006 死闘
そうして、俺と、最弱の魔物と名高いゴブリンの戦いは始まるのだった。
これはゲームではない。もしかしたらラノベかもしれないが、フィクションではないという設定だ。
どうせなら剣と魔法の世界が良かったなぁ。
ゴブリンは立ち上がった。片手に犬の骨つきの脚、片手に木っ端状の木材を握っている。
身長は俺の胸くらいしかない。全身は痩せてみえるが、腕と腿の筋肉だけが異様に太かった。
「グギャー!」
あ、飛びかかってきた。木材を振りかぶって殴りかかってくる。
それじゃあダメだね。攻撃がわかり易すぎる。
ほら、俺の本体も鉄パイプで防御してんじゃん。オシッコ漏らしても、それくらいは対処できるんだよ。
乖離した意識は他人事のように状況を伝えてきた。
俺は左右の端を握った鉄パイプで、木材の攻撃を受けとめる。
細身の身体からは想像できないほどの重い攻撃だった。片手でこれかよ。鉄パイプで受け、持ち手の骨に痛みが走る。
アドレナリンの切れた身体に、この痛みはキツイ。それだけで身体が麻痺したように動けなくなった。
ゴブリンは一歩下がり、もう一度大きく振りかぶってきた。危うくもなんとか同じようにガードする。
木材の破片が飛び散り、俺の顔に降りかかった。幸いにも破片は目には入らなかった。
ゴブリンは試すように、もう一度下がった。
俺は遊ばれてるんだろうな。
再び前に出ようとしたゴブリンの腹に、俺は前蹴りを突き出した。
蹴りを選んだのは、ただ脅えからだった。敵と距離を取りたい一心である。
蹴りはゴブリンを下がらせることは出来なかった。むしろ蹴った俺が、全身ごと跳ね飛ばすように押し返される。
どうやら、力では勝てそうにない。
そもそも、蹴りは祖父に習っていない。
体勢を崩した俺に、さらにゴブリンは殴りかかる。
脚に力が入らない俺は大きくよろめき、偶然にもゴブリンの追撃を避けることができた。
空振りで前かがみに体勢を大きく崩すゴブリン。
「相手の体勢を崩すことを第一に考える。まともに向き合ったら、その時点で負けだ。ケンカは格闘技の試合じゃねーんだ」
乖離した意識が祖父の言葉を投げかけてくる。
なら、今しかない。
俺は両脚を踏みしめてから、祖父の教えどおりに右拳を構える。
俺は一歩踏み出すように突き込んだ。
ゴブリンの側頭部、表面から10cmほど先にある内部を貫くように。
ゴンッ!
拳に還る衝撃は意外なほど小さかった。
一瞬、ゴブリンは頭で拳を押し返すように抗った気がする。
ゴブリンは、身体ごとスライドするように数十センチほど横に吹き飛んでから、たたらを踏むように移動してガレージの内壁に横向きのまま衝突した。
「ギギッ」
俺は鉄パイプを右手に持ち替え、叩き込む。
ゴブリンは木材ではなく、木材を持った右腕で鉄パイプを受ける。
硬い。
ホウレンソウを食べたらパワーアップする古いアメコミキャラのようなゴブリンの腕は、生木の丸太を叩いてるかのような感触だった。
さらに鉄パイプの追撃を加える。アドレナリンが蘇るように充填されるのを感じた。
奴は頭部をガードするように顔の前に右腕を動かして防御している。
べちゃ。
俺の顔に突然、何かがへばり付いた。
それは犬の脚だった。ケツの肉ごとちぎり取られた毛の生えた生肉。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
ゴブリンが左手に持っていた喰いかけの肉。それを投げつけてきたのだった。
再び、頭の中が真っ白になった瞬間。
ゴブリンが飛びかかってくる。
大きく振りかぶられた木材。
俺は右手の鉄パイプでガードする。
鉄パイプに接触した木材は爆散するように砕け散る。
片手で持っていた鉄パイプは、激突の勢いに負け俺の顔面に襲いかかった。
とっさに鼻筋や目元を守るため、顔を逸らす。
鉄パイプは俺の頬骨を砕くように顔面に潜り込む。
爆散した木材の破片が身体のアチコチに刺さるのを感じ取れた。
俺はその一撃だけで、吹っ飛ばされた。
いつの間にか、仰向けに倒れた俺の上に、ゴブリンが覆いかぶさっていた。
頭部だけは守ろうと両腕をクロスさせてガードする。
鉄パイプはどこかに消えていた。
俺の腕を叩き折るように、ゴブリンのパンチが襲いかかっている。
開いた脇をゴブリンの拳が抉る。
肋骨が簡単に砕けるのを感じた。
充填されたアドレナリンのお陰か、すぐに痛みに襲われることはなかった。
むちゃくちゃに腕を振り回すゴブリンをガードの隙間から見る。
血走った汚い白目に小さく黄色い瞳。
それが笑っていた。
ゴブリンが拳を大きく振りかぶる。
終わった、俺?
ガラガラッ!ガシャン!
シャッターが上に押し上げられ開かれる。
そこには2人の女が立っていた。顔は見えない。
ブシュ
シャッター側に身体を向けたゴブリンの背中、肩甲骨あたりに小さなナニかが突き立っていた。
突き立った物体から、ワイヤーがガレージの裏口の方に伸びている。
そこにも1人の女。
銃のようなモノを持っていた。
テイザーガンだな。たぶん。
突然、電撃がゴブリンと俺を襲う。
「お待たせ」
どこからか若い女の声が聞こえた。
そにうち、ゾンビとかも出したいなぁ。
明日も更新します。