刻まれた未来は、凶兆の印2
夏堀を飲食店に置き去りにしてから歩く事、数分。
穂摘はようやく目的の温泉の入り口へと辿り着く。
温泉と言うと和風な響きがあるが、ここはどちらかと言えば洋風の内装で揃えられており、アンティーク風の照明が嫌味なくらいに輝いていた。
「なるほど、な」
先日の夏堀の件もそうだが、日本に西洋の妖精は、居ない。
どうやって日本に来るのかと言えば、異国から何かにとり憑いて来るしかないのだ。
アリアや緑の歯が彫像に憑いて来ていたように、ここの化け物も何かのアンティーク品に憑いて来ている可能性は、この時点で大いに有り得る。
和風内装にしておけば、少なくとも西洋妖精に居座られることは無いだろうに。
そんな事を一瞬思う穂摘だったが、その考えはすぐに否定される。
和風内装にされては仕事が来なかったかも知れないのだから、有り難く受け取っておこう。
そう、あくまでポジティヴに考える事にした。
勿論事業主は頭が痛いに違いないが。
現時点では依頼は受けておらず、あくまで視察。
穂摘は一般客同様に受付を経て、温泉に入って行く。
更衣室に入ると、ロッカーは週末だというのにかなり空いていた。
午前中から温泉に入る者も確かに多くは無いとは思うが、それを差し引いても土曜にしてはやはり空いているような気がする。
これでは化け物退治などと言う馬鹿げた依頼をせざるを得ないわけだ。
ちなみに今回の依頼主は、既にお祓いなどの対処はしているらしい。
日本の化け物にそれが通じるかどうかは穂摘には分からないため、その手の前情報は全く役に立つものではなくスルーしているが、実際のところそういう依頼主は多い。
祓くらいならば日本人にとっては敷居の低い対処法なのだろう。
ロッカーに荷物を入れ、脱ぐだけ脱いだ穂摘は、タオル片手に浴場へと足を踏み入れる。
眼鏡をかけていないため視界はあまり良くない。
裸眼でも生活くらいならば出来る程度の視力はあるが、湯の効能などの説明書きは読めそうになかった。
しかし、それらは今回は不要。
決して楽しむことがメインでは無い。
彼は説明書きなどよりも、その目で見極めなくてはいけないものが他にある。
問題の箇所はサウナだと予め聞いていたため、体を洗った後に広い浴場を見渡してサウナを探した。
噂が広まっているのか、軽く覗いたところサウナには誰も入っていないようだ。
意を決してドアを開けるが、そこにはやはり誰も居ないし、何も見えなかった。
今回の依頼はハズレだったのかも知れない、と穂摘はそう考えて、とりあえずこれ以降は温泉を満喫する事に意識を切り替える。
この温泉のサウナは、入った時の内装同様にやはり日本のものとはどこか違うデザインで造られていた。
椅子や床などは木なのだが、サウナを暖めるための炉の外観は煉瓦造りの洋風のもので、むせるような湿気さえなければまるで北欧の室内のようだ。
部屋の温度も、体感ではあるがそこまで高くないように穂摘には思える。
日本のサウナによくある、じりじりと乾いた熱さも良いが、これはこれで良いな、などと完全にサウナを楽しんでいたところだった。
サウナの出口扉に、すぅ、と腕が生えた。
いや、生えたのでは無い。
何かがすり抜けてきたのだ。
腕の後、すぐに体が続いてすり抜けてくる。
見え始めたソレが、果たして幽霊なのか妖精なのか、穂摘にはまだ把握出来ずにただじっと息を潜める。
何しろ今回は情報によると、かなりの目撃証言が得られている以上、一般人でも見えてしまう類の化け物なのだから。
つまり、幽霊だったとしても穂摘が見える可能性は否定出来ない。
やがてソレはサウナの中央に立ち尽くした。
ぴったりと、穂摘と目を合わせて。
「あら?」
疑問符を投げ掛けつつも、彼女はさほど気にした素振りを見せずにそのまま歩み、ベンチに腰掛ける。
穂摘はと言うと、何やら別の汗が出てくるのを感じずには居られなかった。
何故なら、今、穂摘に見えている相手は……見た目は普通の女だったからだ。
しかも、タオルを軽く巻いただけの、半裸の。
これはどうしたものか、と穂摘は悩む。
間違いなく、目は合った。
ただ、少なくともすぐに危害を与えてくるようには思えない。
目撃証言とやらを詳しく聞いてはいないものの、確か目撃だけでなく事故のような実質的な危害を加えられているはずなのだが、それも無い。
女の幽霊だか妖精だかそのテの化け物と共に、ただサウナに二人きり、と言う頭の痛くなるような現状だけが続く。
目のやりどころに困るため敢えて視線を外していたが、もう少し相手の特徴を捉えておくべきか、と穂摘は隣に座っている半裸の化け物を横目に見やる。
しかし、穂摘が見ていなかっただけで相手はずっと穂摘を凝視していたらしく、その瞬間ばっちりと目が合ってしまった。
目が合うのはこれで二度目だ。
穂摘の反応を確認し、その存在は不思議そうに首を傾げて言う。
「驚かないから勘違いかと思いましたが、やはり既に見えているのですね」
彼女は、見えている事に驚いている。
つまり、相手は姿を見せるつもりは無かったのに、穂摘に視認されたということ。
この現象は先日の犬女然り、妖精である事を示している。
まだ穂摘は何の危害も加えられていないが、多分危害を加える際に可視化した時だけ一般人に目撃されているのだろう。
緑の歯の時、それまで確認出来なかったにも拘わらず襲われた瞬間だけは夏堀にも見えたように。
「僕は、妖精が見える人間なんでね」
「あら、この国では珍しいのではなくて?」
「厳密には全部日本人じゃないから」
「そうなの」
思ったよりも普通に会話が出来ている。
黒い犬女の時同様、コミュニケーションは取ることが出来る類の妖精らしい。
しかし、まだ依頼を受けていない段階で完全に接触してしまった事は穂摘にとって少し困る状況でもあった。
ここで会話だけでこの妖精を退去させる事に成功してしまった場合、依頼が取り消されてしまうからだ。
となれば、ここは情報収集のみに留めるに限る。
「ところで、何故よりにもよって男風呂に居憑いているんだ?」
「私の炉がここに運ばれたからですわ」
「あぁ……それは災難だったね」
「いいえ、異国の男性で目の保養をさせて頂くのも悪くありませんから」
妖艶に笑みを零す、女の妖精。
白に近い金髪はしっとりと肩から胸にかけて傾れて、顔立ちも美しい。
これが人間ならば一般客としても十分過ぎるほどの目の保養が出来ているに違いない。
ただ、真っ当なコミュニケーションの取れる美しい女が少し見えたところで、このように閑散としてしまうとは思えない。
どちらかといえば内容的には、噂が広まれば一目見ようと客が増えてもおかしくないものだった。
なのに客が減っているのなら、きっと別の何かがあるのだろう。
一先ずこの依頼は受けて、もっと事業主に詳細を聞いておくべきか。
穂摘は立ち上がり、サウナを出ようとドアノブに手を掛けるまでしたところで妖精のほうに振り返る。
「僕としても綺麗な女性が見えるサウナなら歓迎だ。また来るよ」
無言で去るのも不自然かと、最後に世辞だけ述べて。
微笑む妖精を見て、内心ほっとしながらその場を去ろうと彼女に背を向けた。
そこへ、耳元に甘い声が、不吉さを潜ませて零される。
「……嘘吐き」
「いッ、た!」
背中に走った激痛に、悲鳴をあげる穂摘。
直後、背中を強く押されて穂摘の体は転がるようにサウナから追いやられた。
悲鳴と物音で、浴場にいた数人の一般客の視線が、蹲っている穂摘に集中する。
「おい、兄ちゃん背中が血塗れだぞ」
比較的近くに居た男が、恐怖よりも興味を抱いているような目をして声を掛けてきた。
ここで騒ぎを起こしては、後々面倒なことになりかねない。
穂摘は落ちてしまったタオルを拾って、痛みに堪えながら立ち上がって言う。
「垢すり……し過ぎただけさ」
信じて貰えそうに無い言い訳だったが、それ以上見知らぬ男を問い詰めるような者も、その場には居なかった。
その後、痛手を負いつつ温泉を後にした穂摘は、帰りの駅で夏堀と再会してしまう。
待ち伏せされていたとしか思えないがそれを否定する女子高生相手に強く問う気力も湧かず、逆に問い質されるがままに結果を彼女に教えた。
「……じゃあ、今度は正式に依頼を受けることになるんですね?」
少女の顔が、ほんのりと明るくなったように穂摘には見える。
「そうだな、いまいち何がしたいんだかよく分からない奴だったけど危害を加える事に抵抗の無い奴は排除しておくに限るだろ」
「何でしょう、私怨が入っているように聞こえるのは私だけでしょうか」
「君だけだ」
血は止まったが背中の傷が治ったわけではなく、痛痒い感覚に苛まされながらもベッドタウンの最寄り駅まで辿り着いた。
日差しは今、丁度一番高い頃だった。
アリアはほぼ毎晩アポも無しに穂摘の家に食事をしに来るので、わざわざ呼ぶ必要も無い。
彼女が来るまでに依頼を正式に受けておき、彼女が来てから対処の為の相談をすれば良いだろう。
が、そうは夏堀が卸さない。
「私にも仕事をさせてください!」
「いや、だから、君に頼めるのは本当に雑用くらいで……」
「そんなこと言って借金返させずに、ずっと私を囲っておく気ですか!?」
穂摘の予定ではここで解散するはずだったのだが、借金が全く減らない予感に、夏堀が食い下がってくる。
彼女の誤解を招きそうな言葉に、怪我が疼く穂摘の背中が別の意味でひやりとした。
「そんな気は無い! 急いで返したいなら別に貯めた金を持ってきてくれても構わないから」
「うっ……そ、そうですよね」
「そ、そうだろう」
「でも穂摘さんの手伝いをしたほうが早いんです。時給的な意味で」
「それも、そうだろうな」
「手伝わせてくださいよ!」
「だーかーらー」
手伝う事が無いと言っているのに手伝わせろの一点張り。
これには流石の穂摘も返しようが無い。
自宅に一旦帰りたいが、私服の女子高生が着いて来ている。
正直、家にあげる気も無ければ家を知られる気も無いのだが、容赦なく頭上の太陽は、穂摘の茶けた髪を焼く。
顔をあげると、頬までもが焼ける感覚が増した。
そろそろ心が挫けそうだった。
「じゃあ君に頼みがある……」
「何ですか!?」
根負けした穂摘が財布から万札を取り出し、夏堀に手渡す。
「適当にアイスを四つ、そして何か傷薬とガーゼに、包帯みたいな物を買って来てくれないか。あぁ、買って来たら電話をくれ。取りに出てくるから」
「え」
「暑いから、僕は先に帰って待っている」
それは仕事と言うよりはただのお使いだろう。
だが、その行為で十数分を稼いで給料になるのだからしないはずも無く。
穂摘の意図を痛いほど察した夏堀は、半分泣きながらドラッグストアに駆けた。
しばらくして戻って来た夏堀からアイス等を受け取り、散々文句を言う彼女に一つだけアイスを与えて撒いた後に、穂摘は自宅のパソコンを起動させる。
そこに映っているのは、温泉の件の依頼メール。
これから依頼承諾の返事をするつもりの穂摘だが、今はまだ背中の傷に薬をうまく塗れずに足掻いている最中だった。
一瞬、夏堀を家に上げて薬を塗らせたら良かったかと考えたが、それは倫理的にアウトだ……とすぐにその考えは棄却した。
二人きりの部屋で女子高生に背中に薬を塗らせるだなんて有り得ない。
試行錯誤の末にようやく包帯まで巻き終えた穂摘は、キーボードを打ち、メールを送信した。
場所が場所のため、温泉施設には営業していない深夜に行く事になるだろう。
これで、相手からの返事が来次第、穂摘とアリアはあの半裸の妖精の存在を抹消しに向かうのだ。
「ちっとも目的に近付いている気がしないんだがな……」
アリアと出会って一ヶ月程度。
穂摘の生活はこの通り、非日常へと一変した。
それは単なる金稼ぎではなく、穂摘とアリアには目的があっての事。
だが自分とその相棒が求めるものに巡りあえる確率は、限りなく低いように彼には思えている。
買って来て貰ったアイスを一つ口に運びながら、席を立ってベッドに移動した。
寝るわけではなく腰をかけ、その傍らにある写真立てに自然と目を向けて。
あまり人間関係に固執しなさそうな雰囲気のある穂摘がわざわざ飾っている写真には、幼い頃の穂摘と思われる子供と、両親のような男女が左右に笑顔で並んでいた。
母親であろう女性は、アリアに似た特徴である見事なグリーンアイと金髪を有した美女。
父親は日本人のようだが、穂摘と違って随分男らしい印象を受ける、精悍な顔つきの男性だった。
「流石に命日には、墓参り行かないと……」
アイスを食べきった後、カレンダーに目をやって、穂摘は独り呟いた。
その晩。
いつも通りやってきたアリアに夕食を振舞った後、話題は自然と本題へと流れる。
「そうか、それは浴槽の精霊だ」
「浴槽の精霊?」
「少なくとも私の管轄外の地域の存在だが、近い存在であるからして見えなくはないし退治出来ぬことも無い。地域によっては妖精扱いもされるような精霊だ」
「そうなのか」
泡のついたスポンジを手に持ちながら、アリアの言葉にぼんやりと相槌を打つ穂摘。
「これは早めに退治しておく必要があるぞ」
「実質的な被害があるから、と言う意味か?」
「いや、そのうち奴の周囲にどんどん仲間が召喚されるという意味だ」
「……それは恐ろしい」
「ここが日本なのが幸いしたな。そう簡単に仲間を呼べる距離では無いからまだ被害がこの程度で済んでいるのだろう」
「結構悪質な妖精……いや、精霊なんだな」
穂摘は昼間に見たその存在を思い起こす。
見た目だけならば美しい北欧美女……と言ったところか。
背中を血塗れにされた穂摘としては、悪質なのは身をもって実感してはいたが、その外観に惑わされてアリアの言葉がすんなり入って来ないのも事実だった。
ところが、アリアはそれを否定した。
「いや、決して悪質と言うわけではない。浴槽の精霊はむしろ人間と共存は十分可能なのだ」
「仲間を呼んだり、傷つけたりするのにか?」
「住まされてしまった場所が悪い。温泉と言う事は、不特定多数が入り混じる場であろう。マナーが悪い連中を浴槽の精霊とその仲間は嫌う」
「じゃあ僕の入浴マナーが悪かった、と?」
悪い事はしていないはずなのだが、穂摘の背中にはしばらく違和感が続きそうな傷が残っている。
その傷が、少なくとも、入浴マナーだけで攻撃してきたわけでは無い証明になるだろう。
「嘘吐き、と言い残されたのだったな?」
「そうだけど」
「浴槽の精霊はある程度の予知能力を持っているから、分かったのであろう」
今回の相手の一番重要と思われる能力を後出ししてきたことに、穂摘の肩が一気に下がった。
その反応を見て取り、気付いているであろうアリアはそれには触れずに自分の言葉を続ける。
「アラタが、自分を滅する存在を連れて来る事を、な」
それならば敵として見做されるのも無理は無い。
むしろ何故その場で殺されなかったのか、不思議に思うくらいだ。
いや……もし未来が分かっていたのだとしたら、例え穂摘を殺した場合のその先の未来でも結局浴槽の精霊は滅される運命だったのかも知れない。
どちらに転んでも同じならば、と生かされたか。
そう仮定した時、浴槽の精霊を滅する事が出来る存在……つまりアリアは、穂摘が死んだとしても変わらずに浴槽の精霊の元に斬りに行く、と言う事になる。
それがただ単に自身の目的の為か、それとも敵討ちか。
少しだけ穂摘は、アリアの中にあるかも知れない「情」を想像したが、すぐにその考えは振り払った。
この妖精は、きっとそんな「情」など無い。
人間とは違う。
一緒にしてはいけない。
毎日接しているその異質な存在を誤解してしまいそうな考えは持たないに限る。
それでも……穂摘は食器洗いが終わった後に、冷凍庫からアイスを取り出して彼女と共に食べたのだった。
温泉を経営している企業から返信が届いたのはその翌日。
依頼成功時の金額と、退治を実行する日時の確認が記載されている。
平日である明日の深夜に現地で「立会人」の下で依頼をこなすことになった穂摘達は、今は夏堀のアルバイト先であるファミリーレストランに来ていた。
今日は出勤日ではないらしい夏堀と共にフリードリンクを飲みながら、隅の席で腰を落ち着ける。
アリアは姿を可視化していないが、夏堀には見えているので問題無く会話に参加していた。
この点は、彼女を助手として採用したのは良かった、と穂摘は思う。
だが、そもそも今このファミリーレストランに来ているのは、夏堀が駄々をこねているその説得の為に過ぎず、採用した利点はプラスマイナスでゼロになっている気がしないでもない。
むしろ穂摘としては、もう金などいいからクビにしてやりたいほどに。
ただ夏堀の、アリアと言う特定の妖精だけ見える力に関してまだ理由が掴めていないが故に、クビにするには少し不安が残るため我慢していた。
「私も見学させてください! 出来れば手伝わせてください! だって今度はきちんと営業時間外なんでしょう?」
「それはそうなんだが……何とか言ってやってくれ、アリア」
「私は着いて来てくれても構わないぞ? 人質に取られたらきちんと助けてやろうではないか」
「何で着いて来させる気満々なんだよ」
「何を言っておる、アラタ。私にとってはアラタもツバキと同じだ。戦えぬ事に変わりない」
不服ではあるが、穂摘はそれ以上反論する事も出来なくなる。
黙ってしまった穂摘を見て、夏堀が申し訳無さそうにしながら苦笑いを浮かべていた。
しかしそれよりも、穂摘にとってはアリアの意図のほうが掴めずに思考を掻き乱されていた。
――矛盾している。
そう感じているからだ。
まず、夏堀を雇う事を提案したのはアリアだ。
その理由は、何故か自身を見えている夏堀を監視下におく為と言っていいだろう。
けれど用も無いのに仕事をさせては、借金返済が進んでしまうだけである。
穂摘は別に構わないが、アリアとしてはなるべく夏堀を少しでも長く手元に置いておきたいものではないのか。
考えたがその理由が思い浮かばず、溜め息を吐く。
諦めて話題をその先に進めた。
「で、今回の依頼なんだが……本当に退治出来たかの確認のため、立会人が着いてくるらしい」
「立会人、ですか?」
「ほう?」
「依頼主は複数の業者に見積もりを取っていたようなんだが、当然といえば当然、一番安い僕達のところに依頼する事にした。そこで、他の業者が『本当に退治出来たかの確認』を無料で請け負ったんだそうだ」
届いたメールが転送保管されている携帯電話を見ながら、穂摘が説明していく。
「何でそんな手間な事を無料で請け負ったんでしょうか? その業者さん」
夏堀がまず最初に浮かぶであろう疑問をそのまま述べる。
「簡単だ、ソイツはきっと僕達の情報が欲しいんだ」
「もし私が失敗すれば、そのままその者達が依頼を受けることも出来るであろうしな」
「そういう事」
「ふはは、この私が失敗するなど有り得ない。目にノモ見せてやるのが楽しみだぞ!」
「ノモを見せるってどういう意味だよ」
「凄い事を見せてやる、と言う意味では無いのか?」
「……うーん、多分その変化球はミットに収まっていない」
依頼を安請け合いしている以上、いつか来るであろうと思っていた同業者からの牽制。
それがようやく来た。
穂摘もアリアも予め予測していた事だった為、特に驚くことも無い。
だが、どこのどういう同業者が来るのかまではまだ分からず、少なからず不安を覚えているのは確かだった。
悪質な手を使ってこない連中である事を祈るばかりだろう。