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001 猫探しから始まる冒険者生活

フィクションです。

「お兄ちゃんありがとう」

子猫を胸に抱いた幼女が満面の笑顔で俺を見上げている。

「もう猫をお家から出さないように気をつけるんだよ。じゃあね」

小さく手をふって別れを促すと、猫を抱えた少女はランドセルを揺らしながら走り去って行った。


か、かわいかったし、ちょっと寂しいが俺はそんなことで大げさな反応をしてしまうような男ではないのだ。

そう、ただ猫と少女の幸せを願う。

昼間の公園で幼女と戯れて通報されるわけにもいかないし。

この後も期待されるような幼女との関わりはおきないのだ。たぶん。


都内の住宅地、すぐそばに東○世田谷線の線路がある小さな公園。数本ある葉桜の根元には花びらの残骸が汚らしい感じで散らばっている。公園の時計は午後4時あたりを指していた。

2両編成のコンパクトな鉄道車両が通り過ぎるのをなんとなく眺めていると、尻のポケットの中でスマホが小さく振動する。


「おっ、きたきた」


スマホを取り出し画面を確認する。アプリ『冒険者ギルド東京支部』を開くと、メッセージ「クエスト達成報告」が届いていた。

小さな達成感が俺の頰を緩ませる。


~ クエスト「迷い猫捜索」を達成しました。達成報酬として、10ギルドポイントと、3000ゴールドをお受け取りください。


報酬受け取りボタンをタップすると、スマホからファンファーレが鳴る。俺は慌ててスマホの音量を下げ、周囲を見回した。

詳しくは語りたくないが、俺はできれば目立ちたくないのである。



俺のことはひとまず、まずはアプリの紹介をしよう。

『冒険者ギルド東京支部』とはスマートフォン用のゲームアプリだ。たぶん。

ダウンロードランキングは低い。アプリを探すのに苦労するレべルで低い。

俺以外にこのアプリで遊んでいる人の話も聞いたことはないし、見たこともなかった。知り合い少ないし、俺の知らんところで流行ってたりするのかもしれないけどね。まぁ、それはないか、たぶん。



アプリに登録してアカウントを取得すると、クエストを受けられるようになる。

先ほどの「迷い猫捜索」もこのゲームのクエストの1つだ。俺が達成したいくつかのクエストを例に出して説明するが、「犬の散歩依頼」「庭の草ひき依頼」「瓶の蓋開けて依頼」「旦那に弁当を届け依頼」「お年寄りのPC設定依頼」などといった生活に密接な依頼が多い。


ゲームというより、なんでも屋の依頼掲示板と言ったほうが正しいよね、これ。

都会の住人は、えてして小さな困り事ほど解決できずに途方にくれていたりするのだ。

ご近所に醤油を気軽に借りたり、雪国で男手の余っている家族が近隣のお年寄り家屋の雪下ろしを行ったり、農作業を村の住人総出で手伝ったりするような村社会なら、こんなことで困り果てたりすることはないのだろう。たぶん。


そして、クエストにはギルドランクが存在する。ギルドランクに応じて受けられる依頼が変るのだ。

そこはファンダジーモノのラノベとかその辺りを想像してほしい。ほしいというか、そのあたりのノリにまんまと惹かれて、俺はこんなことをやってたりもするのだった。


現在、俺のランクはG。ランクはHから順にAまである。そして、その上のSなんてのもあるらしい。

ね?ちょっと興味出てきたりしない?

「迷い猫捜索」がGランクのクエストなら、さらに上位ランクのクエストはどんな依頼があるのだろうって?

社会人として自信のない俺でも、ハードボイルド小説の探偵に通じるようなロマンと微かな憧れを持ってしまうのだった。わかってる。アホだ。


ギルドランクを上げるには、クエスト達成で貰えるポイントを貯めなくてはならない。HからGに上げるには200ポイント必要だった。そこからFにあげるために、さらに300ポイントが必要で、累計460ポイントの俺は、あと少しでFランクだ。

受けるクエストによって貰えるポイント数は変わってくる。難易度の高いクエストほどポイントは多くなる。例によってランクが上がれば受けられるクエストの種類も増えるし難易度も上がるのだ。


ギルドアプリにはマップ機能もあり、不思議なことに猫の居場所と依頼人である少女との立会い場所までマーカーで指し示してくれていた。

それをめどに猫探しを行なったのだが、さすがにリアルタイム表示とはいかないようで、朝早くから猫の足跡を辿り続けて、ようやく発見したのだった。


俺は公園を徒歩で離れ、近くの別路線の駅から電車に乗り込んだ。

ちなみにポイントと一緒に貰えるゴールドは電子マネーとして利用できる。1ゴールド1円と計算しやすい。それを利用して、電車やバスの移動費用として使っている。ほぼ半日かけて猫を探した報酬が交通費込みで3000円ってどうなの?とは思うが、生活費に困っているわけでもないのでお小遣いをもらっている程度の感覚で不満はない。


帰宅ラッシュ直前の電車の中は座れはしない程度の混み具合だった。

揺れる車両の中で手すりにつかまりながら、俺は更新されたアプリのクエスト一覧を眺めて時間をつぶしていた。

明日も更新します。

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