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プロローグ

こんな作品読みたいな~、と思い書いてみました。

自己満足に近い内容なので色々思うところはあると思いますがご容赦ください。

 (あく)が好きだ。

 私は(あく)が好きだ。

 私は(あく)が大好きだ。

 どうしてこうなったのかなどということは、今となってはどうでも良いこと。

 ただ、今の私は悪に恋している。

 ただ、今の私は悪を愛している。

 それだけ分かっていればいい。

 そう、それだけでいい。

 それが私だと、それこそが私なのだと胸を張って言える自分を誇りに思う。


「美しいな… 」


 眼下に広がるのは、愛すべき我が同胞達が広げ続ける阿鼻叫喚の坩堝と化していく都市の情景だ。

 整然と並んだ建物は脆くも崩れ、いたるところから火の手が上がり、その灼熱の手を次へ、さらに次へと広げ続けている。

 月に照らされる闇夜の空が炎の赤で照らされる様は溜息が出るほどに美しく、頬を撫でる熱気が心地よい。

 腰まで伸ばした黒髪がはためき、頭に乗せた軍帽をずらされる。

 それを両手でしっかりと直しながら眼下の地獄と化した都市へと視線を落とす。


「なあ、お前もそう思わないか宿敵?」


 おそらくこの場景(じょうけい)の中にあり、自分達に戦いを挑んでいるであろう青年に向かって言葉を放つ。

 次の瞬間そんな自分の言葉を否定するように轟音と獣が上げるような咆哮が同時に響いた。


「グルゥオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォァァァァァァァァァァァァァ―――― 」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――― 」


 二対の雄叫びがお互いを押し潰さんとするようにあがる。それの発生源に目を向けると自然と己の口角が上がるのがわかった。

 そこでは今まさに一つの戦いが終わりを迎えるところだった。

 虎の頭部を持ち、その体を戦闘服(バトルスーツ)で固めた三メートルはある人型の異形、その鋭い爪を持った両腕を繰り出した格好のまま胸を踏み抜かれ瓦礫の山に突っ込んでいく。

 ≪獣機人≫ さまざまな獣の特性を織り交ぜた ≪キメラ細胞≫ を移植、さらに人工筋肉等での強化を施し、装甲となる戦闘服(バトルスーツ)で身を守った人類を超越した怪人であり、私が設計製作を行った愛すべき同胞の一人である。

  

「来たか宿敵」


 自分の口角がさらに、犬歯を覗かせる程吊り上るのが分かる。きっと今自分はとても、とても嬉しそうに笑っているのだろう。

 炎に赤々と照らされながら一人の異形の戦士が下から私を射抜くような視線で睨んでいた。

 全身が白銀に輝く甲冑のような戦闘服(バトルスーツ)を身に纏った私の最高傑作。

 今までに私が創造した怪人達をことごとくを葬ってきた男。


「今日こそお前を倒す首領!! そしてこの戦いを今日で終わりにする!!」

「フッ、私の戦いは既に終わったよ宿敵。今行われているのは事後処理のようなものにすぎん。まぁ君との腐れ縁に決着をつけるのも一興だ、来いよ… 英雄(ヒーロー)


 強い強い意志を籠められた瞳が私を射抜く、ああ、そうだな宿敵。

 今日こそ雌雄を決しよう。

 そして、最愛なる首領閣下。

 参謀として最後のこの戦いを貴方に捧げます。

 私は両手を広げ天に向かって顔を上げる。

 歓迎するように、祈るように、祝福するように、そして開戦の合図となる言葉を口にする。

 


変身(へんしん)


 それは引金となる言葉(ワード)。私を人以外のモノへと変貌させるための儀式だ。

 視界が朱に染まる。

 私の身体の肉が、骨格が、細胞が、人以外のモノへと変わっていく。

 全身を固い鱗や甲殻が覆っていく、爪は鋭く尖り、眼の瞳孔は蛇のように細く、額から耳上を走るように六つの複眼が並ぶ、数瞬後に現れたのは爬虫類と昆虫を合わせたような漆黒の異形の戦士の姿。

 そして私と宿敵との戦いが始まった。




 悪となるにはどうすればいいか。

 世にいう悪行を軒並み実行すれば良いのか。

 なるほどそれも正解だろう。

 だが、それで良いのか?

 そんな簡単で安易なものが私が求める至高といえる悪だろうか?

 否、否、否否否、断じて否だ。

 真の悪とはもっと崇高なものであるはずだ。

 対をなす正義がそうであるように、私が求め、(こいねが)い、狂おしくこの手にあれと望んだのは、そんな簡単に手に入って良いものであるはずがない。

 故に私は考える。

 至高の悪とは何か、私は考え思考し思索を続ける。それは一種の信仰といえるほどに、そして私が辿りついた答えとは―――




 二刀の蟷螂(かまきり)の鎌を模して生成された刃が一瞬の間に数十の斬撃を繰り出す。

 そのほとんどは白銀に輝く両腕に弾かれるが、数撃が白銀の甲冑に当たり火花を上げながらガリガリと硬い装甲を削っていく。

 それでもなを彼は前に出るのを止めはしない。

 前へ、前へ、さらに前へ、そして繰り出される彼の渾身が込められた拳を私は避けられないと感じ、両手を十字に交差して受ける。

 空気を震わせるほどの衝撃と共に両腕から生えていた鎌がその衝撃に耐えられずに折れ宙を舞った。


「グゥッ!?」


 鎌が犠牲なった恩恵か両手が折れるのは免れたが、硬直するように肩から指先にかけて痺れが走る。

 時間が経てば回復するだろうがこの相手にはその数瞬が命取りだ。


「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――― !!」


 案の定、彼は追撃を仕掛けてくる。


「なめるな!!」


 彼の拳が私の胸にめり込み黒い装甲を破砕するのと、私の蹴りが彼の脇腹に突き刺さり白の装甲を砕いたのは同時だった。


「ガァッ!?」

「ゴハァッ!?」


 互いの攻撃の衝撃で体が吹き飛ぶ。

 彼はビルの硬いガラス窓を突き破り、私は火が回ったカフェへと扉を突き破って来店する。

 コーヒー豆の良い香りと建物が燃える煙の匂いが鼻についた。

 私はぶつかった衝撃で半壊したカウンターに手をついて立ち上がる。

 一撃もらった胸の装甲には無数の(ひび)が走り拳が当たった箇所は陥没し破片をこぼしており、衝撃の凄まじさを物語っていた。


「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――― !!」


 上がった雄叫びに目を向けると扉の無くなった入口向こうに白銀の甲冑が猛然と突進してくる姿が見えた。

 それだけで地面のアスファルトは剥がれ舞い上がり、周囲の硝子(ガラス)はビリビリと震え、ついには耐えられず割れて砕け地面に降り注ぐ。

 宙を舞う硝子の破片が炎を反射し一種幻想的な雰囲気を演出していた。

 今が戦闘中でなければ見惚れてしまいそうな光景。だが、残念ながら今は一瞬でも気を抜けば首を死神に刈られるような死闘の最中だ。

 ああ、ああ、まことに残念なこと。

 私は一つの砲弾のように直進してくる宿敵を見据え、それに対して切り札の一つを切る。


「ぬうっ!?」


 次の瞬間、音速に近い速度で突進していた彼は横合いから車に撥ねられたように吹き飛んでいた。


「ぐがぁっ!?」


 その勢いのままコンクリートの壁を突き破り派手に粉塵をまき散らす。

 そしてそれだけでは終わらない。


「なっ!? う・うぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――― !?」


 彼の身体は糸で釣り上げられた人形のように宙を舞い、ゴムボールのように壁に、地面に叩きつけられ続けていく。

 抵抗しようと宙に浮きながら身体を暴れさせているが、無駄だ。

 私の切り札の一つ ≪念動力≫。

 生物の可能性の一つであり、数多の人体実験の果てに得たものだ。

 今の私は数tの重さの岩くらいならば宙に浮かせて砲弾のように撃ち出すことも可能である。

 だというのに。


「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――」


 彼は壁に叩きつけられる瞬間に身体を捻り壁を蹴って方向転換。

 私に向かって突進してきた。

 念動力は切っていない、つまり数tに及ぶ重量を押しのけながらの突貫劇。

 冗談にもほどがある。

 予想外の出来事に一瞬呆気にとられ、完全に虚を突かれた。

 数多の同胞達を葬ってきた蹴撃が私を捉え、私の身体はトラックに撥ねられた小動物のように宙を舞った。

 視界が二転三転し、かってない衝撃が全身を襲う。

 途切れそうな意識を掻き集め、顔を上げる。

 そこには何故か懐かしい場景があった。



 悪についての考察を続ける私にある出会いがあった。

 それは心優しい青年との出会い。

 しかし彼の瞳には小さな狂気が(くすぶ)っているのが見てとれた。

 彼は慈愛を含んだ微笑みを浮かべながら言った。


「獣も、鳥も、虫も、魚も、人も、大地も、海も、空も、この地球に芽吹く生命と自然の全てが愛しいんだ」


 彼は顔を覆い悲しみに押し潰されたように泣いた。


「全ての生命に残された時間が短すぎる」


 彼は涙を流しながら狂気が混じった顔で笑った。


「少しでも時間を延ばすために人類を減らすんだ」


 私が彼と会った時人類はその人口を増やし続け百億を超えようとしていた。

 環境・資源・国際情勢、それぞれの問題を積み上げれば空を超え宇宙へと届くのではないかという状況。

 前述に挙げた資源不足による宇宙開発の頓挫がそれに拍車をかけ、人類は地球とその上で生きる己以外の生命をも道連れにして坂を転がるように滅亡へと進んでいる。 

 そんな状態を彼は人類の人口を激減させることによって遅らせようと考えたらしかった。

 常人が聞けば眉をしかめるか、冗談かと笑うだろう。

 しかし私はそれを肯定し、最大限の敬意とともに受け入れた。

 その後は入念な準備を経たこともあり、多少の問題はあったが大願は成就されようとしている。

 そう―――


「我が事は成れり」


 瓦礫を背にして私は呟く。

 右手と左足は吹き飛び、残った右足もあらぬ方向に曲がりもう立ち上がることすらできないだろう。

 左手が唯一無事ではあるが戦闘は続行不可能と言っていい、それどころか地面に広がり続ける己の血の量を考えれば私の命は後数分もてば良いほうだろう。

 それでも私の口元には笑みが浮かんでいた。

 

「何が可笑しい!?」


 満身創痍の私の眼前には白銀の英雄が立っていた。欠けた仮面から覗く激情を乗せた視線が私を見下ろす。


「勝ったことが嬉しいのさ… 私は私の悪を貫き勝利した」


「勝利? その状態からまだ俺に勝つ手段があると?」


 私の言葉を受け警戒をあらわにする彼の姿に、喉から笑いが込み上げる。

 違うよ宿敵、的外れにも程があるだろう。


「クックックッ、そういう意味じゃないさ宿敵。私と君との勝負で言えば勝者は君さ、私の心臓は後少しで停止し、血流は止まり、脳はそれの後を追うだろう。つまりは死だ」


「… 何が言いたいんだ?」


「簡単に言えば【試合に負けて勝負に勝った】そんなところだ。私は死ぬが、私の目的は達成された。故に私は勝利した」

  

「お前の目的? この大量虐殺が、お前の目的だとでも、言うのか!?」


 私の胸倉を掴み、怒りで思うように動かないのであろう口から、彼は吐き捨てるように言葉を一つ一つ紡いでいく。

 白銀の仮面から除く瞳は潤み今にも涙が零れ落ちそうだ。

 彼の怒りは正当だ。

 今世界中で行われているであろう大量虐殺はどんな理由があれ許されることではないだろう。


 そう、それ故に悪なのだ。


 首領閣下の目的はこの先にあるのだろう、今が終わった荒野から再生への未来へと到る道。

 彼の知性・技術力・カリスマ性をもってすれば成功は想像に難くない。

 しかし私は違う、私だけは此処が終着点だ。首領閣下の目的の過程である今此処が、此処こそが私の目的であり、だからこそ膝をつき忠誠を誓ったのだ。

 全ての悪行は私が大事に大事に抱えて持っていく。


「そうだ。なかなか楽しかったぞ宿敵。お前との遊戯は」


「首領ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお―――― !!!」


 彼の手が振り上げられる。それは私の命を終わらせる致死の一撃への予備動作。

 そうだ宿敵よ、私達は合わせ鏡だ。

 正義と悪。

 相反するものであるが故に離れることができない。

 故に私は敗北と共に悪を一身に背負うことができ、君は今勝利と共に正義となった。

 私は悪になりたい。

 私は悪でありたい。

 私は悪だ。

 君のおかげで私は悪となれた。

 最大限の感謝を君に贈ろう。

 

「君が宿敵で良かった」


 彼の手刀が振り落される。

 最後まで口の端を笑みで歪めて、私の首は宙を舞った。


舞った首。そこで終わるはずだった。

しかし、次に目覚めた時悪の参謀が見たものとは―――


次回 「神との対話」


悪の参謀は決断を迫られる。


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