41話『終了の合図』
ほんと、明日からお盆でバイトやばいです……次のバイトの休みが火曜日なので、火曜日の深夜に次の話更新します。遅くてごめんなさい。
ゴブリンキングに対して、俺が最初に行使しようとしたのは顎へのアッパーだった。だが、ゴブリンキングが無抵抗に攻撃を受けてくれるわけもなく、俺が近付いてアッパーする為に少し屈み、繰り出した瞬間にゴブリンキングは俺の腕を掴みあげた。
俺なんかの攻撃がなんの脅威にもならないのか、平然な顔で俺の腕を掴み、地面へと叩きつけた。
「……っ!!」
地面に顔がぶつかり、それと同時に俺の腕はごきっという音と共に折れた。
折れた瞬間はもはや何も考えられなかった。冷静でいられる訳が無い。ただ、この世界で味わってきた痛みが幸いしてか、すぐにでも頭の中は少しだけ冷静になった。
だが、叩きつけられた後の俺の体にゴブリンキングが座り、俺の頭を地面へと押し付けた。声を上げることもできず、例え大声を出したとしても俺を助けられるのはシロだけだ。とは言っても、押さえつけられているせいで俺は体を自由に動かす事すら出来ない。
そして、息も出来ず、痛みもあるお陰で気を失いそうそうになった時、ようやく俺は頭を上げることが出来た。
当然、俺の火事場の馬鹿力とかそんなものではない。ただゴブリンキングが俺の上からどいただけ。それでようやく体は自由になったが、体が軽くなっても俺は立ち上がることが出来なかった。
そんな俺の姿をゴブリンキングはゴミを見るかのような視線で見た後に、蹴り飛ばそうとしていた。
死を覚悟した。無謀にも逃げずに挑んだ自分を馬鹿だと思った。そして、幾度となく死の瞬間なんて味わっていたのに、今回は何故か日本に居た時の記憶を思い出していた。
「はははっ……そういや、この世界ってゲームだったんだよな……」
いつの間にか忘れていた事実だ。この世界に他のプレイヤーが居るなら是非会って話したかった。そして、そいつがこのゲームが大好きだったなら一緒にこの世界を攻略したかった。そんな夢のような事ばっかりが俺の頭を埋めつくしていた。
そんな事を考えている内に蹴りが飛んでくると思ったが、俺へと攻撃が来ることはなかった。それに加え、どうしてか俺を守るかのように仁王立ちしている者が居た。
重厚感のある鎧と、見覚えのある斧。それだけが見えた時俺は確信した。それに、どうやらシロはいつの間にか俺の近くへと移動してたみたいだ。アイアンゴーレムと一緒に来てくれたのかもしれない。
「マキトの事は私が助けるから!!」
「俺が守る筈なのに、助けられちまったな……」
「私だって守れるんだからね!」
「……シロ、ありがとな」
度重なる痛みからか、俺はこの時一瞬気を失った。
当然すぐに意識を取り戻し、どうにか体を起こすことは出来たが、未だ力は入らなかった。
既にアイアンゴーレムが戦い始めてから何秒経過しているかは分からないが、アイアンゴーレムをこの場に繋ぎ止めているシロは今にも倒れそうになっていた。
「え、へへっ。マキト、起きたんだね……」
意識を取り戻した俺を見て、話し掛けてくるシロの顔は辛そうだった。いや、俺に辛いのを隠すために笑顔で話しかけているのかもしれないが、言葉のトーンや喋り方、顔以外でもシロが辛いというのはすぐに理解することが出来た。
「マキト、私、もう無理かも」
起きてから少ししか見ることが出来なかったが、シロの召喚したアイアンゴーレムはゴブリンキングを圧倒していた。
シロの召喚するアイアンゴーレムは俺が戦った時よりも小さいが、どうやらシロに合わせて成長するようだ。召喚される時間は短いが、本気を出していないゴブリンキングを圧倒していたという事は相当な強さの筈だ。
だが、そんなアイアンゴーレムもシロの体力の限界で消えてしまった。
そんな頼もしいアイアンゴーレムが消え、シロも倒れそうになっている。あと残されたのはかろうじて動ける俺だけだ。体力もほとんどなく、戦う力なんて残っていない。
それでも、この場に残されたのは俺一人なのだ。
そんな俺に対して、未だ普通に動けるゴブリンキングは俺にトドメを刺そうと目の前まで歩いてきている。
「せめて、あいつの気を逸らさねえと」
俺が死ねば次はディルムッドやシロ、死の騎士がトドメを刺されるだろう。その前に俺が少しでも遠くへと離れて注意を逸らさないといけない。
分かっている。頭の中ではそんなことを思っていても、体が言う事を聞かなかった。
結局俺はその場から一歩も動けないまま、死を待つだけとなった。
「俺をこの世界に連れてきたやつ……もっとチート能力を俺にくれよ……」
目の前まで来て、俺目掛けて拳を振り下ろそうとしているゴブリンキングを前に俺はその場には居ない誰かへと愚痴を呟いた。もちろん返事なんてあるわけがない。
だが、そんな俺の前に今度は小さくてフラフラしている子がゴブリンキングの攻撃から俺を守る為に両手を広げて立っていた。




