37話『上級冒険者』
あと数話でゴブリンとの戦いは終わる予定…かな?
間一髪で攻撃を躱す事が出来たが、屈んだ事によって俺たちの体制は一気に崩れていた。
もちろん、ゴブリンキングの攻撃が止まるわけがない。体制が崩れ、防御なんて出来ない俺たちに向かって、躊躇なくゴブリンキングは蹴りを放ってきた。
体格的にも、ホブゴブリンナイトよりデカく、アイアンゴーレムよりは小さい。おおよそ7.8メートル程度だろうか。でも、その大きさでも俺たちのような人間は小さく見えただろう。それ程までに大きいゴブリンキングの蹴りは俺たち全員を巻き込む程の威力だった。
「くっ……」
体制は崩れていても、なんとか口だけは動かすことが出来る。俺はそれを利用して蹴りが俺たちに届く前に守護魔法を発動させることが出来た。
守護魔法はなんとか俺たち全員を守れるくらいの大きさだったが、そんなものはゴブリンキングの蹴りで容易く崩れ去った。守護魔法を壊したゴブリンキングの蹴りは威力が抑えられたのか、俺たちを吹き飛ばず程度だった。もしも、守護魔法がなかったらと思うと少しだけゾッとしてしまう。
「助かったぞ。だが分かっただろう? こいつの相手は上級冒険者である私でも厳しい。いや、勝てないだろう。君たちが居ては逆に」
「───足でまとい。ですよね。分かってますよそんな事は。けど、俺はゴブリン共に仲間を傷つけられている。その親玉が目の前に居て逃げろなんて出来ると思いますか? 俺には出来ません。だから俺も戦います。大丈夫です。邪魔はしませんから」
「シロも戦うよ!! マキトは私が見てないと無茶しちゃうからね!」
「いやいや、俺がお前を見てないと駄目なんだよ。シロ。お前こそ無茶してまた倒れるなよ?」
「た、多分……」
俺達が話していると、近くから笑い声が聞こえてきた。これはディルムッドの笑い声だろう。
「ほんとに君たちは仲が良いなぁ。強大な敵を前にして私を笑わしてくれるとはな。ありがとう。そして、どうか死なないでくれたまえ。私の名誉などではない。そうだな。私は今からあいつと本気で戦うだろう。そうなれば君たちの事を守ることが出来ないんだ。だから、自分の身は自分で守ってくれ。危ないと思ったらすぐ逃げるんだ。分かったな?」
「「はい!!」」
こういう事言うのはアレなんだが、正直俺はディルムッドの事をそこまで凄いやつとは思っていなかった。確かに、上級冒険者はすごい事だろう。けどそれまでだ。尊敬するには値しない。そう思っていた。
だけど、今その考えはひっくり返った。きっと、ディルムッドが上級冒険者になれたのはこういう場面でしっかりと皆を落ち着かせたり出来るからなんだと思う。
「さて、そろそろ話も終わりだ。私はこれから君たちよりも先にあいつへと攻撃を仕掛ける。その時に隙があれば戦闘に参加してくれ。くれぐれも無茶だけはするなよ?」
俺とシロは言葉の代わりに首を縦に振って頷いた。それを見た直後、ディルムッドは自身の持っている槍を構え、こちらへと緩やかに向かってきていたゴブリンキングへと走り出した。
「シロ。お前はいつでも召還できる準備をしといてくれ」
「う、うん!! でも、使うと私倒れちゃう……」
「大丈夫だ。お前にそのスキルは使わせる気はない。けど、準備は入念にだ。それと、俺は守護魔法がリキャストタイムで使えない。それを承知しといてくれ」
「分かった!! シロも自分の身は自分で守るね!!」
「あぁ。俺も戦闘に加わるからな。本当に危なくなったらアイアンゴーレムを召喚するんだ。そうすれば少しは時間が稼げる。その間に俺が助けに行くからな」
俺の言葉にシロが頷くのを確認してから、俺は既に戦い始めているゴブリンキングとディルムッドの戦闘の隙を見つけるために少し観察を始めた。




