武器なのです」
「そ、そうなのか。まぁでも、決めるのはクロだしな。クロ、お前はその武器を気に入ったか?」
『マスター。正直、まだなんとも言えませんが、私個人的にはこの武器を使ってみたいです』
「よし分かった。それじゃ買おう」
「か、かしこまりました!! お買い上げありがとうございます!!!」
黒曜石の大剣も購入し、10万貰った報奨金の半分は一瞬で消えてしまった。だが後悔はしていない。むしろ良い買い物をしたと思っている。
「えっへへー。私の武器〜!!」
『マスター。私にこのような武器、本当にありがとうございます』
シロとクロも貰った武器に喜んでいるようだし、買った俺からしてもここまで喜ばれると嬉しいもんだ。
「お、おう。まぁ武器は必要だしな。そうだ、シロとクロに俺からお願いがあるんだよ」
「『お願い……?』」
「あぁ。俺はちょっとディルムッドの所へ呼ばれてるからさ、二人で回復薬とかを買っといて欲しいんだ。昼まで時間がないからさ、頼んでいいか?」
「うん! 大丈夫! シロに任せて!!」
『かしこまりました。おまかせください』
「回復薬の量とかはクロに任せるよ。あと、お金もクロに渡しとくからな。あとは任せたぞ?」
『はい。シロ殿を頑張って制御致します……』
クロとシロに必要物資を買う分のお金を渡し、俺は急いでディルムッドが居る場所へと向かった。