第6話♡ メイドのおすすめ~秋の夜長に変態を添えて~
アマチュア作家が話をまとめようとしてまとまらないと筆が止まって禿げ上がる
「ぐぬぬぅ!ご主人様。変態さんがいません……」
秋日荒涼を感じる井之頭公園。イブは自然や季節といった自然公園の醍醐味はなんのその、変態探しに全力である。なんでも公園の変態遭遇率はA-だそうで、多種多様な変態による異文化交流を楽しみにしていたそうだが、やはりそう簡単に生息していなかった。
「ぐぬぬぅ、とか人生で初めて生で聞いたよイブ。それにな、変態なんてそういるものじゃない」
そう、人生で『変態だー!』とはたから見て分かる者など一度も出会ったことはない。ましてや公園で、それもこの瞬間に出会うなんてある意味奇跡に限りなく近いだろう。
「そろそろいい感じに夜になりつつあるし、ラボのほうに戻らない……と?」
……うん?イブが驚いたように両手を口元にあてて目を丸くしている。すると俺の視線に気が付いたイブは、そっと右手の人差し指で俺の左後ろの方を指さし、
「ご、ご主人様っ……いました!」
小さくそうつぶやいた。
んー?どうしたーイブ?。
俺の後ろに何かいるのか?ねぇ何かいるの⁉一体何がいるの⁉
実際にそんな表情で指をさされると、振り向くのがものすごく恐ろしくなる。
すると遠くからかすかに、
「ほっ………ほっ……ほっ…」
なにこれぇ‼まだ距離はありそうだけれど確かにこっちに近づきながら「ほっほっ」と不気味な声が聞こえてくるんですけど⁉
「イブ、俺は猛烈に振り向きたくない。その指先の向こうでは何が起こっているんだ?」
一瞬の沈黙。するとイブは声を抑えながら、
「ごしゅ……ごっ!ごしゅじんさま!へ、変態さんがいます‼」
で、でたー!認めたくなかった!正直この流れで、変態が出てくることを認めたくなかった!何とも言えないホラー感があり、振り返るのがとても恐ろしい。とにかく変態と関わり合いになって良いことがあるとはとても思えない。
ということは取るべき行動は一つ、
「イブ!逃げるぞ!」
「ご、ご主人様⁉」
イブの左手を俺の右手で取り『変態』とやらから距離を取ろうと、変態とは逆の方向を見据えたまま距離を取ろうとする。早歩きで逃げる。だって怖いじゃん⁉
「……ほっ……ほっ!ほっ!ほっほ!」
いやだー!心なしか遠くの声に気合が入ってペースをあげて迫ってきている感じがする!
「だ、だめです!ご主人様!このペースでは追い付かれます!でも心なしか追いつかれてみたい私もいます♡やっぱり女子たるもの追いかけられて、追いつかれてキャー!みたいな♡」
イブゥ!?妄想しとる場合かー!!
「ぺ、ペースあげるぞ!」
「そこから始まるAtoB……え、あ、はい!ご主人様!」
変態とやらがペースを上げてきた気配があるため、早歩きを走りへと変える。しかしながら井之頭公園は広く、奥まで踏み込んでいたところに来た道から追い立てられているため、どれほど進めば人のいる通りに出られるのかわからない。その先の見えない恐怖と謎の変態に追われているという2つの恐怖が相まって、走りによる汗のほかに冷や汗も混じっている気がする。
「ご、ご主人様!」
「ど、どうしたイブ!?」
「ご、ごしゅじんさま……っ!イ、イブはもうこれ以上走れません!イブはそんなに長く走れるように作られていないのですぅ」
そうだった!イブはこんなに可愛らしくて人間らしくても機械娼婦だ。そもそも人型機械は走ることを想定されていない、セクサロイドであれば尚更だ。あれ、でも自己防衛システムが内蔵されてるとか出発前に母から聞いたような……ええい!イブがそういうならばそうなのだろう!
「ほっ…ほっ…ほっ」
すぐ後ろに変態が迫る。怖い、すごく怖い。人生17年、ここにきて変態に追われることになるなんて思いもしなかった。そして確実に近づいてくる気味の悪い「ほっ」という変態の声。イブはこれ以上走ることはできず、歩くしかなくなってしまっている。自分の緊迫感や緊張感がイブに「これは危ない状況だ」と伝わっているのだろう、とても申し訳なさそうに、そして少し眉を寄せ、心なしか泣きそうな表情の彼女。
「このイブめをお許しください。……そうです、ご主人様!イブを見捨てて一傑様だけでもお逃げください!」
イブを見捨てて自分だけでも逃げるべきか、と考えが一瞬頭をよぎる。しかしその考えはすぐに却下する。
たとえ今日の朝出会ったばかりであっても、相手が機械であっても、俺にとってイブは生まれたばかりの無邪気な子供のような、ほってはおけない存在である。それに、私を置いて逃げて!などと俺の身を案じてくれるシュチュエーションに心ときめかない男子はいないだろう。
「ほっ……」
背中に人の気配を感じる。どうやら変態は既に俺の真後ろにいるようだった。どうやら覚悟を決めるしかないようだ。
「イブ、もしもの時は俺が時間を稼ぐ。その隙に少しでも遠くに逃げて人に助けを求めるんだ。わかったな?」
「は、はい。ご主人様……」
覚悟を決めよう。今のご時世、変態は何をしてくるかわからない。もしかしたら命を落とすかもしれないし、一生残るあられもないトラウマを刻まれるかもしれない。だけれど、だけれど今はイブをとにかく守りたいと感じる。はは、そういえば初めて守りたいと思った相手が機械になるとは思わなかったな。
「ほっ」
右肩に手を置かれる、おそらく変態の手なのだろう。イブはすっかり怯えてしまっている。あんな無邪気に街を歩き、コロンを抱え、笑顔を絶やさなかったイブが、だ。
「振り向くぞ!振り向くぞ!振り向くよ⁉本当に振り向いちゃうぞ!?」
声に出して気合を入れる。イブをこんな表情にした変態とやらには少し腹も立ってきた。
そして意を決し振り向いた。
そこには全身バキバキの肉体に背中から黒い羽のようなものを生やして、口になにかボールのようなものをはめた__。
「ほぅふぅふふふぅぅ!」
変態はやはりそこにいて、そう呻いた。