114話『俺の全力』
クロが大剣を構え、俺たちに向かって走り出すと同時に、今までのクロが纏った事もないような漆黒に染まったオーラを纏い始めた。これもまたアーサーやアリアの持つスキルの一種なのかもしれないが、どちらにせよオーラを纏うということは戦闘能力は以前のクロとは段違いに変わっていると考えて良いだろう。
「シロ! メア! お前たちは援護をー--っ!?」
クロと俺たちではそれなりに距離があったはずだが、俺がシロとメアに言葉を掛けようとした瞬間には既にクロは俺の頭上へと剣を振り下ろしていた。
だが、クロの大剣が俺に当たるよりも早く、俺はスキルの『リミッター解除』を発動し、大剣を槍で受け止める事が出来た。
「くそっ! 馬鹿力かよ!!」
リミッター解除を発動しているにも関わらず、クロの大剣へと掛ける力には敵う事はなく、ジリジリと大剣は俺へと迫ってきていた。
「マキトから離れて!!」
「ますたーをきずつけないで!」
どうすればクロの大剣を受け流せるかを俺が考えていた瞬間、クロに対してシロとメアが攻撃を繰り出していた。けれど、シロとメアの攻撃にクロは焦る事もなく大剣を手から離し、シロのレイピアを受け止めてそのままシロごと投げ飛ばし、メアの繰り出した真っ赤な短剣も片方の手で握り潰して防ぐという行動をとったのだ。
その行動はリミッター解除を発動している俺がギリギリ目で追えるほどの速さであり、次の瞬間には離した大剣をもう一度掴んで俺へと横薙ぎに振るってきた。
「……っ!? 受け止めきれねぇ……」
横薙ぎに振るわれた大剣を槍で受け止めようとするが、クロの力の方が俺よりも圧倒的に高く、槍で受け止めた上で俺はそのまま数十メートル吹き飛ばされてしまった。
「マキト!! 大丈夫!?」
シロもクロに投げ飛ばされたにも関わらず、俺が吹き飛ばされた事によって心配してくれたのかメアと共に近くへと駆け寄ってくれていた。
「あぁ。なんとか受け身はとったからまだ動ける。だけど今の攻撃を受けて分かったよ。シロとメアは絶対に接近戦をするな。確実に死ぬぞ」
「わかった。メアはますたーを援護する」
「シロも全力で援護する! ゴーレムの力を使っちゃうんだから!!」
「シロもメアもあんまり無理はするなよ? 危なくなったら俺を置いてでも逃げろ。わかったな?」
「「うん!!」」
俺たちが悠長に会話をしている中、先ほどまでは殺意を剥き出しにしながら襲ってきていたクロの動きは止まっていた。一体なにが起きているのかは分からないが、未だに止まっているクロは隙だらけでしかない。
「ちっ。もう体が痛んできてやがる」
隙だらけのクロに向かって走り出すが、リミッター解除を使いながらの戦闘は今までの蓄積された疲れと相まって体への相当な負担となっており、数分と満たない短時間の経過ですら、頭痛が起き、体のあちこちが悲鳴を上げる程の痛みとなっていた。
しかし、痛みで立ち止まる訳にはいかない。
「いくぞクロ!! これが俺の全力だぁぁぁぁあ!!」
痛みをも無視して放つ技。それこそが『串刺し』である。ゴブリンキングをも貫いたそのスキルは、クロを標的と定め、次々と貫いていった。
身の危険を感じているのか、クロは地面から突き出てくる槍を何本も砕き、自らに刺さる槍を引き抜くが、それを上回る勢いで槍は現れ、数十秒後にはクロの動きは完全に止まっていた。
「これで終わりだぁぁぁぁあ!!!」
動きの止まったクロの心臓目掛けて俺は槍を構えて走り出す。リミッター解除を使い、限界にまで引き上げられたその速度はかつて放った神速突きをも遥かに超える速度であり、全身に掛かる痛みも遥かに上回っていた。
(ーーークロ。今度こそあの世で安らかに眠ってくれ……)
クロへと穂先が刺さるその瞬間に願った俺の思い。けれど、その願いは無意味となった。
「止まってマキトーー!!」
「ますたー!!!!」
シロとメアが叫ぶ声が聞こえるが、既に穂先までクロへと到達しようとしている俺の動きは止まる事はなかった。
そして、次の瞬間に俺はシロとメアが俺へと叫んだ意味を知るのだった。
あと二話か三話で完結です。よろしくお願いします!!
ちなみに、今恋愛小説を書いておりますので、読んでくださるととても嬉しいです。