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019 新人リア充の変化球

埜乃が希望したのは、スィーツが評判の簡単なランチが取れる店だった。

JKZが通うダンススクールから歩いて来れる距離で、以前から気になっていたらしい。

約束の時間より早くきてしまった俺と埜乃は、なぜか2人でモジモジしているのだった。


「な、なによぉ?あんた今日ちょっと変じゃないの? うぅ」


とても、目が合わせられない。俺は顔面が熱くなるのを自覚していた。

この可憐な少女・埜乃が、あんな感じで「蕾」をつけていると聞かされて、本人と平静に対峙できる者などいるだろうか?


目が泳ぐ俺の挙動不審な態度が感染したのか、埜乃の顔は赤面していた。


「の、埜乃さん、なんでも頼んでいいよ。あはははは」


「う、うん。はい」


埜乃は俯いてうなずく。


「の、埜乃って、埜乃でいいです。り、涼さん。。。」

「じゃあ、私も亜美で。お兄さんじゃなく、お兄ちゃん」


遅れてきた亜美の登場である。今度は亜美の「蕾」の詳細を思い出し、再び赤面して亜美から顔をそらしてしまう。

そらした先で埜乃と目があう。埜乃は、不機嫌そうに頰を膨らました。


「あんたなんか、ツガミンで十分だ。あほっ!」

「こら、埜乃!涼さんって呼ぼうって3人で話したじゃない。私は桃花でいいですよ」


俺は、亜美に遅れて席に着いた桃花の顔を見て、またすぐに顔をそらしてしまう。理由は言うまでもなく「蕾」だ。


「は、はい。桃花さ、桃花?桃花ちゃん?」


「も、も、もも、桃花!です。うぅ」


桃花にも何かが感染したらしい。俯いてモジモジしはじてしまう。

埜乃は不機嫌に腕を組み、亜美は首をひねり目を細めて俺を見ていた。


『それ、お前のテクニックか? 斬新すぎるぞ。この天然変態野郎の乙女殺し!』

ここに秘密の花園が出来上がっちまったじゃねーか、もう俺の手に負えねーわ。

『お前の頭の中、この娘らに見せてやりてー』


とりあえず、召喚をキャンセルする。


召喚キャンセルだけは俺がスマホを操作している。

帰れと言っても帰らないからな。


ランチの店を出た俺たちは、祖母から借りた軽自動車に乗り込み渋谷の映画館に向かう。

埜乃と桃花が逃げるように後部座席に入ったため、亜美が助手席に座ることになった。

俺は、車を出してようやく平常心を装えるようになっていた。


亜美希望の大作アニメ映画を観た後は、桃花希望の水族館へ、品川までの車移動だ。

今度は埜乃が助手席に座ってくれる。


「で、ゴブリンの次は、なにと戦ったわけ?」

「あーそうそう。まだ聞いてないねー」

「新聞に載ってた電車の事故、お兄ちゃん?」

「マジで?笑える!電車と戦って勝てると思ったの?」


「あーまぁ、その。ダンスイベントの合間に回復魔法使わせてすんません」


ゴブリン討伐後の車内で約束した日は、電車戦の怪我のため延期になり、本日は両方の詫びを兼ねていた。

ギルドのゴールドは郵便局で現金化できることを美杉に教えてもらい、今日まで金をクエストで貯めていたわけである。


水族館の後はお台場に移動して散策する。

桃花が持ってきたカメラを持たされた俺は3人をたくさん撮らせてもらう。楽しい。


「結局、どういう固有スキルだったの?お兄ちゃん」

「おお、そうだ。見せて見せて!」


「いいよ。ちょっと待ってな」


勝手に復活していた生霊に頼み、両手にトンファーを出現させる。


「今のスマホ弄ってないよね?すげーどうやったの?ねぇねぇ?」


俺は生霊のことは秘密にしたまま、可能なことを説明していった。


『俺は、そんなに恥ずかしいか?悲しいぜ』

いやいや、お前だって警戒されたくないでしょ?


その後、4人でプリクラを撮ったりゲームをしてから、二子玉川の桃花の自宅へと向かう。

今日は3人でお泊まり会らしい。道案内も兼ねて桃花が最後の助手席担当だった。


「さぁ、着いたぞ」

「涼さん、今日は無理言ってごめんなさい。楽しかった。ありがとう」

「お兄ちゃんも泊まっていく?」

「えー!別に嫌じゃないけどさぁ」


「桃花のお父さんに殺されるからやめとくよw」




『ってな感じの楽しい1日だった』

まとめるなっての。


3人を送った後、俺は自宅までの途中にある豚骨ラーメンチェーンに寄っていた。

店内は閉じられたカウンター越しに替玉を頼めるようになっていて、俺のようなコミュ障でも入りやすい。


『お前、ずいぶん人の目を気にしなくなったな。美少女3人も連れてさ。けっこう注目の的だったぜ』

まぁ、気にならないわけじゃないけど。お前のおかげかもな。たぶん。

『おっ、珍しいねぇ。リア充に進化までしやがって、成長しすぎなんじゃねーのぉ』




「涼くん?津神涼くんでしょ?」


細身の黒髪の女だった。


「傷つくなぁ。覚えてない?メールもしてくれないし。愛梨ですよ。鈴浦愛梨!」


「えーと、ん? あれ、小中で一緒だった愛梨か?ほんとに?なつかしーなぁ」

「ふふん。私は懐かしくなかったりすんだけどね。これ少し前までの私」


愛梨はスマホの画像を見せてくれた。


「隣、座るよ。思い出した?」


スマホの画面の中にいたのは、渋谷の風俗店で出会ったリオだった。

愛梨の顔を確認したあと、もう一度、画面の中のリオを見る。

愛理は俺の耳元に口を寄せて囁いた。


「だって、泣くんだもん。あれはずるいぞ。ちなみに21歳は鯖をよんでただけね」


『お前の変化球はメジャーでも通用するぜ』ぶち

生霊をキャンセルする。


愛梨は、イタズラがバレた子供のように笑っている。

なぜだか、その笑みが俺には儚げに思えた。

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