46話 『ギルド長』
ようやく書けましたので更新です。
シロとクロと共に冒険者ギルドへと辿り着いた俺は、扉を開けて入った直後に受付嬢へと腕を引っ張られていた。
「ちょ、なんですか急に!!」
「ギルド長がお呼びです!! 急いでください!!」
『マスターへの乱暴はおやめください!!』
「そうだそうだ!! マキトが可哀想でしょ!!」
受付嬢に対してシロとクロも色々言ってくれたが、結局受付嬢が俺の腕を引っ張るのをやめることはなかった。そして、その勢いのまま冒険者ギルドの三階に行き、ギルド長が居る部屋の前へと辿り着いてしまった。
「それでは、私は一般業務に戻ります」
「このタイミングで!?」
ただギルド長の部屋へと無理やり連れてきて、ほとんど何も説明もなしに走って戻っていってしまった受付嬢。
残された俺達はただギルド長の部屋の前で呆然とする事しか出来ない。
『と、とりあえずマスターは腕の方大丈夫ですか?』
「あ、あぁ。まぁ別に最初以外は特に強く引っ張られなかったしな」
最初こそは引っ張られたのにビックリしたが、正直言って途中からは歩く速さも合わせることが出来たし、怪我はもちろんの事、痛みもない。むしろ、そんな事よりこっから誰が最初にギルド長の部屋に入るかの方が問題だ。
「さすがにここまで来て帰るわけには行かないよなぁ……」
『そう、ですね。一応呼ばれているようですし、帰るのは不味いかと』
「マキトは入るの嫌なのー?」
「いや、別に嫌って訳じゃねえんだけどな。ちょっと緊張するっていう感じだよ」
「それじゃ、私から入るねー!! 中がどうなってるか楽しみだもん!」
俺がビビって扉を開けれていなかったというのに、シロは何も気にすることなく言葉通り扉を開けはじめた。ただ、少しシロには重いようで扉は少しずつ開き始めている。
「───ちょ、バカ! ノックしてからにしとけって!」
『マスター。もう遅いです』
「そうだよ!! そういうのは開ける前に言ってよね!」
「俺が怒られるのか!?」
もはや扉が完全に開いてしまってはこうして扉の前で馬鹿みたいな会話をしている暇もない。俺はシロとクロよりも先に足をギルド長の部屋へと進めた。もちろん、少しだけ緊張はしている。
「やぁ。よく来たね。シロちゃんとマキトくん。それと……」
『───クロとお呼びしてくだされば幸いです』
「そうかそうか。それじゃあ改めて、マキトくん、シロちゃん、クロくん、急にお呼び立てして申し訳ない。わしが少し話してみたくてね。それと、ゴブリン戦での活躍で報奨金も出ているからそれも渡さないとならないんじゃ。まぁとにかく話は座ってしよう。遠慮せずそこの椅子に掛けてくれたまえ」
「はい。失礼します」
ギルド長の座っている椅子に対面する形で俺たちは座った。こうしてギルド長と対面すると緊張がさらに増してしまう。上手く喋れるといいが。
「さて、改めて挨拶しよう。わしはこの街の冒険者ギルドのギルド長。シュヴァリエだ。もうちょっと本名は長いが、まぁ気軽にシュヴァリエと呼んでくれたまえ」
ギルド長のシュヴァリエ。名前を聞いたのはもちろん初めてだ。見た目もカッコイイおじさんという感じでそこまで強そうとは思えないが、どうしてか、この人に戦いを挑んだら勝てるビジョンが浮かばなかった。俺の本能はこの人の強さを確信しているのだろう。
「はい。えっと、シュヴァリエさん。一応、俺達の紹介もしますね。知ってるとは思いますが、俺はマキトと言います。それと、こっちの小さい子がシロで、後ろに居るのがクロと言います。こちらこそよろしくお願いします」
俺は自分の横に座っているシロと後は何故か俺の斜め後ろにいるクロを軽く説明し、本題へと移ることにした。
「それで、今回俺達が呼ばれたのはやっぱりゴブリン達の件の他にはなんでしょうか?」
「いや、済まないがその前にわたしから聞きたいことを聞いても良いかね?」
「はい。大丈夫、ですが……」
俺から見ても分かるくらい鋭い目でクロを見ているようだし、きっと聞きたいことはクロについてで間違いないだろう。
「ふむ。一応念の為に聞いておくんじゃが、クロくんはモンスターということで間違いないかね?」
やはりクロについて指摘してきた。だが、ここは素直にクロについて教えとくべきなのか分からない。そもそも、街にモンスターが居ること自体不味い筈だ。今ここでバレたら最悪殺されるという可能性もある。
「白髪のおじちゃん! 心配しなくてもクロは良いモンスターだよ!!」
「ばかっ!何言って……」
「───はっはっは。別に構わんよ。そうじゃな。そもそもマキトくん達と居る時点で良いモンスターであることに間違いはない。だが、これ以上モンスターは街に入れないで貰えると助かるんだが、その辺りは了承してもらえるかな?」
「は、はい。さすがに街中にこれ以上はモンスターを入れないようにします……」
「よろしい。それでは、本題へと移ろうか。まぁお主達をここに呼んだ理由はさっきも言った通りじゃが、まずは報奨金についてじゃな。ほれ、これがお主達への報酬じゃ」
ギルド長はどこからか袋いっぱいに入ったお金を取り出し、机の上に置いた。見る限りでは相当な量入っている筈だ。
「こ、こんなに沢山貰って良いんですか?」
「構わぬよ。お主らはそれに見合うだけの働きをしたという事じゃ」
「ありがとうございます!」
「わぁ。金ピカがいっぱい!!! おじちゃんありがとっ!!」
『こんなにも多量の報酬。感謝します』
「そうじゃそうじゃ。遠慮なく貰ってくれ。それとじゃが、お主らをここに呼んだもう一つの理由じゃが、ディルムッドが受けるはずだったある依頼を頼まれて欲しいんじゃ」
「依頼、ですか?」
俺は受け取ったお金を仕舞いつつ、ギルド長の話を少し詳しく聞くことにした。
話を聞いていくうちにだが、どうやらギルド長が俺たちにお願いしたい依頼がディルムッドから頼まれた依頼と同じということに気付く事が出来た。
「その依頼、実はディルムッドさんから頼まれていたんですよ」
「そうじゃったか! ほうほう。あのディルムッドがのぅ。珍しいこともあるもんじゃ。じゃが、それなら話は早い。依頼は受けてくれるな?」
ディルムッドにも頼まれたという事もあり、また、俺自身が王都に行きたいという事もある。断るメリットは俺にはなかった。
「俺は大丈夫です。シロとクロは、」
「マキトが受けるならシロも付いてく!!」
『マスターの意向に従います』
「だ、そうですので依頼は受けさせていただきます」
「そう言ってくれると助かる。それでは、依頼人にはわしから話をつけておこう。お主達は今日このギルドに泊まると良い。三人一緒で悪いんじゃが、最高級の部屋じゃぞ?」
こうして、結局の所ギルド長との話は俺が想定していたよりも長引き、俺たちはギルド長の用意してくれた部屋で一晩過ごすこととなったのだった。