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01 出会いは雷のごとく

11/1 改定版


 大陸全土に多大な影響力を持つ、多神教『アトルスの天恵』。

 その信者全てに生まれつき備わっているのが、感応力と呼ばれる特別な力である。

 感応力とは、自然の中に精霊の力を感じ、それを引き出し行使する力。

 人の力では到底成し得ない奇跡も、感応力ならば起こすことができる。

 力の強い者の中には、例えば雨を降らせたり、土砂崩れをせき止める者までいる。

 聖地であるペルージュでは、十の年になるとその強さを測り子供の将来を決めるのが習わしだ。

 弱い者は、自然の力が必要ない単純労働に。

 強い者は、神殿に仕えたり軍などに振り分けられていく。

 要はその結果如何で、己の将来が決定されてしまうのだ。

 感応力とは、ペルージュの国においてそれほどまでに重要なものだった。



  ***



 ロティは孤児だ。

 はしばみ色の目と髪をした赤子は、神殿の前で泣いているところを、そこに仕える神女(かみめ)によって拾い上げられた。

 神女とは強い感応力を持った、神に仕える女たちだ。

 幼少の頃より国中から集められ、有事の際には全国各地に派遣されていく。

 大神殿と呼ばれるそこに暮らしているのは、特に強い力を持つ者たちだった。

 ロティを拾った神女もそう。

 しかし残念なことに、十歳の時の検査でロティはその感応力を全く持っていないことが判明した。

 ペルージュでも初の例である。

 ロティは神の加護のない忌子として、特に疎まれることになった。

 幸運なことに、彼女を拾った神女はロティを見捨てなかったが、それ以外は散々だ。

 友達もできず、だから母代わりの神女にべったりと引っ付いて育った。

 けれども神女は忙しい職業だ。

 特に強力な感応力を持っていた養い母は、任務として遠方に出張になることも少なくなかった。

 そのたびに残されたロティは、寂しい思いを彫刻を見ることで紛らわした。

 城の隣に位置する大神殿に刻まれているのは、それぞれに歴代の芸術家が刻んできた由緒正しい代物だ。時代によって緻密で華やかなものもあれば、作者の趣味なのかやけに筋肉質なものまである。

 いくら見ても飽きることがない、ペルージュの至宝。

 礼拝堂を埋め尽くす、美しい神々の偶像。

 特別な石に感応力を用いて彫り込まれるそれらは、光を反射して柔らかな乳白色に光る。

 女嫌いで気難し屋の精霊王アルケイン、美と愛欲の女神フロテア。ペルージュの建国物語にもその姿を現す山神アトルス。半人半蛇のエレは雨を司るのと同時に多産の神でもある。

 多神教であるアトルスの天恵は、個性的な神が多くユーモラスな神話に事欠かない。

 それは人非ざる神々が、連綿と人々に愛され続けている証拠でもあった。

 ロティは神話を子守歌に、そして神々の像を友人代わりに育ったのだ。

 そんな誰よりも神女に相応しい彼女に、全く感応力がなかったのは皮肉というより他ない。

 結局ロティは十六の年まで、養い親の世話係として神殿に残ることが許された。

 最高指導者である大神女(おおかみめ)にまで上り詰めた彼女は、最期の最期までロティを案じてくれていた。

 そんな養い親が惜しまれつつ亡くなったのは、つい先日のこと。

 庇護者のいなくなったロティには、二つの選択肢が提示された。

 それは神殿に残って彫刻磨きの掃除婦になるか、神殿を出て他の職を求めるか、というものである。

 そしてロティは大方の予想を裏切って、地位としては最下層となる掃除婦として働くことを選んだ。

 そこには勿論、お世話になった大神女の眠りをそばで守りたいという気持ちもあったが、更にもう一つ。彼女以外誰にも理解できないことではあるが、大好きな彫刻を磨き放題という誘惑に、ロティは抗うことができなかったのだ。

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