38話 『奇襲失敗』
すいません。やっぱりリアルの都合上、土日の更新はこれからも無しとします。ご了承下さい。
少し観察してみてわかった事だが、明らかにゴブリンキングはディルムッドとの戦いに手を抜いていた。
ディルムッドが本気で戦い、ゴブリンキングは手を抜いて戦う。ゴブリンキングの顔を見る限り、どうやら戦いをすることが楽しいようだ。
初めから俺たちを簡単に殺しはしないつもりだったのだろう。最初の攻撃も俺が防がなくても多分俺たちは死にはしなかった筈だ。わざわざ俺たちを吹き飛ばし、作戦を考える時間を与えたのだろう。少しでも抵抗させる為に。
「だからわざと遅く歩いていたのか……」
俺たちの周りにはもちろん普通のゴブリン達は居ない。少し離れた所に未だ苦戦している死の騎士が居るくらいだ。これなら後ろから襲われるという危険はあまりないだろう。
現に、俺はシロから離れて観察しているし、シロはいつでもスキルを発動出来るように準備している。
どういう訳なのかは分からないが、シロのスキルは特別なようで、発動時間が長いのはもちろんの事、発動待機時にもシロの足元に魔法陣が現れてそこから風が吹き荒れている。
その影響からか、シロは発動するまでその場から動けない。以前は煙で見えなかったが、いざ見てみるとなんていうか俺とは違って本当の召喚魔法って感じがしてしまう。
「あぶねぇあぶねぇ。俺が見るのは二人の戦いだ」
ついついシロの方を見てしまったが、俺はすぐに視線を激戦している二人へと戻した。だが、見ているところで現状俺に入れる隙はない。
俺の目では追えないほどの速さでディルムッドは槍を扱っているが、それもゴブリンキングには容易く防がれている。
そんな俺の目で追えない攻撃をしている中に俺が入れば当然邪魔になってしまう。
「死の騎士が居てもなんとか……ならねぇか」
死の騎士は未だホブゴブリンソーサラーと戦っているし、仮に死の騎士が居てもディルムッドよりは弱い筈だから勝てないだろう。
だが、ディルムッドとゴブリンキングの攻撃は突然止まった。いや、止まったというよりもディルムッドが殴られ吹き飛んだことにより音が止まったのだ。
「今なら!!」
ゴブリンキングはディルムッドを追いかけてゆっくりと歩みを進めている。俺から見ればゴブリンキングの背中はがら空きだ。攻めるなら今しかなかった。
俺に出来る攻撃で威力が高く、尚且つ弱点である首を狙えるようにするには、やはりホブゴブリンナイトの時にも使った技を使うしかなかった。MPの消費と、踏み台にする事によって召喚されるモンスターが死んでしまうのが可哀想たが、致し方ない。
「───シロ。死んだらごめんな」
「えっ? マキ、ト?」
シロが動揺しているようだが、俺に振り返ってる暇はない。今から俺がすることはある意味危険だ。背後からの奇襲に成功すればいいが、失敗すれば死ぬ確率は高いだろう。
「さて、賭けに出ようか」
召喚魔法を使うタイミングを考えた後、俺は自分の出せる最高の速さで走り出した。
そして、タイミング良く召喚魔法を使う事によって跳躍し、未だ振り向かないゴブリンキングの首目掛けて蹴りを繰り出した。
確実に当たった。
そう思っていた。だが、俺の蹴りが直撃するその瞬間に、ゴブリンキングは振り向くことなく俺の足を分かっていたかのように掴み、投げ飛ばした。ホブゴブリンナイトの時にも恐れていたことをやられたのだ。
幸いに相手は楽しもうとしているからか殺されはしなかったが、相手が相手ならシロが泣いているという結果になっただろう。
「はぁはぁ……後ろにも目があんのかよこいつ……」
「ダメだ。君は攻撃に殺気を込めすぎている。だからバレたんだ。後ろから殺すには殺気を最低限無くして殺るのが基本だ。覚えておくといい」
そうか。今までは気付かなかったが、ゴブリンキングは人の気を察知出来るのだろう。だから俺の攻撃に振り向くことなく気付く事が出来たんだ。
『マスター。私も共に戦います』
「お、おう。けど傷は大丈夫か?」
シロとはだいぶ距離が離れてしまったが、一目見た限りではまだ大丈夫そうだ。
俺達が飛ばされた所が運良く死の騎士とホブゴブリンソーサラーの戦っている丁度中心だったのも考えようによっては運が良かった。
ゴブリンキングが俺たちへと向かってきているお陰か、それともゴブリンキングがホブゴブリンソーサラーへと命令したかは分からないが、どうやら俺たちは三人で、いや、シロを入れて四人でゴブリンキングと戦えるようだ。
「さて、次こそは私の槍の真髄を見せてあげましょう」
『マスターの守りはお任せを』
「いや、俺を守るよりも攻撃に専念してくれ。多方向から攻撃すればなんとかなるかもしれないしな」
『御意』
もしかしたらホブゴブリンソーサラーが魔法で攻撃してくるという可能性を念頭に置きつつ、俺達はゴブリンキングとの戦闘を開始した。




