34話 『最後の10秒』
俺の飛び膝蹴りは見事にボブゴブリンナイトの顔面に直撃した。そして、ボブゴブリンナイトの顔から聞きたくない音が聞こえたと同時にボブゴブリンナイトは吹き飛んだ。
勢いがあったお陰か、俺の思っていた距離よりも遥かに遠くに吹き飛び、更にはいい所に直撃したからか、俺が地面に着地する迄にボブゴブリンナイトが立ち上がる事はなかった。
「ふぅ。マジあぶなかったわ…」
俺の目論みが成功したからいいものの、一瞬でも遅れていたら死んでいたと思うと自然と冷や汗をかいてしまう。確かに、俺のスピードは速かった。だが、スケルトンナイトを踏んで飛んだ後はどうだろうか。正直、俺の助走がもうちょっと遅ければ俺はボブゴブリンナイトの咄嗟の掴みかかりに殺られていただろう。
本当に間一髪だった。そう思えるほどボブゴブリンナイトの反応は良かった。こいつがゴブリンの大軍の大将ではないことは分かっている。もしも、こいつ並みの力を持っているやつがあと10体は居たら多分だが俺たちは負ける。いや、確実に負けるだろう。大将はこいつより断然強い筈だ。勝てるわけがない。
「はぁ。やっぱ生きてるよな」
この程度で死ぬわけがない。もちろんそんなの分かっている。ただ、今のこいつは隙だらけだった。立ってはいるものの、脳が揺れているのか、目眩がしているのかは分からないが、足元が少しフラフラしている。
「ぐっ……くっそ。動かねえじゃねえか……」
力を入れても動きづらい。その上、段々と体に受けていたダメージも元に戻りつつある。これはそろそろ疾風迅雷が切れてしまう合図だろう。持ってあと10秒かそこら辺しか時間が無いはずだ。
「痛え、痛えよ、けど、痛えけど動かねえとダメなんだよ!!」
今まで無理やりスピードを上げた代償や無理に跳躍して飛び膝蹴りを使った代償。更には今までのダメージの蓄積。それらが全て俺を襲う。けど、あと10秒。疾風迅雷が使える今の内に、ボブゴブリンナイトに隙がある今の内に仕留めないと、どうしてか俺には死ぬ未来しか見えなかった。
足が折れてもいい。使えなくなってもいい。今はただこいつに勝ちたい。そんな一心で俺は無理やり体を動かす。
走れば走る度に体が軋んで叫んでいるのが分かる。けど止まらない。いや、止まるどころか更に俺はスピードを上げた。もはや意識も失いかけ、目も殆ど開いていない。
それでも俺は標的を定めて、自身の持てる最大の力を込めて、無防備なボブゴブリンナイトの腹へと最後の一撃を放った。
ただ腹を殴っただけ。それでもボブゴブリンナイトの着ている鎧ごと貫いた。
もちろん、ボブゴブリンナイトは俺が近付いてきている事に気付いても居なかっただろう。気付いたら死んでいた。きっとそんな感覚のはずだ。
「……これで、終わったよな……」
腹に大きい穴を開けて息絶えたボブゴブリンナイトが倒れると同時に俺もその場へと倒れた。
もはや体が立っていることを拒否しているのだ。腕も足も両方骨が折れている。そんな体でそもそも立っていられる筈がない。
戦場の真ん中で倒れ込むのは多少危険な気がするが、幸いにも俺の意識が失われる寸前に駆け寄ってくる音が聞こえたから大丈夫だろう。
次目覚めた時は死んでいるか、シロの顔が見れる筈だ。出来たらシロの顔を見たい。そう願っている内に俺の意識は失われた。
ストック……(´;ω;`)