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045 涼'sレポート「俺の作家デビュー」

044をお読みの方は、「・結果」の部分からお読みいただければと思います。

前回までの24 じゃなくて、今回のやり取りを俺の中で整理してまとめてみたいと思う。


だって、短い時間の中で、とんでもなく情報量が濃かったのである。

エルの置かれた状況の説明だけでも、俺はいっぱいいっぱいだったのだ。

そこに木野の畳み掛けるような独白で、すでに俺の脳はショートしている。

このままでは、さらなる無理難題をウヤムヤのうちに押し付けられてしまいかねない。

その前に、俺には冷静に情報を整理する必要があった。


では、簡単にレポート風でお送りする。



1:エルの呪いについて

エルの呪いとは、彼女自身の強靭な精神が、様々な苦難を心の負担ではなく肉体の負担にしてしまっていることが原因だった。

奴隷として扱われた生活の中、第三者による他殺、自身による自害、様々な死を幾度経験しても、タイムリープは彼女を厳しい環境から逃がしてくれない。

さらに、木野や俺のように、一緒にタイムリープしてしまう生霊召喚スキルの使い手が受けた精神的負担まで共有してしまい、エルを傷つけてしまっていた。

まさに、エルの身体はボロボロだ!なのだった。原因を取り除くことが不可能である以上、回復魔法は一時的な効果しか持たない。

彼女にとって、タイムリープから解放された死こそ、何より望むモノだったに違いない。

エルがフォックススティールとの戦いを望んだのは、その完全なる死を叶えてくれる相手だったという理由が大きいらしい。



2:現実世界の木野に何が起こったのか

木野は俺と同じように、勤めた会社を辞めていた。彼の理由は、取引先担当者によるホモセクハラに抗って暴力を振るったことにある。

彼は、中学時代から、その女性的な容貌から、気の迷いによる性的対象としてみられることが多く、イジメにもあっていた。

それらが重なり、木野は性の問題に対して、非常に敏感になってしまう。悩み考え抜いた末に、非常に尖った保守的な性感覚を持つに到った。

行き過ぎた考えは、イスラム教の同性愛を否定する思想に惹かれ、LGBT問題に揺れる先進国を否定するようになる。結果、よく調べもせずに、国際的テロ組織・真イスラム帝国に加入してしまう。

だが、そこで、自身の分身である生霊・カオル、性奴隷のエルとの出会いによって、さらに混乱に苦しむこととなってしまう。

中性的であった美青年の彼の姿は、今やイスラム教徒のマッチョ男性のように変貌している。過酷な戦闘を繰り返したことだけが、変貌の原因ではないだろう。



3:異世界のカオル(木野)に何が起こったのか

俺の生霊・生涼と共に、木野の生霊・カオルは、異世界へと渡っている。

異世界に渡る前の中学時代、木野(カオルとの分離前)へのイジメを止めたのは、生涼と分離する前の俺自身である。

それもあり、異世界に渡った2人は深い友情によって助け合い。お互いをさらに大切な存在であると認識していただろう。

そんな中、精神的に追い詰められていた生涼は、童貞をこじらせた性の迷いにより、美少年カオルを襲ってしまう。

カオルは、そんな生涼を受け入れようとしてしまった。行為には至らなかったという言葉を、俺は信じたい。

結果、異世界の木野であるカオルは、現世界の木野とは反対の方向へと突き進んでしまうことになる。

2人は元の世界へと戻る努力を繰り返した挙句、俺や木野のいるパラレルワールドへと戻ってしまい、揃って生霊スキルとなることになった。

カオルは、転移時に肉体を失い、再構成された際に魔法少女へと性転換してしまう。

なぜ、魔法少女であったか、それは生涼が自分のハーレムの女性たちに魔法少女のコスプレをさせていたことに由来していた。



・結果

タイムリープ周回時に、俺は一度エルを殺している。

俺にとっては、初めての殺人である。断首時の感触は、手にこびりついて離れる気配がない。

思い出すだけで、目眩と吐き気が襲ってくるほどに、俺にとっても大きい精神的ダメージであった。

しかも、その俺の受けたダメージが、エルをさらに苦しめているというのだ。

エルを救いたいという思いと同時に、エルを救うことで自分の罪から逃げられるのではと、卑怯に考えてしまう自分がいることを俺は自覚している。


そして、木野の混乱に拍車をかけたのは、生涼がカオルを襲ったことが原因である。俺はそれを否定するつもりはない。

だが、これは、果たして俺が背負うべき責任なのだろうか? 考えれば考えるほど疑問に思えてくる。

とはいえ、俺の分身が自分で責任を取れない以上、他に方法がないこともわかっていた。


まさに、俺への精神攻撃のコンボである。

結果的に、木野の頼み「エルを俺に託したい」という願いを、俺は断れずにいるのである。


俺があずかるということは、祖母とエルが一緒に暮らすことになるということだ。祖母になんと説明すればいいのか、まったく見当がつかない。

それだけじゃない。エルは相当な美少女である。ロシア人少女とかでネット検索して出てくる画像そのままの容姿である。

こんな娘と、1つ屋根の下で暮らすなど、間違いが起きない自信はまったくない。


それと重要なことだが、俺には心に誓った女性・愛理がいる。

愛理にバレたら、どうすんだよ!

まぁ、ほとんど相手にされていない気がするのではあるが。。。



・冒険者ギルドのログ更新について

余談ではあるが、一応記しておく。

今回の内容、1〜3は一回のログ更新分として考えれば、あまりにも濃すぎる話であった。

それを一回の更新にまとめたのは理由がある。


それは、俺のログを監視しているネコミミ少女や、エルフ美女に気を使ったからに他ならない。

彼女たちに、長々と負担がかかる濃い内容のログを読ませることで、ブクマじゃなかった、担当を外されてしまうことを俺は恐れたのである。

俺の妄想では、俺の担当である彼女たちは、非常に繊細な心の持ち主であるからだ。


冒険者ギルドに、木野のことがバレても大丈夫か?という疑問を持つのは自然だが、俺は気にしていない。

パターン的に、ギルドの担当女性は、ギルドを敵に回しても冒険者の味方をしてくれるものである。

そこには絶対の自信があるのだった。


さて、このログを元にして、ネット小説サイトに投稿するのも悪くない。

なんせ、TS魔法少女と銀髪奴隷少女のコンボである。もうこれだけで書籍化も夢ではない気がする。

いつまでも冒険者などヤクザな職業でいるわけにはいかない。

書籍化作家になって、愛理を迎えに行く! そう、それしかない!



「お前って、いつから、そんなブツブツ独り言いうようになったんだ?」

「はっ! 出てた? 心の声が?!」


俺が脳内でレポートをまとめていると、突然に木野から声をかけられる。


俺は木野と共に、座敷から出て2階のデッキに移動する。

船の外は、すでに暗くなっていた。

暗闇の海、孤独に浮かぶ屋形船。街の明かりが遠くで瞬いている。


と、俺が雰囲気を醸し出していると、だいたいにおいて生涼が茶々を入れてくるのだが、なぜか今回は何も言ってこない。


「あれ? 生涼たちは何処に行ったの?」

「あ、あぁ。それな。。。」


木野は口元を歪ませて苦渋を伝えてくる。ヒゲモジャなので、よく見ないとわかりづらい。

真っ暗なのに、サングラスを外さないのは、何か意味があるのだろうか。


俺は、スマホを見て、生霊スキルの状態を確認する。生涼は召喚OFFになっていた。


「あの野郎、いつの間に」


嫌な予感を感じた俺は召喚アイコンをタップする。『ビー』と音がなり、ギルドアプリがメッセージを表示した。

『生霊は召喚を拒否しました』


「はぁ?」


隣を見ると、先ほどと同じ表情の木野が、自分のタブレットを何度もタップしていた。

『ビー』『ビー』『ビー』『ビー』『ビー』


「木野、もうやめろ。諦めよう。いいじゃねーか」

「あ、あぁ。そうだな。ここは若い2人に任せてって、バカヤロウ!」


木野はいきなり俺に殴りかかってくる。速い! これは上位魔物に迫る速さだ。

だが、俺は殴りかかってくるのを予想していた。わざと怒られそうなことを言ったのである。

俺は、ノリツッコミをまじえた木野のパンチを紙一重で避ける。


「アホが! 避けるんじゃねー!」

「ふん。お前、1人になるんだろ。今から、そんなんじゃ、先が思いやられるぜ!」


木野は、俺に向かって構えをとる。軽く膝を曲げて腰を落とした本格的なスタイルだった。


「涼、お前。素手なら俺に勝てると、まだ思ってるだろ?」

「グラサンくらい外せよ。素人が」


木野は後方への体重移動で勢いをつけたりしない。前かがみの姿勢のまま床を滑るように接近してくる。

手を出せば後の先を取られると予感した俺は、自分の移動速度に任せて木野の左側に回り込んだ。

俺は、木野の左足が前に出ているタイミングを狙って近づく。

身をさらに低くした木野は回転する。木野の足払いが俺を襲う。

逃げられないと悟った俺は、木野に向かって飛びかかった。

木野の肘が俺の顔面を待ち受ける。その肘を両手で掴んで、俺は体重をさらに押し付けた。


おそらく木野は軍隊格闘術を使っている。流れるような連続攻撃を受けると、体勢や行動が支配されてしまうだろう。

昔から、ワンパンチKOに頼りがちな俺は、木野にとって御し易い相手に思えたかもしれない。

だが、成長しているのは木野だけではないのだ。


俺は木野の肘を押し上げる。

そのまま抱きついて、木野の頰に唇をつけた。


「何を!?」


木野は全身を使って床を這い回り逃げる。そして、俺から距離をとって立ち上がった。

頰を手で押さえ、ヒゲモジャの顔面で俺をにらんだ。表情がわかりづらいやつである。


「殺す!」

「エルは、俺があずかってやる。バーカ!バーカ!」


そう、俺はエルをモデルに小説を書いて、書籍化作家にならなけらばならないのだ。

木野のために、エルのために、なんて理由は少しだけあるが、あくまでも少しだけである。

別に、アンタのためにしてあげるんじゃないんだからね!


「くそっ。てめー、涼! 狙ってやがったな」

「面倒なやり方で俺を散々混乱させやがって。正直に、困ってるなら困ってるってだけ言いやがれ!」


木野は、大声で笑いだした。

良かった。俺は不安だったのだ。木野が本当に怖い人になってしまったんじゃないかと。


「涼、続きはベッドの上で!」

「もう、そういうネタはええねん! やめろバカ!」


俺たちは、2人で大声を出して笑う。

だ、大丈夫だよね? 木野の独白はネタってことでいいんだよね? 俺はぬぐい切れない不安を胸にしまうのだった。


「お前がオーガを倒したと聞いて、ちょっと興味があったんだ。くそっ、本気でやれっての」


木野の「興味があった」の部分は極力考えないようにする。


「まだまだだな。俺に勝つのは十年早い!」


強がってはみたが、正直に言うと、本気でやりあって勝てる自信はあまり無い俺だった。





「涼、俺の本当の力を見せてやるよ。お前が断った場合、最後はこいつで脅すつもりだったんだぜ」


しばらく談笑してから、木野は言い出した。

サングラスを取り、どこからか取り出した赤いベースボールキャップをかぶる。

そして、タブレットの画面から、ハンドボール大の球体を呼び出した。


「ゴジモン! 君に決めた!」


木野は海に向かって、大きく振りかぶり球体を投げる。

球体は空中で、眩ゆい光を放ちながら飛んでいく。そして海中へと沈んでいった。

海中から届く球体の光は大きくなっていく。そして、海面が急速に膨らむように持ち上がった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「ちょ、やめろ! 何するつもりだ! ここは東京湾だぞ!」

「見てろ。これが魔王候補の力だ!」


膨れ上がった海面を割るように、巨大な影が出現していく。


「こ、これは?!」


そこに現れたのはクジラと肉食恐竜を掛け合わせたような巨大モンスターだった。

黒い体表を覆う硬質な鱗。どう猛な牙を並べて大きく開く口。屋形船をひと噛みで粉砕してしまうだろう巨大さだ。


そして、その凶悪な容姿に似合わない、キラキラ輝くかわいい瞳がチャームポイントである。


「ゴジモン、ゲットだぜ!」


いや、もうゲット終わってるだろ。

俺はそう思いながら、中学時代の木野がマスターと呼ばれる有名なプレイヤーだったことを思い出す。


「お前、そういや。悪魔を合体させるゲームもハマってたよな」

「あぁ、合体魔法をカオルから習得した時、俺の時代がついに来たと確信したよ。魔王にだって成れちゃうぜ!」

「えっと、どこまで冗談かわからんから、やめて」

「よし! このまま、フォックスステールを攻撃に向かうぞ!」


木野は再び、冗談に聞こえない言葉を叫んで笑っていた。



『リョウなんて大嫌いだ! やさしくするって言ったじゃない!』


突然、カオルが叫びながら現出する。身体を隠すように魔道士用のローブを羽織っている。


『カオル、ごめんって。俺も久しぶりだったからさ。許してくれって。な?』

『だって、痛くするんだもん! 強引だし!』


カオルを追うように現出した生涼は、久しぶりの白ブリーフ姿である。

カオルは木野の後ろに身を隠し、生涼を睨んでいた。

木野のヒゲモジャな顔は、ベースボールキャップに隠れて見えない。

だが、強烈な怒りの覇気が周囲に広がっていく。


「ゴジモン! ゴジモンテールだ!」

「バカ! やめろ! 全員死んじまうだろ!」

『うわっ! なんだ! このでかいの!』



なんとか木野をなだめた俺たちは、ゴジモンの攻撃で屋形船ごと全滅の運命から免れたのだった。

それから、ゴジモン召喚をキャンセルした木野の操舵で船を岸壁につける。ここで、俺は下船することになる。


「俺の娘に乱暴しやがって。カオルを嫁には絶対にやらん! 覚えてろ!」


木野は生涼に向かって叫んだあと、俺に言う。お前、そういうポジションだったっけ?


「エルの状態が安定したら、お前の元に送る。しばらくかかるだろう。よろしく頼む」

「はいはい。なんかあって困ったら、絶対に連絡しろよ。俺はもう大丈夫だからさ。な?」


俺と木野は固く握手を交わした。

木野の操舵する屋形船は何処かへと去っていく。彼は、隅田川に戻るつもりはないようだ。

公安が待つだろう元の場所を嫌ったのかもしれない。

だけど、船を持ち主に返さないでいいのだろうか?と俺は不安になるのだった。


『あいつらは、次も屋形船でやってくる。俺は確信してるぜ』


どうでもいいことを、自慢げに確信する生涼だった。


東京湾岸の適当な場所に降ろされた俺は、スマホのマップを頼りに駅の場所を探す。

途中、相良から電話が入る。

俺は、連絡を途絶えさせたことを謝る。そして、古い友人と会話をしながら、駅へと向かって歩き出した。


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