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32話 『敗北』

遅れてごめんなさい(´;ω;`)

 ホブゴブリンナイトへと走る中、俺は自分自身へと守護魔法を掛けた。気休め程度にしかならないかもしれないが、まぁ無いよりはマシだろう。


 格闘術スキルを使い、まず狙うは相手の体制を崩す事だ。幸いにも、格闘術スキルには足払いがある。体制さえ崩せば幾ら身長差があっても頭を狙うことは可能になる筈だ。


「くっそ、こんなの避けれるわけねえだろ!!」


 ホブゴブリンナイトが使ってくるスキルがなんなのかは分からない。が、さっきは複数の剣を飛ばしてきたのに対して、今度は自分の持っている剣を引き抜いて巨大化させて振り下ろしてきたのだ。


 範囲は横には狭いが、真っ直ぐ全力で走っていた俺には避けるのが難しかった。

 デカい故に振り下ろされるのが遅いが、それでもあと3秒ほどで俺へと落ちてくるだろう。


 突然の方向転換は足に負担を掛ける。だが、恐らくだがこの攻撃が俺に直撃すれば守護魔法ごと俺は死ぬだろう。そんな予感がする。


 三秒ともなれば、躱す手段は一つしかない。今よりも更に全力で走り、俺は左斜め前へとスライディングした。

 勢いがあったお陰で間一髪躱すことが出来たが、どうやらホブゴブリンナイトはその隙を見逃さなかったようだ。


 スライディングして動きが止まっている俺の無防備な腹をホブゴブリンナイトは全力で蹴り飛ばした。

 まだ距離はあったはずなのに、俺よりも数倍速く動いて近付いてきたのだ。


「っつっ……がはっ! ゲホッ、ゴホッ、……」


 地面を滑るように吹き飛ばされ、蹴られた痛みと共に意識が朦朧しはじめた。

 口の中には不自然に血の味がし始め、立つのすら難しい。体に力が入らないのだ。


「…………勝てる、わけ、ねえ」


 俺とこいつのレベル差は相当なものだろう。それに加え、ホブゴブリンナイトというだけあって、戦闘の経験がある筈だ。それに対し、俺は殆ど自分で近接戦闘したこともない。始めから勝てる相手じゃなかったのだ。


 諦めて目を瞑り、死を待とうとしたその時だった。戦意を失った俺に興味を失くしたのか、ホブゴブリンナイトは未だに目を覚ましていないシロへと近付いた。


「ば、ばかっ……やめ、ろ」


 俺の掠れた声がこいつに届くわけもない。声を出そうとすれば激痛が走る。それでも、俺はシロが殺されるのだけは避けたかった。

 残りのHPはまだ三割はある。本来のゲームなら全然まだ戦える。けど、現実となっている今の俺の体じゃ無理やり立って歩くのが精一杯だった。


 ふらふらとした足取りでホブゴブリンナイトへと近付く。


「はぁ、はぁ……ま、待てよ。まだ終わってねえぞ」


 俺の声にようやく反応したのか、ホブゴブリンナイトはシロへと進んでいた歩みを止めて、俺の方へと振り向いた。


 そして、俺は気付いたらシロの隣にいた。


 動こうとすれば激痛が走る。HPは残り一割以下になっている。左腕は折れて、もちろん力も入らない。

 どうしていつの間にかここに居て、体力が減っているのかは分かっている。


 だけど、気付いたらここに居たのだ。

 俺に気付いたホブゴブリンナイトが振り向いて全速力でこちらへと向かってきたのは覚えている。


「俺が、弱かったのか……」


 向かってきたホブゴブリンナイトに俺は反撃しようとした。だが、俺の反撃なんてそもそもホブゴブリンナイトには効かなかったのだ。

 俺の攻撃をわざと受けてから、俺の左腕を掴んでここまで投げ飛ばした。そして、その衝撃で左腕の骨は折れて、記憶が少し曖昧になっていたのだろう。


「───シロ。ゴメンな。先に逝くよ……」


 言葉に力を込め、出来るだけいつもの声でまだ寝ているシロに呟いた。

 その間にも、ホブゴブリンナイトは俺たちへと歩みを進めている。先に俺かシロ。どっちが狙われるか分からない。だから、俺はシロの前へと最後の力を振り絞って立った。

 ただ立っただけだ。それ以外には何も出来ない。けど、どうしてもシロが死ぬ姿は見たくなかったのだ。


 それに、あとほんの20メートルの距離をホブゴブリンナイトが進むまでにシロが目覚めて逃げてくれるかもしれない。そんな希望もまだある。

 その可能性だけを信じて俺はシロの前にフラフラして今にも倒れそうな足で立ち、目を閉じて死を受け入れる事にした。

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