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16話 『決まっていた答え』

 笑顔で殺してくれと言ってくる女の子。

 確かに、この子の言いたいことは分かってる。心ではちゃんと理解してるし、そうしないといけないのも分かってる。


 でも、それでも俺はやっぱり女の子をいや、こんな小さい子を殺すなんて出来ないし、ましてや無抵抗な人を殺したくもない。


「な、なぁ、そもそもなんで人間がダンジョンコアなんだ?」


 正直俺から話し掛けるのも結構緊張する。なんせほぼ話しかけたことも話しかけられたこともないんだ。

 唯一幸運なのは、この子が小さいということ。仮にこの子が女子高生くらいだったら俺はもうこの場から逃げていたと思う。……って、こんなことは今はどうでもいい。


 それよりも、普通ダンジョンコアが人間なんて有り得ない筈だ。ゲームの世界に例外があるとして、運営側もさすがにこんな小さい子をプレイヤーに殺させようとは考えないだろう。


「うーん。分かんないです。そもそもわたしが何処で生まれたのかもわかんないですし、気付いたらこの部屋に居て、誰とも会わずにただボスを倒した方に殺されろ。とだけ命じられてましたから」


 命じられた? 運営にだろうか。いやでも、まず生まれがわかんないというのは、多分元々ここで生まれたからの可能性が高い。記憶がここしかないから、そう思うのだろう。


 となると、あとは他のダンジョンコアを知ってるかも聞いときたい。返答によっては、扉の奥の部屋で生まれたというのが間違いにもなるし。


「命じられた、か。まぁそこはとりあえず置いといて、き、君は他のダンジョンコアを知ってるのかい?」


 我ながら喋り方が気持ち悪い。

 今はなんか冷静だから早口になってないが、リアルだと完全にオタク特有の早口になってしまってるだろう。


「他のダンジョンコア……」


 必死に考えてくれているのか、顔が少しだけ険しくなっている。

 まぁそれはそれで可愛いからずっと見ていられるが、しかし、さすがに犯罪チックなので自重しておくことにしよう。


「ダメです。上手く思い出せません。なんか、わたしが生まれた時? かな。そんな時に、話してた事は少し思い出せるんですけど……」


「もしも話せるならそれについて聞いてもいいか?」


「はい、大丈夫です。でも、ちょっと無理やり思い出そうとして頭が痛いです。少し寝てからでも良いですか?」


「分かった。それじゃ、君の部屋に入らせてもらうよ。大丈夫。何もしないから」


「殺してくれても構わないですけどね……」


 女の子は本当に辛いのか、部屋に入り簡素なベッドへと寝転んですぐに寝てしまった。

 これだけ見るとただの小さい女の子だ。


 けど、実態はダンジョンコア。それも見たことも聞いたこともない人間型だ。


「これくらい小さい子ならだいぶ話せるな……」


 小声で呟きながら少しだけ部屋を見る。

 スケルトンナイトにも部屋に入ってもらい、何もないとは思うが、念の為警戒しといてもらった。


「小さい窓。それにベッドと……」


 それだけだった。この部屋にあるのはたったそれだけ。

 机もなく、椅子もない。よく見れば埃も多く、生活環境は最悪だ。

 ご飯や水がない所を見るに、やっぱりこの子は人間ではないのだろう。きっと、食事などが要らないんだ。


「この子もよく見れば埃だらけだな……」


 ちょうど窓から明かりが入る位置にベッドがあり、そこで寝てる少女を見てしまう。

 埃だらけでも綺麗な容姿は変わらず、明かりによってより一層可愛く見える。


「……ん。すいません。もう大丈夫です」


 ほんの10分程度しか寝ていない筈だ。これだけの睡眠で大丈夫なのだろうか。


「まだ寝てても大丈夫だぞ?」


「いえ、本来私は休まなくてもいい体ですから。ただ疲れた時に眠る、暇つぶしに窓から外を見る。それだけしかわたしの楽しみはありませんでした。けど、今は貴方という人と話すのが楽しい。だから、もう休息は大丈夫です」


「そっか、ならいいんだ。それじゃ、さっきの話を聞かせてくれるか?」


「はい。と言っても、断片的な部分しかありませんけどね。お役に立てれば良いですが……」


 それから、女の子の話した事は本当に少ない情報だった。

 でも、そんな情報でも俺にとっては知りたかった情報であり、この子を絶対に殺さないと決めるに値する情報だ。


「人間型の女の子は希少種……か」


 断片的な情報をさらに省略すると、この子がダンジョンコアの中でも希少でレアという事だ。

 そして、さらにこの子のステータスやスキルについてだが、どうやらダンジョンコアにもしっかりと設定はされていた。


 けど、ステータス上は全部が最弱。スキルもない。何のためにあるのかも分からない位だ。


「さて、それじゃ、そろそろ殺してくれませんか? じゃないと、わたしが召喚するんじゃなく、このダンジョン自体がアイアンゴーレムというボスを生み出し、もう一度あなたは一から攻略しないといけなくなってしまいます」


「そうは言ってもなぁ……殺せねえよやっぱり」


「大丈夫ですよ。私は弱い。すぐに殺せます。きっと、抵抗出来ないようにステータスも最弱でスキルも無いんですよ。抵抗出来ずに人を殺す。けど、私はダンジョンコアだから。人間の中には人を無抵抗な人を殺したいと思う人もいるかも知れません。そんな人の為にきっと私は生まれたんですよ」


 ダメだ。この子の精神が大人すぎる。そんな、無抵抗で死ぬために生まれてきたなんて……


「ダメだよ。そんなの悲しすぎるじゃん……」


「───でも!早くしないと!」


「君がダンジョンコアで死にたいのは分かってるさ。けど僕は殺さない。違う道を選ぶから」


「えっ? 違う……道?」


「ねぇ、この窓は外に繋がってるんだよね?」


「た、多分そうだけど……でも、その鉄格子からは出れないよ?」


 ダンジョンの中なのに外に繋がっている窓がある。それは俺にとって好都合だ。

 きっとそろそろアイアンゴーレムがボスとして復活してくる頃だし、戻るという選択肢はない。


 だったら道は一つだ。


「ちゃんと捕まっとけよ」


「わわっ!」


 正直、自分がここまで女の子に優しく、さらにはなんこ躊躇もなくお姫様抱っこが出来るとは思えなかった。

 けど、多分それは僕自身がこの子の話を聞いて助けたいと思ったからだ。


 だから、俺はこの子をなんとしても死なせない。せっかく生まれたんだ。死ぬために生まれたなんて許されないんだ。

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