第10話♡ 公園の池には変態が咲く
「我、サタン山本!封印を解かれ今、井之頭公園に降臨せりぃぃぃっ!」
サタン山本。その口にアダルトなボールをはめ、背中に漆黒の羽を生やし、髪形を一角獣スタイルに固めた、ブーメランパンツ一丁のマッチョ……とにかく存在が汚い成人男性。
堕天使降臨などという存在自体が痛々しい変態が繰り出した、二つの意味で痛い技を放ち終え一呼吸。彼の口元にあったアダルトなボールはいつの間にか外れ、背中の黒い羽根も堕天使降臨ではじけ飛び、もはや彼の存在は「ブーメランパンツを履いたただの汚いマッチョ」である。
「キリストの教義に背きし、不浄なる淫売婦め。その存在、この福音派排斥担当司教、サタン山本が浄化してくれ……フォルゴゥッ!?」」
彼の語りは、イブの目にもとまらぬ強烈な回し蹴りにより中断された。
「ゴッホッ……まって!?なんか待って!?ちょっとまって!?」
「山本さん!イブは激おこぷんぷん丸です!ご主人様にまで危害を加えようとするなんて……あなたの明るい家族計画もここまでです!ご覚悟してくださいませ!」
「ごはっ!いや!家族計画とか一言も我言ってないよね!?貴様の妄想でしかないよね!?あぶ!?あぶないって!!」
「問答無用です!私の女子力の前に懺悔してください!」
……あっけにとられてしまった。堕天使降臨の後、少しだけ涙目だったイブはサタン山本へ突然蹴りかかり、メイド服のフリルをなびかせ、そのままサタン山本を体術で圧倒しはじめた。
そういえば「ご主人様に手を出したら許しません!」みたいなことを言っていたけれど、実際に堕天使降臨が俺に向いたことがイブの怒りに触れたということなのだろうか。
「山本さん!あなたの明るい家庭、見てみたかったです……イブ、こんなことになって悲しいです!」
「まて?まつんだ?まってッ!?」
それにしてもイブの体術はサタン山本の比ではないな……。確かにサタン山本は絵が汚いが、体術は空手の応用のような綺麗でキレのある技の数々に、漢肉体で威力を倍増させるという凶悪的な体捌きをしてくるほどの猛者であった。
そのサタン山本を圧倒するまでの蹴りのコンビネーションを、メイド服という一見動きにくそうな服装でイブは繰り出し続けている。
「ごっは!?」
サタン山本の右脇腹にイブの右回し蹴りがついにクリーンヒット、封印とやらが解けてしゃべりだしてから20秒も持たなかったサタン山本。
「ぐっ……!この淫売婦め!私に手を出す意味が分かっているのか?私は宗教の先兵……宗教の意思を代表してこの場に立っているのだぞ!私に手を出せば世界中の宗教意思を相手にすることにッ!ゴッハッ!?」
イブの問答無用のかかと落としがクリーンヒット。なびく白黒のフリル。頭から地面にこすりつけられるサタン山本。
「そうだ!がんばれイブー!!」
応援することぐらいしか、この達人同士の様な立ち合いを前に俺ができることはない……が、人生初めての命の危機、そしてイブの涙。サタン山本が許されない理由は十分にある!
「これはさっき翅が刺さって凄く痛かったイブの分!」
地面に突っ伏したサタン山本の脇腹に蹴りがクリーンヒット。というかやっぱりすごく痛かったんだね。
「これは!あなたの家族計画で生まれるはずだった子供の分!」
サタン山本の頭部を右手でつかみ持ち上げ、そのまま全握力を頭部にかけるアイアンクロー。あれ、身に覚えのない冤罪では?
「これはクリリンの分!」
右手でアイアンクローを継続、左手で腹部へのフック、フック、フック!というかクリリンって誰だよ!?冤罪だよこれ!?でも同情はしないぞ‼!
「そしてこれは!コロンの分!」
コロンは、見るも無残。翅による攻撃で俺を庇ったために手放さなければならなかったため翅の直撃を受け、綿の塊になってしまっていた。
そのコロンを横目に、アイアンクローの右手を上下に勢いをつけ、サタン山本を2メートル近く空へ打ち上げた!
すぐさま左足に勢いをつけるイブ。途中で気絶していたらしい空高く舞う白目の変態。
「最後は……ご主人様に危害を加えようとしたぶんです!」
そう言い放ち、落下してくるサタン山本の左わき腹にイブ渾身の左回し蹴りがクリーンヒット!サタン山本はその後10メートル近く地面に度々バウンドしながら吹き飛び……派手な水しぶきと共に井之頭公園の池に浮かんだ。
「ふっ……またつまらぬ変態を成敗してしまいました……」
どや顔と同時に、ふらっと姿勢がよろめくイブ。
「イブ!?」
とっさに駆け寄るが、そのまま倒れこみそうになっている。
「イブ、大丈夫か!?……ッ!」
距離的に間に合わないと感じ、イブの体と地面に割り込むようにヘッドスライディングをする俺。しかしひざを折り、力が抜けるように倒れこむイブのお尻が顔面に直撃。これはうれしい誤算!
「ご、ごしゅじんさま……ご、ごめんなさい。少し力を使いすぎてしまいました;少し休めばすぐに動けるようになりますのでっ」
「わかふごぅ、まもふぉてくれてありふぉといふ」
わかった、守ってくれてありがとうイブ。と喋ろうとするがスケベな布が顔面と密着してうまく喋れないハッピー誤算。
……それにしてもサタン山本、外見も中身も恐ろしい存在だった。キリスト教の排斥司教、と名乗りイブを破壊することが目的と言っていたが、今後もイブは狙われ続けなければならないのだろうか?
「はんっ♡ご、ごしゅじんさま……あ、あまり動かないでください♡あの♡息が♡あたって♡」
それにしてもイブも凄まじかった。まさか機械娼婦があれほどの体術を使えるとは。
「あんっ♡だめですごしゅじんさま……イブ、もう♡」
徐々にイブからの尻圧により、酸欠気味となり意識が遠のく……ああ、素晴らしきかなスケベな布。そして今日一日、ありがとうイブ。
「……♡…………?…………!?」
そのまま俺の意識は失われた。