Long ago
◇◇◇ ◇◇◇
大きな衝撃の後、その子供の目の前は真っ暗になった。
わけも分からないまま、ただ体が動かない。
指先は? 動かない。
瞼は? 開いているのかどうかすらも分からない。
そこまで考えて子供は不思議に思った。
おかしい、ちっとも痛くない、と。
もし唇を動かせるのなら、面白くて笑ってしまうほどに痛くない。
こ れ は 絶 対 痛 い は ず な の に 。
意識だけは確かにある。
けれど、四肢が動かず五感も麻痺した状態では生きている心地がしない。
いつまでそうしていただろうか。
実際は数秒だったのかも知れないが、その子にとってはとても永い時間。
それは、突然締め括られた。
何者かによって現実に引き戻され、その子は目を覚ます。
ようやく光を映した瞳は、その子の脳裏に凄惨な光景を焼きつけた。
紙くずの様に潰れた車内。
じわじわと広がっていく赤い色。
驚倒しそうになるが、最初から横たわっていた子供の体はそれ以上角度を変える事なく、ただ、壊れた背もたれを軋ませる。
握り締めた右手の内に感じる柔らかな温もりと、背後で男性の擦れるような声が聞こえたのが、その事故での最後の記憶。
「キャバクラ、断らなきゃ良かったなぁ」
子供には、何のことだかさっぱり分からなかった。
◇◇◇ ◇◇◇
※第四話の本筋・本サブタイトルは次のページからになります。
短くてすいません、ご了承ください。
 




