40話『絶望の幕開け』
こちらを振り向き俺へと声を掛けてくれた死の騎士だが、盾に受けた攻撃の威力は絶大だったらしく、すぐにゴブリンキングへと向き直って盾を持つ左手に力を込めていた。
だが、死の騎士に幾ら耐えうる力があろうとも、盾にはそれがなかった。盾が耐えれたのはほんの15秒程度。それだけだ。いや、むしろ考えようによってはそんなにも耐えれたのは凄いことなのかもしれない。
「死の騎士! 風の刃を準備しろ!!」
『御意』
俺の言葉と共に大きな音を立て、死の騎士の盾は破壊された。当然衝撃によって死の騎士の体制は崩れてしまうが、俺には作戦があった。もちろん、俺の言葉だけで死の騎士が俺の作戦を感じ取ってくれるかどうかは分からないが、今は賭ける他にないだろう。
いや、そんな事考える事すら必要なかった。死の騎士は俺のテイムしているモンスターだ。だったら俺が死の騎士に向かって念じればいい。
盾が壊れ、体制が崩れている死の騎士へと追撃をするかのようにゴブリンキングから繰り出された右腕が死の騎士に到達するのはあと5秒あるかないか。その間に俺は死の騎士へと作戦を念じた。
『畏まりました。タイミングはお任せ下さい』
死の騎士がゴブリンキングを見据えたまま、俺へと聞こえる声で言葉を放った。そして、ゴブリンキングの右腕が当たる直前に死の騎士は自らを巻き込んで風の刃を右腕に直撃させた。
当然の如く、死の騎士とゴブリンキングを軽く包むくらいの煙が巻き起こった。この場にいる俺からは死の騎士の姿が見えない。きっと、風の刃でもゴブリンキングの右腕の勢いは止めれなかったはずだ。
死んでいるということだけはないと信じ、俺はもう一度念じた。今はとりあえず死の騎士の安否を知ることが大切だ。
『マスター! もっと距離を取ってください!』
「────くっ……速い!」
俺の念じた言葉が聞こえたのか、死の騎士は煙の中から大声をあげた。
だが、死の騎士の言葉が聞こえる時にはもう遅かった。煙から勢いよく出てきたゴブリンキングは既に俺へと迫っていたのだ。距離を取る時間すらない程に。
「これは、やべえ……」
走ってきたゴブリンキングから放たれた右足からの蹴りをなんとか腕で防いだが、確実に衝撃で骨は折れたかヒビは入っただろう。なんとか防ぐことが出来たのは良いが、両腕で防いだことによって、もちろん両腕が使えなくなっている。
『マスター。わ、私にお任せ下さい』
「ば、ばか。お前、ボロボロじゃねえか……」
煙が晴れ、死の騎士の姿が見えた時、俺はその姿に絶望した。
煙の中で攻撃されたのか、斧を持っていた右腕は無くなっていて、走れないように片足も消されている。
現に、今も這ってまでこっちに来ようとしてくれているのだ。ただ俺なんかが召喚主だから。その理由だけで、俺をボロボロになってまで守ってくれようとしてくれている。
「死の騎士。お前はそこで休んでてくれ。こんなやつ俺とシロで倒してみせるからよ」
『で、ですが……』
「────うるせえ! 俺はお前に生きてて欲しいんだよ!!」
『か、畏まりました……』
ここまで死の騎士に言ってしまったが、ゴブリンキングの標的がいつ死の騎士に移るかは分からない。
それに、現時点での俺は両腕も使えず、体力もギリギリ半分あるかどうか程度だろう。
こうなれば切り札に頼るしかない。
「なんとか、あと一発は殴れそうだな……」
骨折かヒビが入っているのか。それを確認する為に痛みを覚悟で腕を曲げてみたが、なんとか折れてはいない。これならあと一回くらい攻撃出来るだろう。
もしもこんなに腕を酷使したらシロは怒ってしまうだろう。それでも今は戦うしかない。
「まさか待っててくれるなんてな」
てっきり俺を攻撃してからすぐに追撃してくると思っていたが、俺が考える時間、それに加えて死の騎士と話してた時間まで待ってくれている。きっと、これこそが強者の余裕なのだろう。
「シロ。守るとか言って頼ろうとしてごめんな」
俺にとっての切り札はシロの召喚するアイアンゴーレム。残された俺とシロが唯一ゴブリンキングに勝てるとしたら、それしか手段はないだろう。
だけど今はまだ使えない。もっとゴブリンキングに隙がある時が一番だ。
そして、その隙はなんとか俺が作る。その為に、俺は無謀にもゴブリンキングへと攻撃を仕掛けた。