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アリア・リアファイル  作者: 蒼山
第五話
18/43

想いは茂みで、魔と戯れる1

挿絵(By みてみん)

   ◇◇◇   ◇◇◇


 それは二ヶ月ほど前の事。

 春の天気は変わりやすい。

 その日は雨が降っており、さあさあと柔くも途切れる気配の感じられない水の音。

 透明のビニール傘を差しながら暗い夜道を一人歩く青年は、自分の住むマンションの目の前で立ち尽くす、雨合羽を着た人影に目を留める。

 真っ黒な、雨合羽。

 この雨もあってかそのフードは深く被られており、傍目に見ると黒いてるてる坊主の様。

 白ければ晴れを乞い願うその姿も、黒ではむしろ雨を呼ぶのではないかと青年に思わせた。

 大人向けならば紺や半透明の物が主流なのだが、どこでそんな不審者の様な雨合羽を手に入れたのか。

 身長は青年より少し低いくらい。

 足元に見えるブーツのヒールは高く、脱げばきっともう少し身長は低いだろう。

 多分、女性。

 その女性が、どうしてそんなファッションセンスの欠片もない雨合羽を着てここで立ち尽くしているのか、青年には分からなかった。

 だが、わざわざ青年から不審者に声を掛けるわけが無い。

 黙ってその雨合羽の人物を避けて、マンションの玄関のロックを解除しようとした時だった。


「……お主がホヅミで間違いないな」


 穂摘新(ほづみ あらた)は自分の苗字を呼ばれて、解除キーを持った手を止める。

 外見はかなり不審者に見えるが、その声色がとても綺麗な女性のもの。

 少しだけ警戒心が解け、雨合羽の人物に穂摘は振り向いた。


「何ですか」


 相手が誰だか分からない為、穂摘は敬う気の無い敬語で応対する。

 そこで彼女は黙って穂摘の側に歩いて来て、マンションのろく庇の下で自身のフードに左手を掛けた。

 そのまま大した造作も無くフードはするりと脱げ、そこにあった彼女の顔が穂摘の瞳に映る。

 深く被ったキャスケットからさらりと流れる長い金髪、大きなマラカイトグリーンの瞳、透き通った白い肌。

 不審者の様な身なりをしていた人物は、穂摘にとって親しい人を思い出させる容姿をしていた。

 それは母。

 すぐに、この女性はきっと母方の親戚か何かだろう、と穂摘は推測する。

 外見からして年下に見え、無意識のうちに言葉遣いを切り替えていた。


「ここでは何だから上がっていくといいよ」

「いいのか? すまぬな」


 憶測で完全に「親戚対応」を始めた穂摘。

 その浮きすぎる容姿も、言葉遣いも、異国の人と思えば受け入れてしまう。

 国際結婚をすると親戚は遠路遥々大変だなぁとどうでもいい事を考えて、マンションロビーを通り、そのままエレベーターで彼女を連れて五階まで上がる。

 急な来客だが、穂摘の部屋は誰も来ないにも拘わらず誰が来てもいいくらいに整頓されているので問題無い。


「合羽……いや、コートを脱ぐならそこに掛けて」


 部屋のドアを開けてまず、そう促す。

 だが彼女はそれを聞き流し、さっと部屋に足を上げてしまった。

 びしょ濡れのままで入られるのは困る、と言おうとしたところで彼女の雨合羽がほとんど濡れていない事に気がついたので、それ以上食い下がる事はしないでおく。

 長時間あの場に立っていた様に見えたが、そうでも無かったのかも知れない。

 深い疑問は抱かずに、穂摘は自分も靴を脱いで部屋に上がった。

 親戚だと思っている為、ごく自然に茶と菓子を出す穂摘に対し、翠眼を丸くするのは黒い雨合羽の女。


「な、何だか悪いな……こういう時は何と言うのか、ええと、お構いなく?」

「お構いなく、で合ってるよ。でも気にしなくていい。有り物を出しただけだから」


 そう言って、穂摘と女は1LDKの室内の中心にある机を挟んで座る。

 話をする空気が生まれ、互いに何を示し合わせずとも女が口を開いた。


「申し遅れたが、私はアリァガッドリャフと呼ばれておる。今宵はお主に願いたい事があってやって来た」

「ん……」


 丁寧に先に名乗ってくれたのは有り難いが、ぱっと聞いただけでは復唱出来そうにない名前で、一瞬固まってしまう穂摘。

 だからと言って聞き直すのも何だか恥ずかしく、流れに任せて自身も挨拶をする。


「僕はホヅミ……穂摘、新だ」

「……日本人はファーストネームが後ろだったな。では、アラタ」

「うん?」

「お主の母の荷を漁らせて欲しい」


 それはあまりに唐突過ぎて、穂摘はすぐにその要求を理解する事が出来なかった。

 親戚が急に荷物を漁らせろと言って来るだなんて、想定の範囲外の事。

 言葉自体は分かるが、遺産と呼べる程の高価な物などあるわけでも無いだけに、理由の想像がつかない。


「ま、待ってくれ。いきなりどうして……」

「理由を聞くか。それも当然であろう。だがその辺りは少しこじれておってな、うまく説明出来る気がしない」

「え……」


 突然やってきた親戚が、突然荷漁りを要求してきて、突然面倒臭そうな事を言って来た。

 こんな時はどう対処するのが正解なのだろう。

 穂摘にはそれが分からなかった。

 ただ、


「それでも、理由を聞かずに母の荷を漁らせるだなんて出来ない」


 いくら親戚でも、今日初めて会ったばかりの相手にさせられる事では無い。

 母親が死んだのは、およそ七年前の事。

 その頃の穂摘は学生だったが、自分が全てを取り仕切る立場では無かった為にどこまでの親戚にその死が伝わっているのか知らないで居た。

 七年も経った今、わざわざ彼女が足を運んでその荷を掘り返す理由……勝手に勘繰るのならば、母の少ない遺品の中に先祖代々伝わるような高価な品でもあったか。

 穂摘としては目立った物が無かったように思うが、母は装飾品を遺していたはずだ。

 もしその物を大人しく渡せと言われた場合には真っ向から拒否する覚悟で、膝に手を置き、女性を見つめる穂摘。

 彼の態度から説明を回避する事は出来ないと把握した金髪の女性は、溜め息混じりにその右手を口元に当てて呟いた。


「ふむ……では、どこから説明したものか」


 そこで穂摘は初めて、彼女の右腕に籠手が装着されている事に気が付く。

 表面の前腕部だけでなく五指も覆われている、銀色のガントレット。

 黒い雨合羽もそうだが随分不思議な格好だな、とまで考えた時だった。

 ……いくら何でもこのご時勢に有り得なくないだろうか。

 その疑問が浮かんだ穂摘は、何やら考え事をしているアリ何とかさんの顔を改めて見た。

 現代人として有り得ない、金属製の籠手。

 そして、死んだ母の荷を漁らせろと不躾にのたまう神経。

 穂摘は、日本ではあまり見かけないが決して一度も見かけた事が無いわけではないあの存在を思い出す。

 妖精。

 普通に家に上げてしまったが、もしかして目の前のコレは人間では無いのでは。

 母親の姿を借りる事で油断させ、取り入って来ているのでは。

 そう思った途端、冷や汗が彼の頬を伝う。


「ううむ、そうだな、色々あったのだが……とにかくお主の母親がだな」


 ごにょごにょと言葉を紡ぎ始めた女性に、穂摘は問う。


「あー」

「む?」

「その、こんな事を聞いて本当に申し訳ないんだが、君は母の何なんだ?」


 その外見故に確認を怠ってしまっていたが、考えてみたなら最初に問うべき事だった。

 逆に、今更聞くのは失礼だろう。

 だがその点は彼女も気に掛かっていたらしく、


「あまりにすんなり通されるから私の事を聞いていたのかと思ったが、違ったのか!」


 その表情を、驚きではなく笑顔に変えた。

 屈託の無い笑顔であった。

 聞いてもいない、見知らぬ相手をすんなり通した穂摘の対応に笑ったのだろう。

 気恥ずかしくなった穂摘は、俯きがちにその「遅すぎた」理由を打ち明ける。


「外見からして親戚か何かだろうと思っていたんだ……」

「親戚? ああ、なるほど。そう言えばお主の母は私にそっくりらしいのう」


 良かった。

 似ている事を誰かに聞かされているのであれば、やはり遠縁か何かなのだ。

 妖精では無さそうだ、と穂摘が安心したのも束の間。


「だが、私とお主の母との関係は、今となっては敵と言うほうが正しい」


 すぐにそれを打ち消すキーワードが彼女の唇から紡がれた。

 ばっと顔を上げる。

 目の前には、既に先程までの笑顔を取り払った女が穂摘を見据えていた。


「私は、お主の母によってそれまでの栄華を奪われた愚の者よ」


 その翠の瞳が、射る弓の様に細く撓る。

 室内に張り詰めるぴりぴりとした空気は、喩えでは無い。

 どういう現象なのか、明らかに室内の湿度が一瞬にして低くなった。

 烈しい乾きが肌を張らせ、文字通り彼女がこの室内の空気を張り詰めさせたのだ。

 ……間違いなく、妖精。

 気迫だけで周囲を乾かせてしまう人間が居るわけが無い。

 その栄華を奪うような何かを穂摘の母親がしたと彼女は言うが、穂摘は一切母親から聞いた覚えの無い事。

 これは、荷を漁らせる事を抵抗したら殺されるか。

 これまでの穂摘の人生で妖精と言えば、外国産の食材にたまに乗っかっていて「こんにちは」と挨拶されるような無害な存在と言う認識であったが、これはそうでは無さそうに思える。

 母の敵であり、母が目の前の妖精に何か害を及ぼしたのならば、その息子である自分も恨まれていておかしく無い。

 彼の中で様々な悪い予想が広がっていく一方で、やや怒りを纏っていた彼女は落ち着いていく。

 深い溜め息を吐き、一旦その思いを横に置いた様に次の言葉を紡ぐ。


「あの女……お主の母はな、簡潔に言うと私の力をごっそりと奪って行方をくらませていたのだ。そのせいで私は右腕が動かなくなり、補助として作らせたこの籠手でどうにか腕を維持している状態でな」


 すっ、と見せられた右腕には、先程見た銀の籠手。

 ただの籠手にしか見えないが、話をそのまま受け止めるなら義手に近い働きをしていると思われた。

 行方をくらませていた、と言う事は母はこの日本に高飛びしたようなものなのか? と物騒な喩えが穂摘の脳内で展開される。

 次に穂摘は、母が「何故そうしたか」を考えた。

 この目の前の妖精が害ある存在で、力を奪わなくては危険だと判断したか。

 ……他の想像は出来ない。

 それなりに大きくなるまで母と過ごしていたが、何の理由も無くそんな事をする人には思えなかった。

 既に故人で思い出として若干美化されている可能性も多少はあるが、それにしても、だ。

 だが、


「奪われたのは私の弱さによるもの。それも致し方あるまいと最近までは思っておったのだが、聞くにお主の母はもう死んだと言うではないか。ならば返して貰おうと思って来たのだ」


 目の前の女にも、穂摘は「害」を見出せなかった。

 母は勿論悪くない、そう思っている。

 けれど、この妖精もそこまで悪い存在と思えない。

 もし悪い奴なら、力を奪われたらまず憤慨し、何が何でも追って来るのでは無いか。

 最近思い立ってここにすんなり辿り着く事が出来るのなら、力を奪われた当時も同じ事が出来るだろう。


「その……何故、僕の母は君から力を奪ったりなんてしたんだ?」


 湧いた疑問をそのままぶつけてみると、穂摘の母によく似た容姿、しかしそれよりずっと若い外見のその女は答える。


「さあ、知らぬ」

「し、知らないって」

「本当に知らぬのだ。奪ってすぐ逃げおったからな。恨まれるような心当たりも無い。私の力で何かをしたかったのでは無いか」


 困惑した穂摘は、無意識のうちに背もたれに体を預けて表情を硬くしていた。

 初めて会った相手だが、少なくとも嘘を吐いている素振りは見当たらない。

 穂摘に協力させようとして嘘を吐くならば「母親とは敵のような間柄である」という事実こそ隠しておくべきで、その部分を晒した状態でそれ以降の話に嘘を混ぜるのはあまり意味が無いと言える。

 少なくとも、彼女の視点ではこれらは全て真実なのだ。

 ので、これらの不可解な話にもっともな理由を付けるのならば「穂摘の母に何か事情があった」と言う事にすれば全てがまとまる。

 当人が既に没している以上、その事情が明らかになる可能性は低いけれど。


「何となくは分かった……で、その力とやらが僕の母の荷物にあるのか? 写真の他には捨てるに捨てられない貴金属くらいしか残っていないんだけど」

「何かのアクセサリーに形を変えている可能性はある。緑の石だ。加工されていればネックレスか、その辺は分からぬがの」

「緑の……石?」


 ここで穂摘は脳内で一瞬にして母の遺した荷物を脳内に巡らせる。

 決して鮮明な記憶では無いが、その荷自体が少ない為に見ずとも思い出せた。

 そしてその中に、緑の石の填まった貴金属など……多分、無い。


「ちなみにどれくらいの大きさなんだ?」

「これくらいはあるだろう」


 女は、手でピンポン玉くらいの大きさを表現する。

 穂摘が思っていたよりも大きい。


「じゃあ間違いなく僕の引き取った荷には無いな」

「なぬ!」


 サイズを聞く事で、憶測ではなく確信に変わる。

 そんなでかい石の嵌まった装飾品、無い。

 驚いて表情を強張らせる妖精の女は、徐々に挙動不審となり、穂摘の部屋の中を見回し続けていた。


「気配が感じられないのは、何か封じるような小箱にでも入れているのかと思っておったのだが……まさか、無いのかここに」

「目的の物は無さそうだし、母さんの遺品、出してやるよ」


 そう言って穂摘はクローゼットを開け、そこにある収納ケースの一番下の引き出しを引く。

 取り出したのは四方十センチ程度の正方形のジュエリーボックス。

 その横にアルバムや、アルバムに仕舞い切れていない写真があるがそれは出さない。


「死んだのは七年も前の事だから、今もきちんと遺している物はこれくらいになる」


 確かに小箱に入っていたが、それは何かまじないが掛かっている特殊な箱では無く、市販の品。

 女はそれを恐る恐る開け、中身を確認する。

 穂摘も嘘は言っていない。

 万が一その石とやらを自分が持っていたなら、その後、渡すか渡さないかと言う判断を下さねばならないところだったが、その選択をする必要は無くなった。

 これで諦めてお里に帰ってくれればいい。

 一息吐いて穂摘は自分で淹れた茶に手を伸ばした。

 が、そこで彼の視界にはぎょっとする様な光景が入り込んでくる。


「なっ」


 その妖精は、ぽろぽろと大粒の涙を溢していたのだ。

 呆然とした顔で、ジュエリーボックスを見ているようで見ていない、焦点の合わなくなった目。

 泣く女に何と声を掛けていいのか分からず、穂摘は伸ばした手を引っ込められないままフリーズしていた。

 声は上げていないが、止め処なく流れるその涙。

 涙はテーブルに落ちると、音もなく煙の様に蒸発しており、彼女がやはり人間では無いと主張する。


「ここまで来たと言うのに、これでは、私は……」

「い、今まで素直に諦めていたのに、今更力を取り戻せない事がそんなにショックなのか?」

「勿論、片腕使えなくなる程度の力が無くても不自由はせぬ……だが、力を取り戻さねば出来ぬ事も、あるのだ……」

「さっき僕の母が石を使って何かをしたかもって言ってたよな。その石の力で、何が出来るんだ」

「石と言うのは私の体から奪った際に模った見た目に過ぎぬ。実際は私と言う存在の生命エネルギー。私の力の本質上、うまく使えば命そのものを創る事も出来るであろうな。勿論その強い力は、副作用を起こす可能性も十分ある。余程の使い手でなければ制御は出来ない」

「それだと母は余程の使い手になるような」

「だからこそ私の力を奪うような真似が出来るのだ」


 妖精の少ないこの日本という土地で、母は、息子同様に見えるだけの人間であった。

 だがそれは単に、その内に秘めた力を使う機会が無かっただけなのだ。

 室内を一瞬で乾燥させ、涙を煙にしてしまうような現象を起こす妖精から、力を奪う程の能力を秘めていたのだから。

 使いようによっては命を創る事も出来てしまう石。

 その石の力の本来の持ち主は途方に暮れて、出されたティーカップを手の平で包む。

 その器の温もりを手の平に移しながらしばらく思料していた妖精は、ふっと思い立ったように席を立って言った。


「無いものは仕方あるまい! 邪魔をしたな!」


 潤んでいた瞳をごしごしと拭い、崩れていた表情を気丈にも元に戻した妖精。

 穂摘が嘘を吐いて隠している可能性もあるのに、それを一切疑わず、物が無い事を問い詰めようとしない彼女に穂摘が驚いた。

 顔を上げるとそこには、既にからりと晴れた笑顔。

 穂摘は目の前の女を見て思った。


 共にそれを、探してやりたい、と。


 一体母に何の大義名分があって、この妖精から力を奪ったのかは分からない。

 しかもそれは一方的であるのは瞭然であり、それに対してその当人にも息子にも仕返しをするわけでもなく逆恨みなどしない器の大きさを見たなら、決してこの妖精が悪さをするような存在とは思えない。

 要するに穂摘は突然訪ねて来たこの妖精に、惹かれたのだろう。

 母に似た美しい外見と、それに似合わぬ豪気な性格、佇まいに。


 ――アリァガッドリャフ。


 改めて名前を聞き直し「アリア・ガッドラフ」と確認したが、それは彼女によって「区切るなら、アリァガッド・リャフだ」と訂正される。

 何度聞いてもやはり呼び難い名前に慣れる気がしなかった穂摘は、彼女をアリアと短く呼ばせて貰う事にした。

 最初は目を丸くしていたアリアだったが、自分に付けられた女性らしいニックネームを把握してからは、嬉しそうに顔を綻ばせた。


 彼女の石を手にした者は、その石の力に()てられる。

 妖精ならば大抵は凶暴化し、人間ならば何かしらの不可解な現象が起こるだろうとの事。

 起こり得る事象を想像した結果、何の伝手も無い人間がそれを探す為に一番都合が良かったのがインターネットでの情報収集だった。

 大型掲示板のオカルト・ホラー板の書き込みを確認すると、それが妖精の仕業であると思われる書き込みがいくつも見られた。

 妖精であるアリアにとって、その辺りの判別はある程度出来るらしい。

 それらの被害者と接触を図る為に、携帯電話でも見やすく表示される簡易的なサイトを立ち上げ、「超常現象の解決」を請け負い始めてみる。

 大型掲示板に晒した事もあってか、沢山のアクセスと共に沢山の悪戯依頼が舞い込むが、所詮悪戯の依頼や専門外の依頼には必ず「妖精では有り得ない」情報が混じるので、受けるべき依頼と受けられる依頼だけを拾い上げ、穂摘の立ち上げた請負サイトはあっという間に一部の界隈では有名な存在となった。


   ◇◇◇   ◇◇◇


 母がアリアにした事を申し訳なく思う。

 それは行動理由として事実だが、今思うと半分は建前だったのかも知れない、と穂摘は夜遅くに考えていた。

 単純に、その妖精を……もう少し見ていたかったのだ、と。

 「妖精が見える変人」と言う自覚が、他人との深い接触を避けて来させた今までの自分の生き方。

 そこに現れた、見ていたいと思える妖精。

 妖精が見える事が少しだけ楽しくなったのは事実。

 けれど……穂摘は今、引き際に悩んでいた。

 妙に懐っこく、と言うかたまに凄まじく思わせぶりな発言を平然としてくるアリアに、どう「心の距離」を置いたら良いのか分からなくなってきている。

 勿論その石とやらが見つかればそこで穂摘とアリアの関係は終了する。

 だが、本当に終了するのか?

 石は見つかるのか?

 続けば続くほど穂摘の預金通帳の数字は増えていくが、それと同時にアリアとの今の生活も続くと言う事。

 毎晩一緒に食事をして、休日には依頼をこなす――


「無い、無いだろそれはいくら何でも」


 掛けていたタオルケットをがばっと剥いで、上半身を起こした穂摘の額に汗が滲んでいた。

 その一時の感情で軽はずみに踏み出した足は、止めたくても止められない事になっている。

 幸い、大手の同業者との縁が出来た。

 本腰を入れて動こう。

 真っ赤になった顔を隠すように、穂摘は頭までタオルケットを被って寝直した。

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