113話『覚悟』
アリアと共に警戒しながら魔王城を進んで行き、俺たちは遂に魔王の鎮座している玉座へと辿り着く事が出来た。
「ここから先は一歩間違えれば本当に死んでしまうわ。それに、魔王の戦闘中に蘇生させてくれるほど魔王も優しくないわ」
「あぁ。もちろんわかってる。俺たちがアリアにとって足手まといになる事もな」
「そうね。けど、私はそもそも貴方達に魔王と戦わせるつもりはないわ」
「どういう事だ? ただ俺たちには見てろって事か?」
「シロは戦うよ! 大切な人が戦ってるのに見てるだけなんてシロは出来ないもん!」
「メアはますたーが戦うなら戦う!」
「違うわ。そういう事じゃないの。貴方達には辛いかもしれないけど、最後の四天王の相手を任せたいと思っているわ。恐らくこの先には魔王と四天王の一人が居るもの。だから、そっちをお願いしたいの」
「そういう事か。それなら魔王はアリアに任せるよ。四天王は俺たちに任せてくれ」
玉座へと辿り着く道中、俺たちは不自然とも思えるくらい誰にも襲われなかった。てっきり最後の四天王がどこかしらで待ち構えていると思っていたが、どうやらその考えは杞憂だったようだ。
きっと最後の四天王は魔王の護衛なのだろう。だからこそ玉座で魔王と共に居る。アリアはそんな風に考えているようだった。
「それと、最後に言っておくわ。もしも四天王を倒しても魔王と私の戦闘に入ってこないで欲しいの。勿論、貴方達がここまで付いてきてくれた事には感謝してるわ。けど、貴方は本来この世界には存在しない人達。魔王と勇者の戦いはこの世界の問題だもの。私が終止符を打つから貴方達は自分たちの目的を果たしに向かいなさい」
「……そうか、分かった。俺たちは現実世界への帰還方法を探す事にするよ」
「ありがとう。貴方なら決断してくれると思ったわ。シロちゃんとメアちゃん。マキトのことをお願いしても良いかしら? 貴方達二人も私個人として魔王と戦わせたくないの。私も勝てるか分からないからね。もしかしたらの可能性を考えた時、二人をマキトと離れさせたくないの……」
「うん! マキトのことは任せて! 大丈夫。勇者様のアリアちゃんの事をシロは信じてるもん! 勝てるよ!」
「メアは初めからますたーとはなれないもん! ますたーのはメアに任せて!」
「そっか。ありがとね。それじゃ、私たちの最後の戦いに行きましょうか。覚悟は良い?」
「おう!」
「「うん!!」」
アリアが玉座へと続く扉を開け、俺たちは中へと入って行く。
入った瞬間に感じる威圧感に押しつぶされそうになりながらも進み続け、俺たちは玉座に座る魔王と対峙した。
(目を合わせられねえ。なんだこいつの力は……)
今まで感じた事もないほどの圧が少し離れているにも関わらず感じられる。少しでも力を抜けばすぐさま膝をついてしまう程の圧だ。
『カカカッ! ようやくきたか! 待ちわびたぞ! さぁ、我に最高のショーを見せるが良い!』
「ッ!? 何を言って---ッ!?」
「ど、どういう事なの?」
魔王の玉座の裏に姿を隠していた最後の四天王。それは、俺たちがもう一度会いたいと思っていた相手であり、かつて仲間だったクロだった。
『良いぞ良いぞ! その表情! こやつを蘇らせて四天王にしたのも存外悪くなかったようだ!』
「お前!! 俺たちを笑う為にクロを蘇らせたのか!」
『クハハハッ! 当然だ! 我は愉悦を求めているのだ! 貴様らのかつて仲間だった者を戦わせ、互いに殺し合わせる事こそ我にとっては最高の愉悦よ! さぁ、存分に殺し合うが良い!』
「魔王。きさまぁぁぁぁ!! 俺たちがどんな気持ちでクロと別れたと思ってんだ! こんな風に再会することなんて望んだねえんだよぉぉぉぉお!!」
地面を蹴り、槍を構えて魔王へと突き進む。だが、俺の行く手を阻んだのはシロでもメアでもアリアだった。
「うろたえるな! シロを見ろ! 耐えているぞ! 貴様がうろたえてなんになる! 魔王は私が必ず殺す! 貴様はもう一度仲間を天へと送りなさい! それが蘇り狂わされた仲間へと出来る最後の優しさよ!」
「くそっ! なんでまた俺は戦わなきゃならねえんだよ!」
「前を見なさい! かつての仲間をしっかりと目に焼きつけなさい! 誰だってかつての仲間と敵として再会するのは嬉しくないわ! けど、蘇らされた仲間もこんな再会は望んでないはずよ! きっと、貴方が自分を超えてくれると信じてる。だから貴方が自身のかつての仲間を想うのなら、そこにいる仲間を最後の四天王として、泣きながらでも戦いなさい!」
「くそが! 分かってる! 分かってんだよ。あぁ、クロだって嬉しい訳がねえ。あいつはあいつなりの覚悟を持って死んだんだ。その死をこんな風に侮辱するなんて許さねえ」
クロともう一度戦いたくはない。けど、クロは蘇らされて苦しんでいるだろう。それを解放するには俺たちが戦うしかないのだ。
……それに、どうやらシロはもうクロと戦う覚悟は出来ている。
「クロ! 済まねえな。こんな風にまた会う事になっちまってよ。お前の苦しみ、喋らなくても伝わってくるからよ。俺たちの手でゆっくり休ませてやるよ」
「……マキト。どうしても辛いならシロが戦うよ?」
「ますたー。泣いてる……」
「大丈夫。大丈夫だ。覚悟はもう決まった。クロを解放してあげなきゃならねえからな」
涙を拭い、槍を構える。シロとメアも俺の横に立ち、それぞれ戦闘態勢を取ると、クロは見覚えるのある大剣を一言も発する事なく構え始めた。
きっとクロが喋ることはない。それに、理性に加えて俺たちを覚えている事もないだろう。ただ四天王として魔王に立ちはだかる俺たちを殺す為にクロは戦うはずだ。
『クハハハハッ! 愉快愉快!』
「黙りなさい! 魔王、貴方だけは勇者であるこの私が必ず殺してあげるわ!」
『やれるものならやってみるが良い! 嬲り殺してやろう!』
俺たちがクロと戦おうとしているのを見て魔王が笑い、アリアが堪えきれずに剣を魔王へと振りかざす。
こうして、俺たちはかつての仲間であるクロと、アリアは世界の命運の為に魔王との戦闘を始めたのだった。