19話 『集団との出会い』
シロとスケルトンナイトと共に歩きづらい雪の上を丁寧に歩く。
シロが何度か走っているが、幾度となく転んだせいか、小さい体なりにしっかりと歩いていた。
雪が意外と積もっているお陰か、たまたまこの雪山にモンスターが居ないからなのか分からないが、運良く俺たちはモンスターと遭遇せずに居る。
「うーん。幾らモンスターが出ないとはいえ、やっぱり後ろが不安だなぁ……」
「マキトが強いんなら大丈夫だと思うよ?」
シロは俺を励ましてくれたのかもしれないが、残念ながら俺は弱い。俺のモンスターが強いのだ。
「あ、そうか。モンスター召喚すればいいじゃん!」
本を使えばテイムした状態でスケルトンナイトを呼び出せる。MPは減るが、今の状態ならまだ大丈夫だ。
「モンスター増やしすぎると……怖がられちゃうよ?」
「あ、そうかぁ……。街に着いたりしても困るもんなぁ」
「そんなに後ろに必要かなぁ? 私的には要らないと思うよ?」
「それもそうか。守護魔法も覚えたし、とりあえずは大丈夫か」
ダンジョン内で俺自身が今のシロのように守られてたから少しだけ不安なのかもしれない。モンスターを召喚するのはやはり、普通の人から見たら危険な行為であるのは間違いないだろう。
そもそも、モンスターは人間の敵であるのは間違いない。
モンスターの中にも種類はあるだろうが、人間を襲うモンスターも少なからず居る。むしろ多いだろう。
そんなモンスターを人間が召喚したらどうなる? 明らかに危険だ。
もしも俺が逆の立場なら村や街から追い出すかもしれない。そうなると、モンスターをテイムするのは最小限に抑えた方が最適だろう。
「はぁ。こういう時に限ってモンスターに会うんだよなぁ」
「突然ため息つかないでよー! せっかく私が自由になれて今は晴れ晴れした気持ちなのに暗い気持ちになっちゃうじゃん!」
「お前はちょっと変わりすぎだよ……」
「そうかなー?」
シロなんてダンジョンの扉の奥に居た頃から圧倒的に見違えるほど変わってる。顔とか髪とか外見的な事じゃなく中身だ。
子供っぽくなってるのと、なんていうか、明るくなってる気がする。ダンジョン内では気弱そうな子供に見えたのに、今じゃ活発な女の子だ。
「そもそもお前はもっと臆病な性格だっただろ? それが今や変わってるじゃないか。自分でも分かるだろうに」
「ううん。私、元々こんな感じだよ? 確かに、あの扉の中じゃずっと暇だし、出れないし、窓から外を見ることしかできなかったし、それに、人もマキト以外には誰も来なかった。そんな時にマキトが来たら喋り方も変わるに決まってるよ!」
「いや決まってるのか!? 」
「うんうん。まぁまぁ、私のことは普通に人間の女の子として扱っていいから」
「なんでそんなに上からなんだよ……」
こうして呑気に雑談しながらシロと話せているのも、先頭でしっかりと索敵してくれているスケルトンナイトのお陰だろう。ほんと、こいつには守ってもらってばかりだ。
「───シロ、スケルトンナイト。止まってくれ。俺の後ろから音が聞こえる」
「……分かった」
シロが小声で返事をし、俺の声に応えるようにスケルトンナイトも屈むようにしてその場に止まる。
しっかりと屈むのに少し感心してしまったが、今はそれどころじゃない。
突然聞こえてきた音。恐らく、今まで雑談してたから聞こえなかったんだろう。
微かに聞こえる音だ。声には掻き消されてしまうような音。けど、音を無くせばその音はしっかりと聞こえてくる。
「この音が雪の中を歩いて進んでるのは分かるんだけど……」
雪の中を歩けば、当然雪を踏むような音しか聞こえない。
けど、そんな音でも何かが居るという事だ。この雪山に俺たち以外の人間が居るとなれば、それは近くに村や街がある可能性も高い。
けど、ダンジョンもあるような雪山に果たして人が居るかどうかと考えれば、やはりモンスターという可能性を考えてしまう。
「私が見てこようか?」
「ばかっ。お前が行ったら真っ先に死ぬだろうが!」
シロが小さい体を利用して見に行こうとしたが、さすがにそれは止める。
高確率でモンスターだと言うのに、シロを行かせればすぐに殺されてしまうだろう。
「ねぇねぇ。今度は音が近付いてきてない?」
シロの言葉は確かだった。
さっきまでは遠さがっていた筈の音が、今度は明らかに近付いてきている。俺たちの声が聞こえてしまったのかもしれない。
「くっそ。こうなったら先手を打つぞ!シロは俺の後ろに隠れとけ!」
「うん! 分かった!!」
その場に伏せていた体を勢いよく起き上がらせ、音の主を確認する。
どうやら、本当にモンスターのようだ。距離にして50メートル。まだ距離はある方だが、その程度の距離からモンスターの種類は判別出来た。
「ゴブリンの集団か」
先頭に立ち、一際大きい槍を持つのが恐らくホブゴブリンだろう。その後ろに居る四体のゴブリンは弓と小さめの槍、斧を持っている。雪山にどうしてこんな集団が居るか分からないが、このゴブリン集団は俺たちを敵と認識してくれたようだ。ご丁寧にホブゴブリンが指示を出している。
「スケルトンナイト! 距離を測るいい機会だ!ゴーレムアクスを使え! 」
弓を持つ2体のゴブリンが俺達目掛けて矢を放ってくる。
だが、そんなものスケルトンナイトの持つゴーレムアクスの風の前では無意味に等しい。
50メートルの距離を難なく飛ぶ風の刃は2体のゴブリンを易々と切り裂き、エフェクトへと変えた。
残るは3体だ。既に槍を持って俺たちへと接近してきている。それも、しっかりと3方向に分かれての攻めだ。
「スケルトンナイトはホブゴブリンを頼む! 俺は2体のゴブリンを仕留める!」
「マキト。勝てる?」
「あぁ! もちろんだ! 見せてやるよ。俺の魔法をな! 」