玻璃を穢すは、人の闇1
◇◇◇ ◇◇◇
その日は、とある子供の誕生日であった。
どこに連れて行ってあげようか。
両親の間では華やかなテーマパークに連れて行く案も出はしたが、結局近県にある観光牧場に行く事にした。
情操教育にはこちらのほうが良いだろう。
楽しんだ上で、命と、食の育みに触れられる。
高山地帯に広がる牧草地はそこにあるだけで、素直な子供の心に非日常による昂ぶりを与えた。
広大な土地の向こうで、更に連なる常盤色に萌える夏の山。
紺碧の空。
都会から切り離された壮観な大地に身を置いたなら、そのまま自分が包まれ、ふわふわと浮いているような……くるくると空が回って落ちて来るような……不思議な錯覚を覚える。
帰り際、ねだって買って貰ったアイスクリームを手にしながら、子供は溢れ出す感情を両親に伝えたくて、でも上手く伝えられなくて結局こう言った。
「またここ、来たいな!」
何がどう良かったのかと具体的な表現は出なかったけれど、その反応だけで両親は充分喜んだ。
見渡す限りの草原でまだ小さな腕をいっぱいに広げて駆け回っていた子供は、きっとこのまま素直に成長してくれる事だろう。
両親がそう、期待にも似た想いを心に残す。
すくすくと育って欲しい。
それは大抵の親ならささやかに、そして心から願うのでは無いだろうか。
けれどその願いの結果を彼らは見届ける事が出来ずに終わってしまう。
帰りのバスで事故が起きたのだ。
後悔など何も無かった。
そんな事を思う前に、彼らの命は絶えていたのだから。
疲れて眠っていた家族は、楽しい思い出をそのまま黄泉へと持って行く。
ただその中、子供だけは席の位置が良かったのか、即死は免れた。
しかしこのままではその命は保てないかも知れない。
声も出ず、体も動かず、意識だけは冴えているのに。
時間の感覚も無い。
痛みも無い。
しばらくして、現実は再び子供の目に光を差し込ませた。
瞼が開き、指が動く。
先程までは動かなかったはずの四肢に反応が出たが、かわりに子供の心では受け止めきれないような惨憺たる光景が目の前に現れる。
バスの車内は、血と土と油の臭いで充満していた。
よく知っている人達が、シラナイモノに変わっている。
大好きな人達が、とてもコワイモノに変わっている。
恐怖に強張る体が無意識に自身の手を握らせ、そこで子供は右手の内に「何か」を感じた。
温かくて、ほんの少しだけ柔らかい、「何か」。
その「何か」に意識を向けた後、子供の背後で男の人の声がした。
「キャバクラ、断らなきゃ良かったなぁ」
その時の子供には何が何だか分からない言葉。
……だが大きくなったなら、その意味も分かるようになるのである。
◇◇◇ ◇◇◇
「キャバクラー!」
夏堀椿は、夢を見ていた。
小学生の頃の夢。
六年前、バスで事故に遭った日の事を。
とっくに朝日は昇っており、カーテンの隙間から明るい日差しが漏れる中、夏堀は女子高生が叫ぶにはどうかと思われる単語を叫んで飛び起きた。
夢で見ていたものが、起きた途端にフラッシュバックする。
高い山から見下ろした、あの素晴らしい景色。
その後に見た、事故の惨状。
力が入った体は両の拳を握ったまま、夏堀はそれを震えながらもどうにか緩ませる。
ゆっくりと、開かれる両の手。
今はそこには何も無いけれど、あの時は手に「何か」があったような気がする。
自分の持ち物では無い、「何か」が。
「もしかして、あれがそうなのかな……」
汗をかいた肌を拭うようにパジャマを整え、夏堀は自分の記憶を掘り起こす。
あの大事故で夏堀は両親を失った。
自分も随分怪我をしたはずだ。
だが、夏堀は生きていた。
衣服の惨状からは死んでもおかしくない出血量でありながら、峠も何も無く済んだ奇跡だったと親戚から聞いている。
妖精や人間に強い影響を及ぼす、アリアの石。
それがもしあの時自分の手の内にあって、自分を生かしてくれたのなら……アリアは命の恩人と言う事になる。
しかし、
「そうなると、アリアさんの石を奪った穂摘さんのお母さんが、私を助けてくれた事になるような」
アリアはそれを奪われた身であり、奪ったのは穂摘の母。
ならあの事故現場に、穂摘の母が居たのか。
よく分からないが穂摘達に話しておくべき事かも知れない。
何か思い出したら話して欲しいと言われていて、何となく心当たりが浮かんだのだから話さない理由は無いだろう。
ベッドから足だけ下ろし、寝癖だらけの黒髪を手櫛で梳く。
……思い出したのは偶然では無い。
必然だ。
先日聞いた穂摘の母親の事情。
きっとそれに心を少なからず動揺させられているのだ。
夏堀も、妖精の力に中てられている存在。
夏堀の両親は妖精では無いはずだが死んでしまった今は否定も出来ず、更に、このままアリアと共に居たなら少しずつ妖精に寄って行くかも知れないのである。
怖い、と夏堀は思う。
でも怖いからと言ってアリアを遠ざけるような事はしたく無かった。
「アリアさんの石さえ見つけられれば、どうなっても治せるんだし問題ないか」
すっくと立ち上がり、クローゼットを開く。
どの服を着て行こうか、と考えた時、ぱっと浮かんだのは自分の雇い主の顔。
染めているわけではない天然の茶髪と薄い瞳。
十二歳も年上なのだが、もう少しでその年の差は一つ縮まる。
誕生日であり、あの事故の日であり、両親の命日である日が、今年ももうすぐ訪れようとしていた。
季節は夏真っ盛り、今日も朝から暑い。
「あまり可愛い服を着ても何か意識してる気がしちゃうし、だからと言って地味な服は着たくないしなぁー」
そう、今日は穂摘と出かける約束をしているのだ。
またあの更科と言う女性と会う際の付き添いである。
とは言っても今回の夏堀の役割は大きい。
もし更科が本当にそのガラスの箱を持って吸血妖精で人を呪い殺したのであれば……更科が例のリボンを持っている可能性があるからだった。
あれを彼女が所持している場合、アリアは勿論、穂摘も更科には勝てない。
妖精が見えているだけの黒崎優理佳と言う人物に影響が無いのなら、まだアリアしか見えていない程度の夏堀にも影響が無いはずで、そうなると穂摘は自然と、この件は夏堀に頼らなくてはいけなくなる。
万が一、の為に。
危険なアルバイトだな、とも思うがあれからは時給五千円(確定)を貰う事になっているので辞めると言う選択肢は明後日の方向に飛んでいってしまっていた。
高校に入学して早々に夏堀がアルバイトをしているには訳がある。
今の夏堀は、両親を失ったが故に叔父と叔母に引き取られて暮らしており、つまり……不自由なのだ、色々と。
大事にしてくれているけれど、だからと言ってあまり甘える事も出来ない、血の繋がりが無い事による、壁。
自分で沢山稼げるに越した事は無い。
結局夏堀は可愛らしいフリンジの利いた白いブラウスにミニスカートを履いて、日差しの下に飛び出して行った。
そして穂摘新とアリアは、夏堀と合流して隣県へと向かう。
行き先は、更科翔の自宅だ。
電車から降りて、タクシーに乗り換える際に穂摘が少しだけ補足する。
「一応調査対象の男性の遺族に再度問い合わせてみたんだが、彼の遺品にはやはり例の箱は無かったらしい。となると彼はそれを使ったか処分した後に死んだのか、でなければ誰かに渡してしまったか、と言うところだね。その箱の入手経路はさておき、上北の話だと箱の現物が手に入ればどういう呪がかかっているのかの調査が可能だってさ」
「上北さん達が持っているのは複製、なんでしたっけ?」
「警察の調査資料写真から作ったに過ぎないらしい。事件性が無いと判断された事もあって現物は既に遺族に返されているそうなんだ。遺族から再度引き取る手筈は整えているらしいんだが、それを待つよりも実際に使ったと思われる更科さんから貰ったほうが早いだろう? だから更科さんには、ありのままを伝えてある」
「どこまでをありのまま伝えちゃったんですか?」
「流石に君がそれを使って呪い殺したんじゃないのか、とは突っ込んでない。あくまで、調査対象の男性に関わるアイテム、として形状を出して知らないか聞いてみただけさ」
「で、更科さんは答えてくれたんですか?」
「ああ、知ってるってさ」
ここで生じる違和感として、そのガラスの箱の存在を更科が隠さなかった事。
穂摘達は、その箱については他言しないような契約が成されているから、他の船員達からは一切箱の存在が見えてこなかったのだと考えていたのだが、更科はあっさり存在を認めた。
あの事件が穂摘の手によって解決したと心から信じる事が出来ているから話せたのか、それとも他に「彼女だけが話しても構わないと思える」何か要因があるのか。
何にしてもそのあたりは今日聞き出す事になる。
……何でもないはずの前回も夏堀に同行を願った通り、穂摘は更科が苦手であった。
吸血妖精の際の予想が正しければ、更科はさらりと嘘を吐いて何食わぬ顔で妖精に罪を被せた事になるからだ。
そして、それをする為に自ら外部に依頼をする程の狡猾さも持ち合わせている。
本来、真犯人であれば必要以上に調査する人間が増えるのは好ましくない、出来る事なら触れて欲しくない、騒ぎ立てたくないはずなのにだ。
そんな人間、妖精より余程恐ろしいのでは無いか。
タクシーを拾い、彼女の高級マンションまで行く道中、穂摘は強張る表情を窓に向けて、流れる景色に意識を無理矢理移す。
着いたなら、半ば予想してはいたが夏堀がマンションを見上げて目を丸くした。
「あの人、こんないい所に住んでるんですか!」
「お金が無いのに依頼してくるのは少数派だからね」
「ううっ」
それ以上何も言えなくなった夏堀の横を、アリアが通り過ぎる。
今のアリアは、きちんと人間の服を着ていて誰に見られても大丈夫な状態ではあるが、敢えて体を不可視状態にさせていた。
穂摘と夏堀には見えているが一般人には見えない状態だ。
「では、私はしばらく黙っておるぞ」
そう言って、何も無いところから黒いローブを取り出してさっと羽織る。
穂摘と夏堀は黙って頷いて、マンションに入った。
更科の住む階に着くとそこには既に更科が立っていて、後は促されるままに穂摘と夏堀、そして不可視状態のアリアが部屋に足を踏み入れる。
先日は夏堀を見た時点ですぐに過敏に反応していた更科だ。
この段階でアリアに関して問わないのであれば、やはり彼女は妖精を見えていないのだろう。
そんな穂摘の予想通り、更科は自分の分も含めて三つしか紅茶を出さなかった。
紅茶が好きらしいアリアは自分の分が出て来ない事に愕然とし、そしてその流れで穂摘を睨み付ける。
完全に八つ当たりであったが、反応をするわけにもいかない穂摘はそのまま何食わぬ顔で更科と話し始めた。
「更科さんはガラスの箱に心当たりがあるって話だったけど」
「って言うか持ってる」
前日のメールでのやり取り同様、またしてもあっさりと話し、更科は紅茶を一口飲んでから席を立つ。
そして奥の部屋に歩いて行き、戻って来た時には彼女の手にはガラスの箱と、奇妙な紋様が踊っているリボンがあった。
そのリボンは複製ですら穂摘の動きを止めてしまうような物であり、やや警戒する穂摘。
姿を不可視にさせたままのアリアも身構えている。
だが更科はそのガラスの箱をテーブルの上に置いて、手を離す。
今なら夏堀がそれを簡単に奪える状況であり、つまり更科はこのガラスの箱に対して重要性を感じていないと言う事になるだろう。
ガラスの箱を見ながら、更科はゆっくりと、ほんの少しだけ被害者との関係を語り始める。
「私とあの人はただの船員と乗客だったんだ。だけどほら、あの船は一度の船旅が長いからね。話しているうちに仲良くなって、この箱をお守りにってくれたのさ」
この話が本当ならば、ガラスの箱をばら撒いたのは死を運ぶ犬事件の最初の被害者になる。
しかし先日穂摘が引っ掛かったように、自分の身を犠牲にしてまで箱を配るだなんて違和感が拭えない。
何かを見落としているのか、それともまだ推測するにはパーツが足りないのか。
そこでふと、穂摘はガラスの箱の状態に目を留めた。
この箱には既に中身が無い。
他被害者の遺品のガラスの箱は、それぞれ中身が違うにしても必ず物が入っていた。
「このガラスの箱には中身が無かっただろうか?」
そう穂摘が問うと、更科は相変わらずの無愛想な顔のままでこれもまたあっさりと述べる。
「入っていたよ。木の枝だった……と言っても、もう無い。お祈りに使ったから」
「お祈り……ですか?」
それ自体は何て事は無いのだが妙に引っ掛かるワードが出てきて、夏堀が不安げに訊ねた。
「このガラスの箱は、私の身を護るお守りとして貰ったから。後でお祈りしなさいってあの人に言われていたんだ」
何を祈ったかを踏み込む事で、現時点ですらすらと話してくれている更科の口を閉ざさせる事になっても困る。
穂摘はそこは触れずに、疑問の外堀だけを埋める事にした。
「お祈り、ってどういう方法だったか聞かせて貰えないか」
「ああ……箱から枝を出して、願いながら山に埋めろって話だった」
そこまで聞いてから穂摘は口元に手を当て考え込み、その様子を夏堀と更科が見つめている。
が、彼女達とは視線を合わせず、穂摘の琥珀の瞳はアリアに向いた。
穂摘の知識ではそれがそのまま妖精との契約になるかなど、そう言った点が判断出来ないからだ。
穂摘に対して、更科は敵意を見せていない。
変に警戒する必要は無いだろう。
「アリア」
穂摘の言葉で、アリアが自分の姿を可視化させる。
いきなり机の横に現れた黒いローブ姿の者を見て、更科が驚き、椅子を揺らした。
けれど幸いと言うか叫ぶほどの衝撃では無かったようなので、説明は後回しにして穂摘はそのままアリアに問いかける。
「今の話だけで、妖精との契約は可能なのか?」
「かなり難しいが出来なくはない、しかし胸中で願うだけでは妖精に要求は届かぬ。言葉に出すか、でなければ皮膚や血液、髪の毛などを妖精に提供する事で伝達させる必要があるだろう」
「物が木の枝だったなら皮膚片もつきそうだし、その場に髪を抜け落とした可能性も考えられるか」
「うむ。だがな、『全体』としてはもう一つ足りぬよ」
「もう一つ?」
「死を運ぶ犬だ。あやつが関わる要因が今のところ無いではないか。もし今までの被害者達が箱の中身の妖精達と契約したとしても、契約が無効となった場合に報復をするのはその妖精自身であり、死を運ぶ犬が出て来る事は無いのだ」
「けれど出て来て、報復と思われる呪いをかけて殺し回っていた以上、どこかに契約は存在していなければおかしい……よな」
「そういう事だ」
更科が慕う最初の被害者が「約束を違えた」ことにより始まった、連続死。
その死を与えたのは死を運ぶ犬で、「約束を違えた」と言う証言があるからにはそことの契約が存在するのだが、ガラスの箱を持ったり使ったりするだけでは箱の中身との契約はあれども死を運ぶ犬との契約は成立しない。
矛盾しているのだが、事実、どこかで契約が存在しているからこそ死を運ぶ犬が動いていたはずである。
これは一体どういう事なのか。
穂摘達の話が一段落したところで、突然現れた第三者の存在を更科が改めて目で確認していた。
先程まではそこに居なかったはずなのに、突然現れ、しかも土足。
ただ、黒尽くめの容貌からして一般人では無い事だけは察する事が出来るのか、話の流れからも更科は考え及んだらしく、
「これはもしかして妖精ってやつ?」
「そうだよ。変質者っぽいけど」
変質者と呼ばれたのが不服であったのか、アリアがフードと帽子を脱いでその長い耳を見せる。
穂摘は、ただの人間ではない動かぬ証拠を突きつけられた更科が驚くだろうと思って、場を落ち着ける言葉を先に考えていた。
けれど更科は必要以上の反応を見せず、難なくアリアの存在を受け入れる。
「もう一杯紅茶を用意して来ようか」
「おお、気が利くのだな」
素直に喜んでいるアリアはさておき、その違和感に、穂摘と夏堀が顔を見合わせた。
そして紅茶を淹れ終えて戻って来た更科へ、疑問を口にしたのは夏堀。
「驚かないんです、ね」
「ん? ああ、そりゃあ初めて見たから少しは驚いたけど、信じては居たからそこまででも無いって言うか。これがそうなのかってくらい。凄い美人なんだね」
「褒められたぞアラタ!」
「もう、話がややこしくなるから黙ってろお前」
穂摘に窘められた事で、アリアは黙って紅茶を飲み始める。
更科がアリアを見る目に一切の敵意は無く、むしろ好感を抱いている印象さえ受けた。
よく分からないなと思いつつも、アリアから話を聞く為に少し脱線してしまった話題を元に戻す。
「とにかく、更科さんはそのガラスの箱を例の男性から貰った、で間違いないかな。それで、使い方も教えて貰った……と」
「うん、そうだよ」
「そのガラスの箱をしばらく預からせて貰えないか。調べられる連中に回したいんだが」
「……これ、形見みたいな物だからあんまり渡したくないんだけど、調査の為なら仕方無いね。箱だけでいい?」
「リボンのほうも出来たら」
「分かった」
更科がガラスの箱とリボンを穂摘の前に差し出し、それを慌てて夏堀が横から受け取った。
複製よりも力が強いと予想されていたリボンだが、まだ夏堀には影響も無いらしい。
更科との対面での心配事は、これで全て払拭された事になる。
例え裏で何をしていたとしても、更科は穂摘達自体に敵意があるわけでは無いのだ。
穂摘達に対しての切り札と成り得る道具までもを、すんなり渡したのだから。
その箱が受け渡される様を見て、紅茶を飲んでいたアリアが翠の瞳を少しだけ細めて言う。
「そんな箱とリボンで……彼女達の平穏が奪われたのだな」
「彼女、達?」
アリアの言いたい事が分からない更科が、問いかける。
が、逆に穂摘はアリアが何を言いたいのか分かった為に、その先を抑制する。
「やめるんだ、アリア」
しかしアリアは、素直なのだ。
どこまでも。
「やめぬよ。この女なのだろう? 吸血妖精を解き放ち、人里の人間を殺せと命じ……そして、用済みになった彼女達にその動機と罪までもを被せたのは」
それまで無愛想でさほど動かなかった更科の表情が、一気に冷めたものに変わった。
敵視して居なかったはずの相手を、突然冷たい目で見る。
その黒い両眼の奥はどこまでも昏い。
穂摘が敢えて触らぬ事で上手く収めようとしていた部分を、容赦なくアリアが突いたからだろう。
タイミングとしては決して悪くは無い。
既に穂摘達を害するリボンは夏堀の手中に収まり、更科が対抗する手段は見た限りでは無いわけで、その先を突き詰めたいのであればここで切り出すのが最善だ。
だが……
「何を言ってるの? この妖精サンは」
冷えた眼差しのままで、口元だけを歪め笑う、更科。
ここでわざわざ切り出す事自体は、完全なる悪手でしか無いのであった。




