36話『大軍の長』
俺たちは死の騎士の元へと走っていた。戦乱の中を潜り抜け、更には何度も襲ってくるただのゴブリンを倒して進んでいた。レベルも上がり、ステータスが上昇したお陰か、突然襲ってくるゴブリンにもすぐに対応出来、殆どのゴブリンは一撃で仕留める事が出来た。
そうして、向かっているあいだに何度も邪魔が入ったがようやく俺とシロは死の騎士が戦っている戦場へと辿り着いた。
だが、当然というべきか俺とシロでは戦いに参加する事すら出来なかった。
レベルも上がり、ステータスもアップしている俺ならなんとか戦いに参加出来るかもしれないが、俺一人が突然入っても邪魔になる気しかしなかった。
死の騎士は魔法使いの敵と戦ったことがあるのか、それとも直感で対応してるのか分からないが、途切れることなく放たれる魔法をすべて躱すか防ぐかしていた。
「これは俺じゃ勝てなかったかも……」
「……ちょっとこれは反則だよね」
俺とシロが今考えてることは多分同じ。お互いに死の騎士が戦ってる敵には勝てないと悟ったのだ。それもその筈、死の騎士の攻撃が一切相手に当たらないのだ。遠距離になれば魔法の弾幕、近くに行けば召喚魔法で盾を作り距離を取られる。こんなの防御が出来ない俺とシロではもはや勝ち目はないだろう。
もちろん、もう一度ホブゴブリンナイトと戦ったら勝てるのか? と聞かれたら俺は無理と答えるだろう。
だけど、それ以上に死の騎士が戦っている敵、ホブゴブリンソーサラーには勝てるビジョンが浮かばなかった。
もしも俺に名前だけじゃなく相手の使ってる魔法が理解出来るのならホブゴブリンナイトよりも勝率は上がるかもしれないが、現実は全く魔法を知らないし、見るだけじゃ名前くらいしか分からない。そもそも、死の騎士が苦戦する時点で俺では勝てる気がしない。
「マキト!! 避けて!!」
「────えっ?」
死の騎士がこちらに気付いてくれたお陰でようやく見つけた隙を突いて戦闘に参加しようとした時だった。
俺の前を何かが横切ったのだ。シロのお陰でぶつかることはなかったが、もしもぶつかっていたら結構なダメージを受けていただろう。
「……お前ら……逃げろ……」
どこからか飛んできた男は地面を転がり、少し離れた所でようやく勢いがなくなって転がるのが止まった。
相当なダメージを受けているのか、フラフラの足でもう一度立ち上がった男、ディルムッドは俺たちに忠告するように掠れた声で一言喋ると、自らが飛んできた方へとまた走り出した。
「ちょ、待てよディルムッド!!」
俺は慌てて走り出そうとしているディルムッドを止める。どうしても俺はディルムッドをボロボロにしている敵を知りたかったのだ。
正直な話、ディルムッドは恐らくこの戦場に居る冒険者の中で群を抜いて一番強い。もちろん、俺や死の騎士よりも圧倒的に強い筈だ。なのに、そのディルムッドが負けてるんじゃこの先ゴブリンの大軍に確実に負けてしまうだろう。
「すまない。止めてくれてありがとう。今君が止めてくれなかったら私は確実に自分の命を投げ出していた筈だ」
「うんうん。シロ的には一回深呼吸して落ち着いた方がいいと思うの!」
「ははっ。ありがとう。まさか君のような可愛らしい女の子にまで言われてしまうとはな。尚更少し落ち着かないといけないみたいだ」
とりあえず、ホブゴブリンソーサラーは死の騎士に任せる事にして、俺たちは少し離れてから話をする事にした。
「それでだ、あんたが戦ってるのは一体誰なんだ?」
ディルムッドをここまでボロボロにした奴の情報を一刻も早く得て、対策を練らないといけない。その為に、話し合いを始めた瞬間に俺はディルムッドへと訊ねた。
「『ゴブリンキング』と呼ばれているモンスターだよ。もちろん、君も分かると思うが、名前の通りこのゴブリンの大軍の大将さ。だけど、今の君たちは絶対に手を出しちゃダメだ。あいつは強過ぎる。それに、今だってこっちを狙って……二人とも!今すぐ屈むんだ!!」
「シロ!! ちょっと痛いけど我慢しろよ!!」
「う、うん!!」
話し合い。元々そんな時間はきっとなかったのだろう。
そもそもゴブリンキングは近くに居た。そんな事はディルムッドが飛んできた時点で気付くべきだった。




