28話 『緊急依頼』
緊急依頼の音が未だ鳴り響く中俺たちは宿屋から飛び出してアナウンス通りに街の入り口へと向かった。
宿屋から入り口へと走っている最中にも、俺たちと同じような冒険者が何人も急いでいるのが見えた。
ただ、急いでいる冒険者たちもどこかしら不安が隠せない様子で、仲間の人とアイテムの確認をしつつ向かっている。
「な、なぁ。そういや俺たち一切アイテムねえよな?」
「まだ買ってないから持ってないー!」
俺にアイテムはない。もちろん、死の騎士にもシロにもないだろう。
だが、こんな街が慌ただしい中でアイテムを買うわけにもいかない。とりあえずはアイテム無しで向かうしかないのだ。
「お、ここか。結構な人が居るな」
「……はぁはぁ。シロ疲れた……」
『マスター。雪山からゴブリンの大軍が来ています』
街の入り口に集まっている冒険者は俺たちを含めて三桁居ないくらいの数だった。
街にまだ居る残りの冒険者を含めてようやく三桁に届くくらいだろう。
それに対し、死の騎士が見ている方向に居るゴブリンの大軍は確実に四桁は超えているだろう。
そして、それほどの大軍を従えているということは大将は多分強い。それに、雪山にしっかりとこの量で暮らせていたのだから、頭も良いはずだ。
数の差でも致命的なのに、もしもゴブリンの強さが冒険者を軽く上回っていたら俺たちに勝ち目はないだろう。
『お集まりの冒険者の皆様! 集まっていただきありがとうございます! これより、ギルドからの緊急依頼を発注します。標的はゴブリンの大軍。報酬金は倒した数及び、貢献度となります!』
俺たちに冒険者登録をしてくれた受付の女の子が魔法で自分の声を大きくし、俺たちへと内容を伝えてくれた。
ただ、内容にあるゴブリンを倒した数はどうやってカウントするのだろう。エフェクトとなって消えてしまうのだから、ドロップ品で決めるのだろうか。
そんな事を考えていたら、何故か俺の視界の左上にゴブリン討伐数という文字が現れた。
「こういう所はゲームっぽいんだな」
「マキトー。これって倒した数は合計なのー?」
「うーん。分かんねえけどとりあえず倒せば良いんじゃね?」
「ん!分かった! マキトに守ってもらいながら戦ってみる!!」
正直張り切っているシロには悪いが、あんまり無茶はして欲しくない。将来的にはシロにも戦闘はして欲しいと思ってるが、まだスキルもレベルも低いうちは怖いのだ。
まぁ幸いにも俺の近くに居てくれるらしいので、俺が全力で守れば問題はないだろう。
「おっし。そろそろゴブリンの大軍が近付いてきたな」
『マスター。私に独断行動の許可を頂けませんか?』
ゴブリンの大軍の足音が聞こえ始めた時、死の騎士が俺へと話し掛けてきた。
どうやら、一人でゴブリン達と戦いたいようだ。
出来れば死の騎士にもシロを守るのを手伝ってもらいたいが、相手の量が多い。だったらこっちも強いのを攻めに出した方が賢いだろう。だから、俺は死の騎士には独断行動をしてもらうことにした。
「おう! 大丈夫だ! 頑張って来いよ!」
『感謝致します。マスターの守り手たる私がマスターを守れぬ事に深きお詫びと共に、マスターの期待に必ずや応えるよう、尽力を尽くします』
「そ、そうか。そんなに畏まるなよな。お前はもうなんていうか、俺にとってテイムモンスターってより仲間なんだからよ」
『有り難きお言葉……!』
俺の言葉を聞いた後死の騎士は俺たちから離れ、先頭へと躍り出た。
「おいおい。下級冒険者が無理はするなよ。この上級冒険者である私、『ディルムッド』が先陣の火蓋をきってやるのだから」
大きな槍を背中に背負い、金色の髪をたなびかせながら真っ白な鎧の音を響かせて死の騎士の隣へと立ったが、どうやら死の騎士は一瞥をして無視をしたようだった。多分、ディルムッドとやらの声を聞く必要が無いと判断して無視したのだろう。
だが、このディルムッドという男はどうやらこの街一番の冒険者のようだ。
彼が来た瞬間、冒険者のテンションが明らかに高まったのが目に見えて分かる。
流石は上級冒険者という感じか。
「よし。とりあえず俺も隠れてモンスター召喚……」
人前でモンスターを召喚する訳にもいかないので、少しだけ離れて召喚しようとした時だった。
足音が大きくなり、ゴブリン達の大軍は姿を現した。
「冒険者諸君! 日頃暮らしている街への感謝を込め、今ここで街の崩壊を防ごうではないか!」
『マスターの邪魔をするものは全て排除する』
ゴブリンの姿が見えた瞬間、先頭に居た死の騎士とディルムッドは二人とも武器を構えて走り出した。
未だモンスター召喚出来てない俺だが、どうやらゴブリン対冒険者の戦いは始まったようだ。