059 センターライン
「木野は、真イスラム国から奴隷の解放を行なったのか? それで真イスラム国を潰したんだな」
「それもあって、欧州の闇ギルドが魔王候補に選んだようです」
美杉への説明は、北条に行なったモノとほとんど変わらない。
木野がなぜ真イスラム国と戦ったのか? なぜ欧州でテロを行なったのか? なぜ、東京でテロ騒ぎを起こしたのか? そのあたりの事情だった。
「魔王候補に選んだのは、世界中の冒険者ギルドに木野を狙わせるのが目的かもしれんな」
「木野は言ってました。欧州じゃ、一部の冒険者が闇系ギルドと繋がってると」
「ふむ」
美杉は、羽田空港事件後、欧州の冒険者ギルドに連絡を取っていた。
そのあたりの事情は、俺よりも詳しいはずだ。
「それで。木野から、奴隷を1人あずかったと? それの礼として、スキルの入った魔石をもらったんだな?」
「はい」
「元奴隷の少女か」
エルがどういう扱いを受けていたのか?などの説明はわざわざしない。
そんなことはエルの容姿を見れば理解できてしまうだろう。
俺が、木野のことを話したくないのは、エルがそういう目で見られる機会を減らしたいと勝手に考えていたからだ。
警察や自衛隊までが関わっている問題だが、今はもう覚悟ができていた。
「日本の冒険者ギルドの動きは、どうなるんでしょうか? 俺を許してはくれないですよね?」
「ギルド相手に抗ってもいいってツラしてるぜ。お前」
「俺もエルと色々ありましてね。木野との約束も守りたい」
「バーカ。まったく。翔一さんか、お前は。どう転んでも隠し通せやしないのは分かってただろ。意地をはるんじゃねーよ」
目を覚ました北条は難しい顔をして黙っている。
美杉は北条に向かって言った。
「警察はどうするつもりなんだ?」
「海外の政府から、正式に木野の捜査依頼があったわけじゃありせません。あちらのギルドから、日本政府にリークがあっただけですから。エルさんの事を知る者も日本にはいないでしょう」
「ふん。北条は黙っているつもりなんだな」
「エルさんには、私も借りがあります」
「東京支部はバカばかりだな」
美杉は、目線を俺に移して言った。厳しい目付きは怒りからだろうか。
「うふ。津神さんらしいわ? 弱い者を守るためなら、どんなに強大な敵にでも挑む覚悟をお持ちなんです。素敵です」
「え?」
アンヌの言葉に、美杉が驚く。
「だって、そうじゃありません? 冒険者ギルドや日本政府に逆らってでもってことでしょう?」
「おいおい。アンヌ君、君も木野の事件は無関係ではないだろう」
日本政府に逆らってでもかぁ。
『ちょっと恥ずかしいな。厨二感が酷すぎる』
アンヌが北条に詰め寄り、手を握って言った。
「北条さんも素敵です。友情のために、上司や警察、政府にまで逆らうなんて」
「え? ま、まぁ、その。と、と、当然ですよ! ははははは」
「私の上司も理解してくれるといいのですが。。。」
アンヌは北条の手を取ったまま、美杉へと流し目を送った。
美杉はうろたえて後ずさる。
「え? お、おいおい。待ちたまえ、アンヌ君。君は、もしかして、俺が涼を罰するとでも思っているのかい? 冗談言っちゃいけないよ」
美杉は、デレる北条から、アンヌの手を引き剥がす。それから、俺の方を向いて言った。
「涼、心配すんな。冒険者ギルドってのは、冒険者個人の判断に口を出したりしねーんだ。まぁ、関係各所との窓口になってる俺は、無関係ってわけにはいかんがな」
「はぁ」
「よく分かってないってツラだな」
「いや、まぁその」
「いいか、冒険者ギルドは、冒険者にクエストを出したり、力を与えたりしてるだけだ。冒険者個人を、政治や思想、むろん信仰で縛るなんてことは起こりえない。安心しろ」
「えと、でもそれじゃあ」
「まぁ、日本の冒険者ギルドの場合、TOPが特殊だからな。ただ、人類の幸せを願ってるだけさ。今回のお前の行動を知ったら、あの方は喜ぶだろう。むしろな」
「えっと、それって」
「ここまでだ。これ以上は教えてやらん」
不敵に笑う美杉の迫力に、俺は何も言い返せなくなった。
「北条さんは知っているんですの? どんな方がTOPなのか?」
「いや、いろいろ勘ぐったりするんですが、はっきりとは。。。」
「北条は、いずれ本郷警視総監から聞くことになるかもな」
警察官冒険者をまとめているのは、本郷という名のベテランAランク冒険者らしい。
俺は、それを御室から聞かされていた。
「でも、それじゃあ。いろいろ調整とか大変じゃないですか?」
「まぁな。俺らAランクは、そのためにいるようなもんさ。だからAランクは、政治だとかにも気を使わないといかんのよ。海外の冒険者は、その政治に振り回されていることも多い。日本はTOPのキャラ的に、そこらへんは独特でな。まぁ、政治とかが嫌いな人なのよ。どこかに偏るのを許してくれない」
行政、自治体、関係各所との調整は、美杉たちAランク冒険者が行なっているようだ。
『そんな気を使う役職で、美杉がハゲてないのは不自然だな。異世界で言うギルマスのポジションだろ? カツラかぶってるんじゃねーか?」
生涼の意見で、思わず美杉の頭部を凝視してしまう。
「なんだ、その目は? やめろ。か、カツラじゃねーし!」
美杉が目を泳がせて否定の声をあげた。
生涼の言葉は伝わっていない。はずだ。たぶん。
「心配するな。たとえ、木野が魔王になったとしても、人類の敵とTOPが判断しない限りは、冒険者ギルドが討伐クエストを出したりはしない。政府がどうこうは、俺や本郷さんに任せておけ」
「はい。なんと言えばいいか。ありがとうございます」
「日本の冒険者ギルドが歩むのは、右の覇道でも、左の邪道でもない。ど真ん中の王道だ。なめんなよ」
日本の冒険者ギルドのあり方は、美杉たちが支えてきたからこそなのだろう。そう思えた。
「だがな。俺に黙っていた。それだけは許せん」
美杉は、手のひらを出して俺に向けた。
「はい?」
「ふん」
「はい?」
美杉は、手を振って何かを要求してくる。
「木野から、珍しいモノをたくさんもらったんだろ? え?」
「えーと」
「よこせ」
「美杉さん、ずるい!」
「そーです! こういうのはみんなで!」
アンヌの目つきが変わり、北条が身を乗り出して参戦を表明した。
おねだり大作戦である。
『おい。金塊のことは黙ってた方がいいぞ』
う、うん。
アンヌの目が光った。
バカ! 聞かれちゃったじゃねーか!
『ご、ごめん』
身を乗り出して迫るアンヌと北条。俺は彼らを押しのけて立ち上がる。
「わ、わかりました。落ち着いてください。特別に皆さんにだけ。ここだけの話ですよ!」
「やった!」
「わかればいいんだよ。まったく」
「うんうん。いや、私は警察官です。そんな買収には。。。」
俺はスマホから魔石を選んで取り出した。
「とりあえず、アンヌさんから。これどうぞ」
「きゃー。私からでいいんですの? では、遠慮しませんよ」
とりあえず、この中で、最も後で面倒になりそうなアンヌから始める。
アンヌは受け取った魔石を自分のスマホに取り込んだ。
「ぴ、ピクシー!?」
突然、アンヌが俺の腰に抱きついた。
アンヌの顔が俺の腹部に、胸が俺の股間に押し付けられる。やわらかい。
見下ろすとヤバい光景である。俺は反応しようとする股間を無心になって治めた。
アンヌは俺を見上げて言う。
「ピクシーは絶滅したと言われる魔物です。いいんですか? 返せって言いませんか?」
「で、電撃魔法が取れるし、高額換金できるので、どうするか迷っていて」
「ありがとー!」
再び、全身を揺すって俺にしがみつくアンヌ。
美杉が俺の頭を壊れた竹刀で何度も叩いている。目が恐い。殺人鬼の目である。
「あ、アンヌさん?」
「はっ! すみません。取り乱しました」
アンヌは立ち上がり、一切の迷いなくピクシーを召喚した。
胸元のスマホから小さな光が舞い上がる。光の粉が鱗粉のように宙を漂っている。
アンヌの周囲を回りながら少しずつその姿が明確になっていった。
「いやーん。かわいー」
アンヌの手のひらに止まるピクシー。
それは、透明の青い羽を生やした小さな女性だった。
露出の多いアニメキャラのフィギュアが動いている。
ピクシーを評する例えが、それ以外に思いつかない。
アンヌが手を引き寄せ顔を近づけると、ピクシーは腰を曲げてキスをする。
俺の方には、突き出すように尻が向けられていた。
羽と同じ素材のミニスカートから、可愛らしいお尻が見えかけている。
俺がスカートをめくると、北条が覗き込んでくる。
スカートの中は、ツルツルにタテスジが一本通っていた。
しばらく凝視したあと、北条と目を合わせて互いにうなづく。
再び、スカートを持ち上げようとピクシーを見ると、アンヌと目があった。
ダンジョンを思い出す、軽蔑の眼差しがそこにあった。寒い凍りそうだ。
「ピクシー、やっちゃいなさい」
ピクシーがスカートを手で押さえて飛び上がる。
突然、俺たちに頭上から電撃が襲った。
「「あばばばばばばばばば」」
『ピクシーは、あまり人に懐かない魔物なんだがな。アンヌは大したもんだよ』
「うふふ。ありがとうございます。生涼さんに褒められるなんて光栄ですわ」
「さすがアンヌさんです!」
電撃で床に倒れた俺が、北条を見上げる。
北条は頭から煙を出しながら、アンヌを褒めていた。
北条の魔法耐久力の数値は、俺よりかなり高いようである。
『バカめ。お前が電極を余計に勃たせてるからだ。アンヌのおっぱいは気持ちよかったか?』
ばか。やめろ。アンヌさんにバレるだろ!




