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12 神々の会話


「あっはっは、それで逃げ帰ってきたって? ロティだったか。あの娘サイコーだな」


 ここは天界。神々の住まう世界。

 葡萄酒片手に愉快そうに笑うのは、アルケインの呑み仲間であるトールデンだ。

 アルケインが地上に赴くことになった原因でもある彼は、恐い顔をした精霊王を前にしてもどこ吹く風である。


「地上に落ちたまま帰ってこないと思ったら、そんなことになってたのか。エレなんかカンカンだぞ。もう三回も俺のところに怒鳴りこんできた。『アルケイン様をどこに隠した!?』ってな」


 エレは雨の女神で、事務処理に長けたアルケインの優秀な部下でもある。

 生真面目な彼女はトールデンと徹底徹尾気が合わないらしく、アルケインがトールデンの許に赴く時はいつもいい顔をしないのだ。

 その慌てぶりがおかしかったらしく、トールデンは葡萄酒を手酌しながら思い出し笑いを浮かべた。

 この男のこういう態度がエレの怒りを煽っているということぐらい、朴念仁のアルケインにだって分かることだ。

 しかし彼はそんなトールデンの態度を注意するでもなく、眉間に皺を寄せて黙り込んでいた。

 ロティの態度は、アルケインを完全に拒絶していた。

 そのことに少なからずショックを受けている自分が、アルケインには信じられなかったのだ。

 たかだか人間の小娘一人。

 アルケインの指先一つで死んでしまうような、か弱い存在だ。しかしそれにも関わらず、彼女は真っ向から彼を怒鳴りつけた。

 普段ならなにを不敬なと、傷の一つも与えるところだ。

 ところがアルケインはそれをしなかった。

 そして今、しなかった自分に戸惑っている。

 創造主に次いで強い力を持つアルケインにとって、他愛もない存在であるはずの彼女のことが、喉に刺さった小骨のように気になって仕方ないのだ。

 酒を呑むでもなく黙り込むアルケインを、トールデンは面白そうに見つめた。

 生真面目で杓子定規なこの男が、何かに迷ったりするのはとても珍しい。


「いいねえ、地上。ずいぶんと面白そうだ」


「面白くなどない。まったくあの娘、何を考えているのか……」


「そう言うなって。元はお前が感応力を与え忘れたせいだろう。神の力を感じたことがないから、そのように不信心に育ったんじゃないか?」


 トールデンの推論は、確かにある程度納得できるものだった。

 アルケインは眉間の皺をわずかに解いて小さく頷くと、陶製のコップに注がれていた葡萄酒に口をつける。

 自作の葡萄酒はやはりいい出来で、喉を滑らせると鼻からふっと芳醇な香りが抜けた。


「それで、どうするつもりなんだ? どうせ地上に降りたのも事故なんだから、そんな娘一人捨て置いてもどうということはないだろう?」


 トールデンの提案に、アルケインはなぜか頷くことができなかった。

 普段は仕事第一の彼が、仕事以外を優先させるというのはとても珍しいことだ。

 おや、とトールデンは旧友を盗み見た。

 長い付き合いだが、こんなに何かを迷っている友人を見るのがトールデンは初めてだった。

 そして面白いことが大好きな彼は、口元をゆがめて笑みを作る。


「アル。ちょっとその小娘のこと、俺に預けてみないか?」


「は?」


 突然のトールデンの提案に、精霊王は眉を跳ね上げる。

 その反応が尚更愉快で、トールデンは笑みを深くした。


「お前がどうにも手をこまねいている相手なんて、絶対面白いじゃないか。少しは俺にも分けろ」


「なにを馬鹿な―――」


「いいからいいから、お前はちょっとそこで見てろって」


 そう言うが早いか、トールデンは自らの雷雲からひらりと身を翻し、雷撃となって地上へ降りてしまった。


「なっ、おいトールデン!」


 茫然とそれを見ていたアルケインは、後を追うわけにもいかず結局は大人しく地上に目を凝らしたのだった。


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