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15 親しい仲にも

「何をやってるんだあいつは!」


 持ち主不在の雷雲の上、様子を見ていたアルケインは一人、怒りの雄叫びをあげた。

 その剣幕は凄まじいもので、近くを揺蕩っていた雷の精霊たちが思わず逃げ出してしまったほどだ。


「実体まで地上に移すなど、創造主がお気づきになればただでは済まんぞ。まったくあのバカ……っ」


 神々は本来、地上への影響を少なくするため意識体のみで地上に降りる。

 アルケインがロティに憑依したり、硝子を依代にして彼女と言葉を交わしていたのはそのためだ。

 しかしトールデンは、その掟を破って実体ごと地上に移してしまった。

 これが創造主に知られれば、最悪彼は神としての資格を剝奪されてしまう。

 救いはその創造主が、ここ千年ずっと眠りについていることだろう。

 なのでばれる可能性がほぼないとはいえ、トールデンの行為はやはり軽率と言えた。

 なにせ元が人であった者が資格を剥奪されれば、待っているのは本来の寿命による死、だからだ。

 破天荒な友人に相応しくない相談をしてしまったことを、今更ながらにアルケインは悔いた。

 トールデンがロティと話している様子を、天上からずっとやきもきと見守っていた彼だ。


 (私に対する時の態度と、随分と違うじゃないか)


 葡萄酒のせいとはいえ、アルケインには友人とロティの二人がとても親しく見えた。

 数日の違いとはいえ、ロティから見ればトールデンよりもアルケインの方が付き合いが長いにもかかわらずだ。

 けれどその数日の中で、ロティは自分の願いなど一言も言わなかった。

 ただただアルケインの存在に狼狽し、そしてシェスカという娘を傷つけたことを憤っていたのに。


 (お前がひどい目に合わせられていたから、俺は……っ)


 自分のしたことがすべて裏目に出ているような気がして、アルケインは悔しくなった。

 あまりにも―――あまりにも違う。

 初対面でロティの本音を聞くことのできた、トールデンとは。

 苛立たしいような、物悲しいような気持ちで、アルケインはその雷雲から飛び降りた。

 二人に会ったら何といえばいいのか、その言葉をまだ彼は決めかねていた。

 ―――結局彼は、言葉よりも先に友を罵りその頭にげんこつを降らせたわけだが。



  ***



 なぜかアルケインは頑なに、こちらを見ない。

 突如として現れた精霊王は、茫然と見上げるロティから視線を逸らす。

 まだ怒っているのだと、その態度に彼女は悲しくなった。

 せっかく涙が止まっていたのに、もう一度目頭が熱くなってくる。


「いってぇなあ」


 トールデンは頭を抱えて涙目になっている。

 神でも頭を叩かれると痛いらしかった。


「あれ、お前……」


 ふと、何かに気付いたようにトールデンが顔を上げる。

 振り返ってしまった彼の表情はロティからは見えなかったが、対してトールデンの向こうに立つアルケインの表情はより一層恐ろしいものになった。


「俺に直接触れられるってことは……なに。ロティが心配でお前までこっちきちゃったの?」


「黙れ。それ以上何も言うなよ」


 アルケインの声はまるで、地獄の番犬の唸りのようだ。

 怒っているのだとロティは震えたが、トールデンは全くそれを意に介さない。

 どころか、なぜかにやにやといやらしい笑みを浮かべていた。


 (お二人は、本当に仲がいいのね)


 ロティは感心してしまう。

 精霊王の怒りを、トールデンは見事に受け流しているからだ。

 アルケインの方も、怒っているとはいえ本気で雷神を処罰したりする気はないらしい。

 そんな二人の関係性が、ロティにはうらやましく思えた。

 生まれてから今まで、軽口を叩けるような相手など一度もいたことがない。

 しいて言うなら、彫刻だろうか。

 養い親が任務で遠出している時はよく、寂しさを紛らわせるために彫刻に話しかけていたから。

 当時の悲しい気持ちを思い出しそうになり、ロティは首を振った。

 今は、それどころではないのだ。アルケインにさっきの言葉をきちんと謝罪して、許してもらわなければ。

 ロティは度胸を付けるために、コップから葡萄酒をあおった。



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