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030 光の国からこんにちわ

都営地下鉄の拡張工事で路線の統廃合が行われ、東京都心の地下には廃線となった古いトンネルが一部そのまま残されている。

警察官冒険者と協力者による連日の厳しい捜査の中、そのトンネルの一部にダンジョンが発見されたのだった。


「あー!宝箱の中になんかあったよー!」

「すごいねぇ。はっ!ダメよ!埜乃、これは戻して来なさい!」

「えーなんでー? あっ、なんか書いてる。『0.01mmうすうす』だって」

「ニヤニヤ」


我々が住む、この現実世界のダンジョンにも階層が存在する。

地中深くの最深部が魔物の発生源となっていて、そこで産まれた魔物が繁殖し生存競争を繰り広げる。

強い魔物は最深部の強力な魔力を独占しようと他者を排除するため、生存競争に敗れた魔物は上に向かって掘り進み強者から逃げようとする。

逃げた魔物によって上部に階層が造られても、発生源のある下層から新たに逃げてくる魔物は絶えない。上層で繁殖した魔物同士でも生存競争が繰り返され、さらに生活の場を求めた魔物によって、再びさらに上層が造られるのだ。

そういったことが繰り返され、地上近くにダンジョンが繋がってしまうのだという。


今回、ダンジョンが繋がった先が、廃線となった地下鉄のトンネルであったことは、都民の安全を考えれば良かったと言えなくもない。

だが、その環境がダンジョンの発見を遅らせる原因にもなったと言えるだろう。

今のところ、最上部である地下鉄トンネル部分に存在するのは、ゴブリン、ホーンラビットなどの下位魔物が中心であり、先遣隊により殲滅されていた。

とはいえ、ダンジョンの性質上、魔物が下層から上層に補充されていくのは必然である。

現状、大きな脅威はなくても安全とは、けしていえない。

今までは、暗殺者ギルド残党が、利益のために魔物を狩っていたことが幸いしたが、今後は冒険者ギルドによって厳重に管理せねばならないのだ。


暗殺者ギルド残党どもは、地下鉄トンネルである一層だけで活動を行なっていた。

警察官冒険者によってトンネル内に残っていた残党は一掃されている。

逮捕された残党どもに、再び過酷な尋問を行なってみたが、魔物が上がってくる下層の情報は何も得られていない。

あの過酷で恥辱にまみえる、とても子供には見せられない尋問で吐かないのだ。事実として考えるしかないだろう。


そこで、我々冒険者有志によって結成された調査班が、下層に通じる穴の在りかを探しているのだった。


「ねぇ、ツガミン? これなんに使うの? 桃花教えてくんないんだよねー」

「これはね。災害の時に水を入れて運んだりして使うんだよ」

「ふーん。いらないな。あげる」


「埜乃〜、もう5時だよ。帰ろ」

「わかったー。ツガミン、またね。バイバーイ」


ここはダンジョン。一層目とはいえ、本来危険な場所であることを強調しておくべきだろう。

一部の若年冒険者が、制服のまま学校帰りに遠足気分で来ていたようだが、けして真似はしないでほしい。

『それよりさ、埜乃は、あのまま大人になったらどうするの? つか、昨今の学校教育はどないなっとんねん!』

今回、こだわるべきなのは、そういうことでもないのだ。

『って、うすうすをポケットにしまうんじゃねーよ!お前に必要なのはオムツだろ!』

宝箱に大人用のオムツないかなー。

『使用済みオムツだったら、さっきあったぞ』


ダンジョンで見つかる宝箱とは、多くがミミックという魔物の亡骸である。

魔物や人間や動物の死骸、排泄物、周辺の生活ゴミなど、有機物無機物関係なく、あらゆる物質を餌にしてミミックは生息している。いわゆるスカベンジャーである。

非常に臆病な性質で、個体差はあるが戦闘力は高くない。そのため、ダンジョンの片隅に隠れるように暮らしている。

見た目の形状は、パカッと大きく開く口を持った四角い頭部の芋虫で、サイズは子猫サイズからドラム缶サイズまで様々だ。

死ぬと四角い頭部の形状を残すようにミイラ化する。内部に未消化の物質を残していることが多く、魔物の魔石、魔物の素材、誰かが遺した武器、落し物の財布、忘れ物の傘、読みかけのジャンプなどが見つかることがあるとの情報を得ている。

『みなさんも駅や電車内の忘れ物には気をつけましょう』

汚物や毒物や可燃性ガスが詰まったハズレもあるので、開けるのは覚悟が必要だ。読み飛ばしていたワンピのために開けるのはオススメしない。


一層のトンネルでは、暗殺者ギルド残党の複数の男女が隠れ住んでいた。生理的に必要な物は多かっただろう。

老人ばかりとはいえ男女が共に暮らしていたのだ。

『最近、老人の性について考えさせられることが多いな』

俺たちは社会派だからな。

『た、たぶん』

それより、俺が、残党にえらい敵視されちゃったんだけど。

『勇者・翔一の孫ってのもバレたしなぁ。まぁ、なんかあったら、またリオに頼めばいいんじゃね』

そーする。




「御室さぁ。まだ見つからねーの?」

俺たち捜索班の主力は、例によって奴である。

御室は知覚強化スキルの視覚、臭覚、触覚などの強化を使って、下層への入り口を探しているのだ。

御室は線路に座り込んで、小さく肩で息をしている。長時間のスキル使用、ほんとお疲れ様である。


「ってか、お前らが遊んでばかりいるから、進まねーんじゃねーか!」

「そういうなよ。初体験の地下鉄トンネル内だぞ。古い地下鉄の駅とかあって、もうワクワクするじゃん」

『へー、地下鉄の中って、こんなんなってんだ。すげー』


「同じ遊んでるだけなら、JKZのがよっぽどいいわ!」


廃線となった地下鉄のトンネルで、埋められずに残っていたのは、1kmに満たない規模だった。

だが、2つの駅も残っており、線路も残るトンネルの中などは、まるで映画撮影の大規模セットのようである。

ブロックを積んだ部分もトンネルの外壁に残っており、レトロ感も満載の環境だ。

東京の地下のこんな場所に入らせてもらえて、男の子として滾らずにいられようかというものです。


残党たちが持ち込んでいた発電機と照明では、トンネル内を捜索するには明るさが足りなかった。

そのため、冒険者ギルドで用意した照明を数多く設置してある。おかげで御室でなくても、捜索に困るようなことはない。

冒険者ギルドの捜索班は、指揮官にAランク1名とBが3名、CとDランクを合わせて30名ほどである。

トンネルは足立区にあるため、エリアの関係なのか1人も顔見知りはいない。

トンネル内を何度も行き来するため、たびたび顔を合わせるのだが、例によって人見知りの俺はまともに会話はできていなかった。

『クールで無口な男を装ってるのが痛々しい。ぎごちないし』

ほっとけ。



ミミックのおかげもありトンネル内の地面はゴミも少なく歩きにくいということはなかった。

雨水や地下水が溜まっている場所もあるが、足場がなくなるほどでもない。

御室の休憩を待って、俺たちは捜索を続けていた。生涼も御室や俺が気になった場所で、壁や地面に潜って調べてくれている。顔半分だけ出して移動したりするので気持ち悪い。


「津神、向こうでお前のこと話してるみたいだ」


御室が指した方向を見ると、Aランクで女性の捜索隊長・入麻が、複数の人間に囲まれて会談中だった。

話の中心人物らしい1人の男がこちらを見ている。


「珍しいな。自衛隊だ。あれ」

「へぇ〜、やっぱり自衛隊にも冒険者はいるんだな」

「いるよ。でかいモンスターが専門だと思ったけど。どうなんだろ」


冒険者事情に乏しい俺に、御室が曖昧な情報を教えてくれた。

それから、俺でも人物像が見て取れる距離まで歩いていくと、こちらを見ていた男が数人を伴って近づいてくる。


「津神さんですね。お噂は伺っております」

「はぁ。ど、どうもです。。。」


『知らない人に声をかけられて萎縮するのはヤメなさい。お前は子供か!』


「ふふっ。お聞きしていた人物で間違いないようだ。それにもう1人の津神さんのことも」

『へっ?』


生涼は自分を一瞬だけ見つめた男の言葉に驚いている。

男たちは、陸自迷彩3型戦闘服に身を包んでいるが、階級章を付けている者は1人もいなかった。伸ばした髪も自衛官らしくない。

彼らは銃を肩からスリングで抱えているが、89式小銃ではなく、M4カービンのカスタムガンのようだ。

サプレッサーの先に見える銃口がやけに大きい。


「遅れました。陸上自衛隊特殊作戦群冒険者部隊隊長・Aランク冒険者の早田と申します。お見知り置きを」


「と、特戦?! ですか!」


ミリオタなら目を輝かせて見てしまう気持ちを理解してくれるはずだ。

陸自最強の特殊部隊は、人前で姿を晒すことはほとんどない。

早田は敬礼を行い丁寧に話してくれるが、着崩された戦闘服もあり固い人物像は一切感じさせなかった。

見た感じ40歳前後だろうか。


「三佐! 三佐が言ってた通りの場所に下層への穴発見ですって。こっちこっち!」

「バカッ、人前ではきちんと話せって言ったろ!ったく」


入麻たちがいる場所の奥から、早田と同じ装備の自衛隊員が大声で叫ぶのを、早田は苦笑を浮かべて返答する。


「困った時は津神さん、と聞き及んでもいます。関東近辺にダンジョンが新たに出現するのは20年ぶりですからね。お手伝い願えませんか」


「えと、どういう?」

「このダンジョン下層へのアタックは、まず我々が行うこととなりましてね。美杉氏からの勧めもあり、お誘いできればと」


御室は、いつものごとく口を開けてポカーンとしていた。


「御室さんですね。私は『知覚強化(大)』を持ってます。すごいでしょ? ので、御室さんは今回ご参加願えませんのでよろしくです」


「だ、だ、だ、大ってか、なんですと!!?」


「なによりも、生涼さん、よろしくお願いしますね。あなたがいると心強い。異世界の勇者どの」


『ふふん。まぁ、そう言われちゃ、断れんな。任せておくがいい』


声をかけられた生涼は、どこからか出したメイド服に着替えようとするのを、慌てて中止して片付ながら返事をしていた。


こいつを頼っても保証できませんよ。早田さん。





89式小銃は、自衛隊に正式採用されているアサルトライフルです。


M4カービンは、米陸軍のアサルトライフル。アメリカだけでなく世界各国の特殊部隊で利用されてます。


サプレッサーとは、銃声を減音するのが目的のアレです。銃口につけます。いわゆるサイレンサーです。

作者的な理解では、消音目的がサイレンサー、減音目的がサプレッサーてな感じです。

今回は、地下で音が響いて作戦行動に支障が出るため付けています。耳キーンにならない程度の効果です。

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