第4話♡ 美少女メイドはB級センス?
映画でいえば、「VS」シリーズ。書籍であれば500円のほんとにあった怖い話シリーズとか。
あなたのおすすめB級といえば?
という茶番はさておいて、ブックマークなど心から感謝です;頑張ります!少しでも笑ってもらえていたらうれしいです!
「ご主人様!この振動器具、超弩級の振動と最強魔法級の衝撃!だそうです!イブ、気になります♡」
どうして間違えてしまったのかジョークアイテムショップに来ていた。
「ああん♡ご主人様、私のお姉さま達へのオプションアイテムが並んでいます!あの疑似性器なんて最新鋭のコンピュータによる形状制御で、凹凸が自由自在に蠢いて何にでもフィットだそうです!ご主人様!あちらの商品を買ってください!イブ、使いこなして見せます!」
「却下」
このようなお店に入るつもりは全くなかったのだが、イブが「寄らせてください!お願いです!何でもしますから!」と必死に懇願するもので仕方なしに入店をした。……したのだが、それは重大で取り返しのつかない失敗であった。
イブの知的好奇心は凄まじく、道中の三倍ほどのスピードで次から次へと声に出して感想を述べるイブ。薄気味悪い苦笑いを浮かべながら呆気にとられているわけにもいかず、「イブ、ここはイブには早い」と、イブの右腕をつかみ店外へと引っ張る。幸い昼過ぎという時間のおかげか、店内には店員さんと数人のお客さんしかおらず目と繰り返しのお辞儀で申し訳なさを伝える。しかし、店員さんもお客さんも少し鼻の下が伸びている気がしなくもない。気持ちはわからなくもないがなんというか複雑な心境である。
「うっう……イブ、初体験を奪われて泣きそうです」
「初体験とか際どい言い方をするんじゃない⁉イブ、何度か言っているけれど、お店の中では静かにするのがマナーというものなんだ。興奮が抑えられないというのは道中で少しはわかってきたつもりだけれど、改めてお願いな?」
「イブ……わかった」
どこかしょんぼり、そんな口調でうつむくイブ。なんだかすごく罪悪感に際悩まれる俺。これは自分がまじめだからいけないのか、イブが可愛すぎるからいけないのか。
吉祥寺の北口側をぐるりと回り、めぼしいものが見つからなかったため南口へと歩みを進める。北口は整備が進んでいるというのに南口はここ何十年も見栄えが変わらないと小耳にはさんだ記憶がある。バスも自動化が進み、スマートバスの導入で事故こそ考えられなくなったが、駅から出てすぐにあるこの狭い道は如何なものだろうか。
「イブ、32アイスクリームという看板を見つけました!もしかして69というプレイのお友達なのでしょうか?」
とりあえずイブに微笑みかける。世の中には69(シックスナイン)と呼ばれるプレイの内容が存在する。しかし、とてもアダルトな内容なので、信号待ちの人ごみの中で突っ込みを入れるのを避けるためとりあえず微笑むことにした。なんだかわかっていない様子だが微笑み返してくるイブ、あらやだかわいい。
「イブ、気になることばかりなのはわかるけれど、やっぱりアダルトな内容は今度こそ禁止な」
「はい!ご主人様!」
ちなみにこのやりとりは既に片手では数えきれない回数に達しているはずだ。思った以上にイブは天然というか、正直頭が足りないようにも思える。しかし『どのようなことがアダルトなのか』がわかっていない節があるようで、怒るに怒れないしイライラもできない。どちらかというとこの抜けてる感じを楽しんでいる自分がいるような気さえする。なんて表現すればいいのか、天真爛漫?屈託のない感じ?結局和んでしまう。
「はわわ!ご主人様!はぅわ!ご主人様!」
「どうしたイブ?」
「あれです!あれを見てください!」
イブが指さす先には露天商。その軒先にはプリティギュアシリーズのマスコットキャラクターであるコロンのぬいぐるみがぶら下がっていた。まるで首からつるされている犬みたいに見えるのだけれど、子供泣いちゃうんじゃないかなあれ。
「コロンです!ご主人様!私、コロンがほしいです!」
「そんなに気に入ったのか。よし!誕生日プレゼントはあれにするか!」
飛んで喜び、笑顔が眩しいイブ。彼女は声も身振り手振りも大げさなのは変わらずで、周囲に何事?という怪訝さの混じった表情をされてしまう。しかし、プレゼントが決まったという大事の前ではそんなもの霞むものだ。というか慣れた感じさえある。
「おや、お嬢ちゃん。こいつがそんなに気に入ったのかい?」
露天商のえらくごついお兄さんに声をかけられる。流石に目の前であれだけ指さして騒いでいたら、そりゃあ声をかけられるよね。
「はい!はい!そうです!イブ、コロンがほしいです!」
「ははは……」
イブの勢いに苦笑いのお兄さん。うん、わかるよ。気持ちすごーくわかるよ。
「そいつは今売れ筋の商品でな、ほかにも種類があるんだ。今用意する……な」
種類がある?表情が違うとか、ポーズが違うとかなのだろうか?基本が丸くて顔があって一応犬のような耳があるだけのすごくシンプルなデザインだから、そんなに驚くような違いではないのだろう。
「よっと……まずこいつがコロン。よくいる普通のコロンってやつだな。んでこいつが最後の表情バージョン。黒幕としてとどめを刺される時の種類でな、高校生なんかに人気だ。三つ目に、ゲス顔コロン。表情のうざかわいいゲスさと、キャラクターがそもそも腹黒いということで老若男女バランスよく売れてる。最後がはらわたコロン。デフォルメ(脚色)された綿がお腹からはみ出ているように見える、なんというか表情も少し苦悶しつつ、驚いているような感じのホラーバージョンだ。意外と若い女性を中心に人気があってだな、正直なぜ売れているのか俺にはよくわからん」
ええい!まともなコロンは用意できなかったのか⁉最初の以外全部イロモノ系じゃないか!というか本当に売れてるのか?世の中は俺の知らない事ばかりで恐ろしいな。
「イブ、はらわたコロンがほしいです♡」
嘘だといってよ、イブ。よりにもよって一番のイロモノにしてゲテモノ系を選ぶとか。
「……どうしてだ、イブ。可愛いのってあの普通のコロンじゃないか?」
「イブ、あのなんとも表現しがたい表情と、あの飛び出した綿のデザインに……お恥ずかしながら少し興奮してしまいまして……♡てへへ」
てへへ♡じゃないよ⁉もしかしてイブって意外とあのような俗にいう『B級センス』が備わっているのか?いや、単純になんとなくなのか⁉
「イブ、もしかして1番よりも2番を応援したい!とか、映画は最新作の横にすっと一本しかない謎の作品とか楽しんで見るタイプか?」
「1ばん、2ばん?さいしんさく?ご主人様は一体何を言っているのですか?」
「……なんでもない、忘れておくれ」
これだけ手を焼いていたイブに「一体何を言っているのですか?」と言われてしまった悲しみは忘れよう。た、たぶん天然ではらわたを選んだのだろう。なんというかここまでの道中で、一般的な感性から大分離れたところにイブの感性があることはわかっていたから……うん!天然だね!
「お兄さん、はらわたください♡」
「お、おう。お嬢ちゃん、その言い方だと変な誤解を生むからやめような」
嘘だろ?という驚きの表情を浮かべる俺と、恍惚とはらわたコロンを見つめる彼女。先の言葉のやり取りがお兄さんにはコントか何かのように思えたのだろう、ほくそえみながら簡単なビニール袋に入れ、手渡してくれた。
「はいよ、3980円」
事前に用意していた4000円を手渡す。
「まいど!」
お兄さんの元気な声が響く、イブは早速袋からコロンを取り出し「はわわぁ♡」と目をきらめかせ、はらわたに頬ずりしている。完全に向こうの世界にいってしまったのだろうか。
「イブ?」
「むごご……はらわたキュートですぅ……♡」
「イブー!」
「はぅわぅ⁉ご主人様!どうなさいましたか?」
「どうなさったのは俺じゃなくてイブな。まぁ、その、なんだ。そんなに喜んでくれたのならすごくうれしいよ」
「はい!ご主人様!心からありがとうございます!イブ、このような場合に該当する感情がデータベースにあります。『喜び』や『感謝』といった感情、ほかに『感動』というものなどが該当するそうです」
「そうだな、そう思ってくれると嬉しいよ」
飛び跳ね、はらわたコロンに頬ずりし、幸せそうな表情を浮かべるイブ。誕生日プレゼントを選びに来て本当によかった。イブの幸せそうな表情、声、仕草。なんだかこちらまでとても幸せを感じる。そんな 幸せな一日は、既に19時を 回っていた。