プロローグ
にわか雀士の偶数です。二次創作を書いている身なのですが、オリジナルを書いてみたいと思い立ってこの作品を書き始めました。
「リーチ」
叫び声に近いリーチ宣言が薄汚い雀荘の中を響いた。対面に座る大柄な男はリーチ棒を場に献上し、自分が求める牌がくる瞬間を今か、今かと待ち続ける。上家、下家に座る男達は生唾を呑み込んで男が叩いた現物を慎重に場に捨て始める。
「ロン」
上家に座る青年はロンという掛け声に肝を冷やした。
俺はダマで張っていた平和のみの安手を表す。対面に座る男は呻き声に近い声を出して悔しさを表す。それ相応の手が入っていたのかもしれないが、上がれなければ点数はもらえない、上がれる手が正義なのだ。
「一位の総取り、一人100G、合計で300Gだ。早く払ってくれ」
項垂れる男達は財布の中、ポケットの中から100Gと書かれたお札を取り出し、雀卓に叩き付けて雀荘を後にする。俺は皺くちゃになった100G札を財布の中に入れ、次の対戦相手を探す。が、さっきの闘牌を見ていた客達は俺と打つことを頑なに拒否してくる。それもそのはずだ、俺はこの雀荘に入ってから一度も負けていない。麻雀は運が絶対的に絡むゲーム、それを勝率百パーセントで勝ち続けている俺はふつうに麻雀を打っている善良な雀士にとっては化け物にしか見えないのだろう。
仕方なく雀荘から立ち去ろうとするとスーツ姿の老人が肩に手をのせた。
「俺はこの店に場代はちゃんと払ったはずですが?」
「大丈夫、私は用心棒ではありません」
小気味良い重低音の男らしい声、顔は老人らしく皺が目立つがよく整っていて、このくらいの年齢の男性が好みの女性にとっては堪らないと思えるくらいだろう。
「じゃあ、何の用ですか」
「君と麻雀を打ってみたいだけだよ」
老人の鋭い眼光が雀士だということを物語っている。
空気が凍る、体中の毛が反応する、これが威圧感というものなのか......
「遠慮しておきます。実力の差があり過ぎるようなので......」
老人は非情に残念そうな表情になる。威圧感が消え去り、淀んだ雀荘の空気に戻った。ほっと胸をなでおろす。
「じゃあ、ノーレートならどうだい? 私は君とどうしても麻雀を打ちたい」
「......ノーレートなら、いいですが」
老人はにんまりと笑い、俺の対面に腰を下ろした。それ以外の対戦相手はノーレートなら、という中堅の打ち手が上家と下家についた。
次回は主人公がコテンパンに負けます。