ドライバーがいないと動けない
トラック転生して何するんだよ
____【ガソリン残量57パーセント】______
何故か異世界のトリップしていたトラックはトラック故に放り出された森の中央部でただ佇んでいた。
トラックがいるのはモンスターが巣くう森。
人間たちは『ドリスカの森』と呼び近づかない場所だった。
ドリスカとは現地の人々の言葉で≪悪夢≫という意味である。
一度入ったら悪夢としか思えないようなおぞましい経験をして死ぬか、無事に生きて帰ってきたとしても精神が崩壊しているからだ。
そんないきなり人間ならば詰みであった場所でスタートしたトラックだったが、トラック故に生命反応もなくドライバーがいなければ動かぬただの鉄の塊だったのでただ食人花や毒草が蔓延る森で魔獣に餌として襲われることもなく静かに停まっていた。
折角の異世界トリップだったがトラック故にただこのまま錆びていくばかりだった。
と思われたが。
ある日変化があった。
この悪夢の森に巣くう魔獣の多くがただ本能のままに破壊し弱者を食べて生きるだけの化物だったが、なかには少なからず知性をもつものもいた。
例えばゴブリンである。
ゴブリンたちはこの森に人間が近づかない事と、魔獣の嫌う匂いをもつ毒草を利用してこの森で逞しく生きていた。
そのゴブリンたちがトラックを発見したのである。
偵察ゴブリンの報告をうけた長を従えた一つのゴブリンの群れが最初は恐る恐るとトラックを囲む。
トラックは何もしない。というか出来ない。
ゴブリンたちは慎重に近づき様子を伺ったが暫くすればそれが無生物とわかり図々しくトラックをつついたり舐めたりしはじめた。
中でも好奇心旺盛なものは扉の開き方を発見し、運転席に乗り込み色々と触り始めた。
しかしながら、幸か不幸かトリップした際にどういう運命の悪戯か鍵は現世に置いてきぼりにされたので万が一にでもエンジンがかかる可能性は0であった。
だんだんと大きなトラックへの不安や恐怖が薄れたゴブリン達は元々の乱暴な性格のままに無抵抗なトラックを各々の獲物で殴ったり、その寸胴な体から生える固く太い足で蹴り始めた。
トラックはただされるままである。
少しずつあちこちの塗装が剥げたり、車体が凹みはじめる。
ぎゃっぎゃっと下品な笑いをあげゴブリンはさらに乱暴を始める。
この森で下層に位置するゴブリン達は久々に自分より弱い良い玩具を見つけて、常日頃の鬱憤晴らしをしている意味もあった。
ある一匹がとうとうタイヤに槍をふりあげる。
車にとっての命である。
タイヤが無ければ走れず車はただの鉄屑だ。
だがそこで奇跡が起きた。
エンジンがひとりでにかかり、まさにフロントタイヤの前に立ち槍を振りかざすゴブリンをひき殺した。
ゴブリン達が驚きの声を上げる。
ゴブリン達はそして弱者が逆らった事に激怒し、トラックに襲い掛かった。
トラックは怒り狂うように激しく震えると次々とゴブリン達を振り飛ばしその大きな体でひき殺していった。
暫くすればそこはゴブリン達の死骸と血の海になった。
トラックはブルるんと一つ満足気にエンジンを鳴らすと眠りにつくように血にまみれた車体を元々あった場所に停車させた。
よく見れば、凹んだドアなどは元に戻っていて塗装は前よりも少し綺麗なものになっていた。
トラックはゴブリンを倒す事によりレベルがあがっていた。
・トラックはスキル≪自動運転≫を開放した!
・トラックはスキル≪自己回復≫を習得した!
_____【ガソリン残量41%】_____
転生チートが人間だけのものだとは限らない