ソノ階段踏ミ外スナ
ある人は、気が付くと階段に立っていた。
そこはまるで宇宙のようだった。後方には階段がなく、代わりに星のような光がたくさん散りばめられている。前方には何十段ともあろう階段が続いていた。前にはただ、階段が続く限り。深い闇があるだけで星のような光はない。
ある人は後ろを向くと、散りばめられた光に感動し、ほぅと息をこぼした。懐かしさが胸に込み上げてくる。一つの光のことを想うと、その光がパッとひときわ強く輝く。ああ、そういえば、こんなこともあったな。ある人は小さく笑った。
次の段にある人は足を踏み出した。すると、次の段にある人が立って少しも経たないうちに、それまで立っていた段は崩れ落ちた。ある人はそれに気付かず、また次の段に足をかける。ある人が階段をあがればあがるほど、階段は闇の中へ崩れ落ち、短くなっていく。
ふと、ある人は後ろの段に戻ろうかと考えた。立ち止まり、降りるつもりで足を踏み出しかけた。しかし、後ろの段がなくなっていることに気付き、寸前で足を元に戻した。
階段が後ろに続いていないなら、戻るものも戻れない。仕方ない、諦めよう。
そう思い、前を向こうとした時だった。光が辺りを包み、一つの光景がある人の目の前に飛び込んできた。
交差点だ。ある人は自転車のハンドルを握っている。信号が青になり、ペダルをゆっくりと漕ぎ始める。横断歩道を渡りきる直前、左手から信号を無視した自動車がある人に速いスピードで近付いて――
自転車と自動車のブレーキ音。運転手の開ききられた目。ぶつかり合う、鉄の塊と人。それからドンともガシャンともつかぬ音。
ある人が立っていた段が崩れた。ある人はとっさに次の段に手を伸ばし、掴んだ。下はただただ暗く、底があるとは思えない。手が滑り始める。ゆっくり、ゆっくり。汗が止まらない。この階段から落ちると、自分は恐らく……。
ある人はぐっと歯を食いしばった。そして、今まで出したことがないほどの大きな声と力を振り絞って、自身を階段の上になんとか戻した。安堵にある人は目を閉じた。
次に目を開くと、そこは病室だった。周りには親族が、友達が、仕事仲間があふれていた。ある人が意識を取り戻したことに、皆一様に喜んでいるようだ。
ある人は体を起こそうとして、顔をしかめた。全身を激痛がおそった。そうだ、自分はあの交差点で車と事故に遭って――
それにしても、さっきの階段は一体何だったのだろう。ある人は周りの人々の言葉にこたえながら思うのだった。
中学の頃に部活動で描いた作品をもとに過去に書いた作品です。
数年前に書いた短編がパソコンの奥に眠っていたので引っ張ってきました。
そのうちしっかりと書き直してみたいです。