第2話♡ 母は痴女である!
「イブはその名の通り始まりのセクサロイド。イブは世界で初めて自分で考え、自分で学び、感情という人間ではプログラミングできないものを自分の経験から導き出せるの。私の最高傑作で、この後に生み出される全世界のセクサロイドの母親になる存在なのよ」
そう、自慢げに語る自分の母親、最上育生は痴女である。
年甲斐もなくビキニの上に白衣を羽織る通称「ビキニ白衣」で仕事をし、平然と外に出かける。しかし、人妻でこの年の息子を持つ母はとても若く見え、肌の張りもプロポーションも20代にしか見えない程に若々しく、雑誌取材で「奇跡の人妻」として特集を組まれていたのを見かけた覚えがある。正直息子としては、母がこのような痴女では心底たまったものではない。親子参観や入学式、三者面談など、親が来る行事のすべてに全力で日付を隠し通そうとしたものだ。
「そのお母さんである私は創世神ってところかしらね。あぁ、私自身の才能が恐ろしいわ」
体をくねらせ悶える痴女。本当に勘弁してくれよ。
「……ふぅ、一傑。あなたはさしずめ創世記で言えば始まりの男アダムってことになるわね。お母さん、あなたのDNAにはエロティシズムの全てを余りなく埋め込んだのよ。やっぱりあの時の決断は大正解だったわね!」
2040年現在、出生時の遺伝子操作は値段の安さも相まって、全世界で産まれる新生児の9割にも達しているらしい。しかし遺伝子操作も万能ではなく、遺伝子をいじりすぎると人間としての形が保てなくなった結果奇形児として産まれてしまったり、体に不自由をもって生まれてしまうことがあり「ごく一部だけしか遺伝子改変を行うべきではない」という考えが常識となっている。つまり、そのごく一部の権利をイケメンや美女ににするという外見の強化や、運動能力の強化、生まれながらに思考力を強化したりと「子供の未来に役立つこと」に絞って利用するのが常識である。
が、この痴女は息子に「エロティシズム」をギリギリまで埋め込んだわけである。なぜ誰も止めなかったか!生まれながらに人生エロ特化とか、人生において最大の汚点では?
「イブ?一傑ご主人様怖かった?無理やりされたりしなかった?」
「一傑ご主人様、とても優しい!イブ、愛撫された!」
したの?と目を向けてくる痴女。やってないから!知らないから!と全力で首を振り否定する俺。
「よしよし、いい娘ねぇイブ。でもねイブ、多分その感情はね、愛撫じゃなくて優しいとか、うれしいとかそういう感情よきっと」
「優しい……うれしい……イブ、覚えた!」
イブは正直でかわいいなぁ。なんていうか、やっぱり小さいし、なんていうかあざといというより天然だってことが少し分かってきたからか、保護欲みたいなものが沸いてきちゃうよね。ロリコンじゃないけど。
「一傑、イブと初めて会ってどうだった?上手くアダムになれそう?」
「アダムかどうかはさておいて、思った以上に人間みたいでびっくりしました。確かに言葉とか行動に問題はありそうですが、それも産まれたばかりだと思えば。それに、その……外見は完全に人にしか見えないです」
「あら、外見だけじゃないのよ?イブが何故セクサロイドか忘れてるんじゃない?」
イブの耳元で何やら囁く痴女「イブ、分かった!」と痴女にうなずきこちらにとてとて歩いてくるイブ。
「ご主人様♡抱いてください♡」
ほーう?
「ま、間違えました!ご主人様♡抱きしめてください♡」
後ろで痴女が笑っている。さっきの間違えは痴女の仕業だな。遊ばれてるぞイブ。かなりドキッとしたけど。
「ご、ご主人様?」
上目遣いでおねだりしてくるイブ。え、抱きしめなきゃいけないの?年齢イコール童貞の俺がセクサロイドといえどこれほどの美少女を?ハードル高くない?
「一傑、男を見せなさい」
「ご主人様……♡」
「え、あのっ、その……」
流石にもごもごしてしまう。イブと目を合わせるも、恥ずかしくすぐに目をそらしてしまう。だって仕方がないだろう!?いきなり恥ずかしすぎるって。
「意気地がないわねぇ……イブ、抱きつきなさい!」
「はい!お母さま!」
元気に答え、すぐさま抱き着いてこようと腕を広げ腰に腕を回してくる。いかん!心と股間の準備が!俺の抱きつかれ童貞が!と心の中で意味不明な悲鳴を上げているうちに完全に抱きつかれてしまった。
「ごしゅじんさまぁ……あたたかいですぅ♡」
「あ、はい。あたたかいです」
あかん。とてもいい匂いがする。それに腕も柔らかいなぁ……二の腕、こんなにぷにぷになんだぁ。それにとても危険なのはこの二つの柔らかい感触。イブが何度もぎゅっ、ぎゅっとしてくるからすごく意識してしまう。いかん!俺の下半身よ鎮まるがよい。というかお静まりください、下半神様。
イブはすごく幸せそうに「あたたかいですぅ」と言いながら密着してきて俺のおなかのあたりで頬ずりしている。かわいいなーやわらかいなー……いかーん!そろそろ下半神様が限界だ!俺は遅いほうではないと思いたいが、これは幸せすぎてすぐに果ててしまうかもしれない。静まり給え、下半神様!
「イブ、そろそろ離れてくれるかにゃ?」
「はい!ご主人様♡イブ、ご主人様を堪能しちゃいました♡」
そっと頬を染めながら離れるイブ。そして噛んだことはさらっとスルーしてくれるイブ。優しい娘だな。
「イブは、いろいろな経験をして感情というものを自分の中で作っていくの。だから今みたいに抱きついたり、体に触れたりすることも大事な経験になるからどんどんやってあげてね。人間同士だって、頭を撫でられたり、キスしたり、握手したりすると特別な気持ちになるでしょう?原理は同じよ」
確かに、褒められて頭を撫でてもらったり、自分の好きなアイドルの握手会に行った時なんてすごく幸せな気持ちになったものだ。何か違う気もするが。
「あと、イブはセクサロイドだから1日1回帰ってきて、ラボのほうでデータのバックアップと充電を行う必要があるの。一応48時間ぐらいは動けるはずだけれど、保険の意味も兼ねてね。だから夜になったらイブをラボの方に連れて帰ってくること。いいわね?」
「わかったよ母さん」
これだけ柔らかくてもイブは機械なんだよな、と彼女を横目で見る。視線に気が付いたのか照れて下を向いて両手でフリルの裾を掴む。とても可愛いのだけれど、積極的だったり照れたりで本人はどう感じているのだろう。といってもセクサロイドなのだけれど。
「さて!それじゃあ今日は午後丸ごと空いているわよね?早速何かしてきてちょうだい動作テストは既に終えているから、夜まで自由に行動してきていいわよ」
「イブ、お出かけしたい!」
「うーん、お出かけか」
出かける先をイブに聞くのは間違いだというのは先ほど思い知った。となればこちらで決めるしかないだろう。どうしたものか……あっ!
「母さん、イブの誕生日ってもしかして最近?」
「そうね……今日ってところかしらね。今日からイブは自分自身で自由に行動ができるようになったわけだし、開発初期にさかのぼっても昔過ぎてパッとしないからねぇ。ということで誕生日おめでとう!イブっ!」
「イブ、誕生日?」
考え込むイブ。なにか強引な気もするが、誕生日は今日なのか。それはめでたいな。
「誕生日おめでとう、イブ」
そう言って頭を撫でてやる。するとイブは幸せそうな顔をして
「イブ、誕生日おめでとう!」
と満面の笑みで見つめ返してきた。誕生日の意味があんまり分かってなさそうだけれど、嬉しがっているみたいでこっちまで幸せな気持ちになる。
あっ!誕生日ならやっぱり誕生日プレゼントをあげないとな。どれぐらいの期間彼女と一緒にいるのか分からないけれど、プレゼントってうれしいものだよね?
「母さん、今日は吉祥寺まで行ってこようと思うんだ、何か問題とか注意点とかあるかな」
「そうねぇ……イブにムラムラしすぎないようにすることかしらね。あと彼女には護身術がインストールされているから、誘拐とかナンパの心配はないから安心しなさい」
え、こんな150cm程しかない小ささで、腕とかこんなに細くて二の腕とかぷにぷにしてるイブが強いの?アニメやドラマで見かける美少女って喧嘩とか全然ダメなイメージが強いのだけれど。
「送りと迎えは必要かしら?」
「いや、初めての外出だし歩いて行ってみるよ。三十分も歩かないしね」
ここギリギリ23区外にして東京の西方に位置する武蔵境から、吉祥寺までは徒歩でそれぐらいだろう。都内だし、もしもの時はスマートバスで移動すれば困ることはないと思う。
「やったー!ご主人様とお出かけ!お出かけー!」
跳ね回るイブ。無邪気な笑顔って癒されるなぁ。
「それじゃ、気を付けてねイブ.。外には変態がいるから、本当に気を付けるのよ」
マザー、俺の心配は? というか外に変態ってどんな教育してるんだ。