31話 『強敵』
シロを守るかのように現れたアイアンゴーレムは、どうやら俺のことを敵視していないようだった。
それどころか、むしろ俺まで守ってくれるようだ。ボスの時にも使用してきた『リフレクトシールド』を俺に展開してくれた上で、その場から動かずにゴーレムアクスを一振りした。
「これが俺達の倒した相手かよ……」
もしかしたらボスとして戦った時よりも強くなっているかもしれない。確かに体格自体は小さいが、手に持っている斧から放たれた真空刃は俺たちと戦っていたゴブリンどころか、乱戦になっている他の冒険者のゴブリンも切り裂いていった。
それも、見事に冒険者には当てずにゴブリンだけを切り裂いたのだ。切り裂いたその数は軽く二桁を超えるだろう。
「……マキト。シロ、疲れた……」
かろうじてアイアンゴーレムに支えられて立っていたシロも遂に倒れてしまった。そして、シロが倒れると同時にアイアンゴーレムも消えてしまった。
幸いにも周りにゴブリンは居なく、更には他の冒険者にもシロがモンスターを召喚できるとはバレてないだろう。
アイアンゴーレムが存在した時間が約10秒程度である意味助かった。
「ったく。しょうがねえな。ほんとは休ませてやりてえところだけど、どうやらそれは無理みたいだわ。ごめんな」
「……足でまといでごめん、なさい……」
「良いから寝てろよ」
「……うん」
シロをお姫様抱っこし、近くにあった岩にもたれかかれるようにして寝かせる。
その上で、俺は一体の敵と向き合った。
そいつが現れたお陰である意味俺の周りからゴブリンが消えたと言ってもいい。多分だが、俺の前に居る敵は大軍の中でも上の立場の敵なのだろう。顔自体はゴブリンと言えるが、防具や武器、それに体格は一時期見たホブゴブリンを軽く超えてさらにデカい。
明らかに俺より強い。
「───待ってくれてたのか?」
「アァ」
未だに全体の総数はゴブリンの大軍の方が多い。死の騎士やディルムッド、その他冒険者達がゴブリンの数を減らしてはいるが、下級冒険者の数が多いのか、一体一体に時間が掛かっているようだ。
「お前以外にもあとどのくらい強いやつは居るんだ?」
答えてくれるかは分からない。けど、無防備な俺を襲わずに待ってくれたこいつだからこそ、もしかしたら話してくれるかもしれないと思ったのだ。
「…………」
「答えるわけねえか」
味方の情報を易々と教えるわけがない。そんな事は当たり前だ。上の立場の奴なら尚更だろう。
「さて、待たせて悪いな。そろそろ戦おうか」
負けるのは分かってる。けど、多分こいつからは逃げられないだろう。そして、逃げたら俺とシロは殺される。だから戦うしかないのだ。
「それじゃ、こっちからいかせてもらうぜ!」
レベルアップしてどれぐらいステータスが上がったか分からないが、こいつに正攻法で勝てるとは思えない。だから俺は卑怯な手で勝ってみせる。
敵へと向かって走り、足に力を入れる。これは、相手が近付いてきた俺に攻撃しようとした時に紙一重で避けてジャンプし目潰しする為だ。
だが、そんな俺の目論みも簡単に防がれた。俺が走って近付くと同時に剣を引き抜き、スキルを発動させてきたのだ。
それも、何本もの剣をこちらへと放ってくるスキル。
「……くっそ!それは無理だろ!」
走りながら避けるにはどうしても数が多すぎる。それに加え、このスキルがいつ止まるかも分からない今は、その場に止まってギリギリで避けるしかなかった。
一分程だろうか。それ以上に長い時間を感じた中で、ようやくスキルは止まった。全て避けきるというのは出来なかったが、致命傷にはならない程度には避けることが出来ただろう。
そして、スキルを避けている中で俺は敵の名前と残り体力を視認する事が出来た。どうやって出来るようになったか分からないが、飛んでくる剣をよく見て避けている内に何故か名前と体力が見えるようになったのだ。
例えば、俺の周りに居るゴブリン達の名前や体力、他にも死の騎士と対峙している他とは違うゴブリンの体力や名前まで見える。
きっとスキルではなくて元々このゲームに標準機能としてあるのかもしれないが、この機能は俺にとって役に立つ。名前はともかくとして、何よりも体力を知ることが出来るのが役に立つのだ。
俺の前に立ち、スキルを発動しても一切の息の乱れすらないモンスター、ホブゴブリンナイト。
どうしてか分からないが、こいつは倒れているシロを狙おうとすらしない。あくまでも俺との一騎討ちを望んでいるのだろうか。
理由はとにかく分からないが、こいつのお陰で他のゴブリン達も寄ってこないし、シロに守護魔法を掛ける必要はなさそうだ。
「さて、と、そろそろ反撃させてもらうぜ」
少し疲れている自分の体を動かし、俺はホブゴブリンナイトへとまた走り出した。