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アインスノイール~四家物語~ 鷺ノ宮理鷲編  作者: 夕闇 夜桜
第一章:二人の少女、異世界へ来(きた)る
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第六話(2):迷宮の森(ラビリンス・フォレスト)


冒頭は(1)と同じですが、第六話(2)の方を読みますか?

 →はい

  いいえ




 森の中を素早く駆ける。

 ぶん、と剣を振れば、目の前にいた生き物たちーー少しばかり普通の生き物と見た目は違うがーーは吹き飛ばされる。


「……」


 そんなあと数分もすれば息絶えそうな生き物たちに、非情にも理鷲(りず)は背を向けて、その場から立ち去った。


 ーー彼ら(・・)を普通の生き物と同様に扱うな。


 何せ、そう教えられたのだから。


   ☆★☆   


 ラルクレールを剣の師匠とするのなら、魔法に関する師匠はリトノールと言ったところだろうか。

 そんな二人に教えられながら、理鷲は必要な魔法と剣技をやや一心不乱になりながらも覚えていく。


「とりあえず、魔法と剣技の基礎過程はこれで終了だな」


 魔力の扱い方と基礎魔法、剣の扱い方についてはリトノールとラルクレールから大丈夫そうだと判断されたため、次は応用編へと移行する。


「魔法を使う際に分類される基本属性は覚えてるよな?」

「はい。基本的には火、水、風、地の四つですが、上位でも派生でもない光、闇、無も含めた七つです」

「そして、その基本属性の中に、派生属性があるって言ったのは覚えてるか?」

「はい。氷は水の派生、雷は風の派生、木は地の派生です」


 まあ、こんな感じで属性の復習から入り、各属性魔法の習得と現時点で必要としている『変化魔法』を習得するために、適度に休憩などを取りながらも、理鷲は魔法を覚えていく。

 そして、剣技の方は、といえばーー


「習うより慣れろ、だな。とりあえず、俺を相手に傷つけるつもりで攻撃してみろ。対人戦だ」


 持っているのは木剣とはいえ、いきなり対人戦? とは理鷲も思ったのだが、これがラルクレールのやり方なら、と従い、彼の首を狙うつもりで切りかかる。


「ちょっ、いきなり首を狙う奴がいるか!」

「でも、傷つけるつもりで、と言いました」

「いや、そうだけど……」

「首が駄目なら頭にします」

「バカっ! だから、そういう問題じゃねぇっ!」


 本気で頭を狙いに来そうな雰囲気の理鷲に、ラルクレールが顔を引きつらせる。

 もし、この場が戦場だとすれば、今のラルクレールだと確実に命は落としていたのだろう。


(どこまで狙って、やってやがる?)


 剣技を教える際に、時折教えてない型が理鷲の剣技には現れていた。

 もちろん、本人は誤魔化しているところもあるのだろうが、そのほとんどは無意識なのだろう。

 だが、そういうものに限って、隠そうと意識すればするほど、表に出てくるものなのだ。


「……」


 ラルクレールは思案する。


「……なあ、実践編をしてみるか?」

「実践編、ですか?」

「ああ。相手は魔物や魔獣だが、対人戦よりは経験することの方が多いと思うからな。何、きちんと対処法とか教えてやるから、きっちり叩き込んでおけ」


 そう言うラルクレールだが、理鷲は不安そうにリトノールへと目を向ける。


「別にいいと思うぞ? どんな奴に魔法が効きやすいとか効きにくいとか、知ることのできるチャンスじゃないのか?」


 どうやら、実践編についてはリトノールも同じ意見らしい。


(えっと、マジですか?)


 こうして、理鷲の、ラルクレールとリトノールによる実践編の特訓が開始された。





 あれから、どれぐらいの日時が経ったのだろうか。

 魔物や魔獣に関する知識は教えた。行ってこい、という一言だけで、この世界に着いた最初の場所である森ーー正式名称、“迷宮の(ラビリンス・)(フォレスト)”に理鷲は放り込まれた。


「思いっきり、サバイバル生活しろってことね……」


 知識が与えられた分、食料も水もあるし、やってやろうじゃないの! と理鷲自身、最初は息巻いていたくせに、いざ歩き出してみれば、数分で魔物と魔獣にエンカウント。

 とはいえ、場所が森であるためか、時折見掛けるウサギなどの小動物系から熊などの肉食獣のような魔物に(大半は遭遇済み)、食料となるであろう木の実やキノコ類などの種類や場所確認を一通りした理鷲だが、偶然遭遇した魔獣(モンスター)には、片っ端から剣や魔法の練習台にした。

 とりあえず、火属性で攻撃してみれば、見事な黒焦げの塊となったため、再び遭遇した同じ種類の魔獣にもう一度火属性で攻撃してみれば、今度は全く効果無しで、逆に水属性に弱かった。


「同じ種類でも、苦手なものは別なんだ」


 なるほど、と理鷲は頷く。

 何が効いて、何が効かないのか。やってみないと分からないものも、自分よりもレベルが低めな魔物や魔獣が相手なら、練習台にしていてもいざとなれば何とかなるだろう。


 そして、この日から三日ぐらい過ぎた頃、冒頭へ繋がるのだがーー


「……」


 倒した魔物から少しばかり離れたところで、溜め息を吐く。


「結局、サバイバル生活になってるじゃないですか」


 今更だが、それでも言いたくなってしまう。

 この世界へ来る際に持ってきた荷物の中で、置いてきても大丈夫なものはシルフィリア家に置いてきたのだが、携帯などの個人情報があるものは念のために持ってきていた。

 そして、中でもーー


これだけ(・・・・)は、ね)


 とある一つに目を向けたあと、そっと持ってきた鞄へとしまう。

 そんな時だった。

 近くの草むらががさがさと揺れ、それに気づいて身構える理鷲に、草むらを揺らしていた主が姿を現した。


『きゅ?』

「へ?」


 首を傾げられ、思わず一瞬固まる理鷲だが、神様から与えられた知識により、目の前にいる生物がなんなのか、理解すればーー


「ドラゴン~!」


 だが、目の前にいるのは、知識にあるドラゴンより小さいため、実物は普通より小さいのかと思ったのだが、どうやら成竜ではなく、子供の竜であったらしい。


「というか、親は?」


 目の前にいるのが子供の竜であるのなら、どこかに親がいるはずだ、と理鷲は周囲に目を向ける。


「……って、きゃあああ!」


 生暖かい風を感じ、そちらに顔を向ければ、匂いを嗅いでいるのか、理鷲の前で鼻を動かすドラゴン。


「なっ、なぁっ……! わ、私は美味しくないから!」


 とりあえず、食べても意味がないことを伝える。


『きゅ?』


 先程と同様に首を傾げる竜に、「あ、こいつ分かってないわ」と理鷲は判断した。


「にしても、ドラゴンかぁ……」


 ファンタジー世界が舞台の物語なら、一度は出てくるその世界の住人にして、ヒエラルキーの上位に位置する生物である。

 この世界にいる以上、一度は遭遇することがあるのだろう。

 だが、理鷲はこの森に来てから、この子竜と会うまで、ドラゴン系だけではなく、親竜らしき竜も見ていないし、遭遇もしていない。

 親も居なければ、食事できるものもよく分からない状況で、よくもまあ、生きてこられたものである。


「……」


 とりあえず、と理鷲が顔を上げれば、爬虫類の様な目と視線が合う。

 そして、気づかれないように、そっと足を後方へ交互に動かしていき、短いながらも間が出来れば、一気に走り出す。

 だが、いきなり走り出した理鷲を見逃すつもりはないのか、子竜は追いかけ始める。


「まさか、鬼ごっこか何かと勘違いしてる!?」


 少しばかり、ドラゴンと追いかけっこをしていた理鷲が出した結論はそれだった。

 荷物を持ち直したりしながら、理鷲は器用に木々の合間や枝から枝を通っていく。


(このままじゃ、キリがない)


 やりづらさもあるが、相手が子供のドラゴンとはいえ、手を抜くわけにはいかない。手を抜けば、こちらが()られる可能性だってあるのだ。

 軽く息を吐き、意識を集中する。


(ドラゴンの鱗は堅いだろうから……)


 子竜が見え次第、火の魔法を展開しようとすれば、ぐいっと背後に引っ張られる。


「お前、何してんだよ。こんな所で火魔法なんて展開すれば、大変なことになるぞ」

「それより、もうしませんから、手を離してください。あと、貴方はここで何してるんですか」


 引っ張っていた手を離すように促しながら、理鷲は引っ張ってきた人物に尋ねる。

 そもそも、この森はシルフィリア家の敷地の一部でなのだ。だから、この目の前の人物の返答次第では、ミリアーヌたちに突き出さなくては行けなくなる。


「そっくりそのまま返してやる。あと、俺は嫌な予感がしたから見に来ただけだ」


 それを聞き、理鷲は目をドラゴンに向けて答える。


「……私はあれを迎撃しようと思ってたんですが」

「何だ。ドラゴンか」


 理鷲の示す方を見た人物……男は納得したように頷く。


「それにしても、小さいな。子供の方か?」

「おそらくは。親も近くには居ないみたいですし」


 男が思案するかのように、自身の顎を指でなぞる。


「なるほどなぁ。じゃ、俺は逃げるから、あとは頼んだ」

「はいっ!? 自分で首を突っ込んでおきながら、事情を知ったら知ったで放置ですか!?」

「だって俺は、森を思ってお前を止めただけだし、首を突っ込んだ覚えもない。知り合って数時間の怪しい娘を助けるような器量も持ち合わせていないんでな」

「最低だ! この人!」


 男の言葉に理鷲は叫ぶが、そんな言い合いをしている場合ではなかった。

 二人の上に出来た影の主に、二人がぎぎぎと目を向ければ、そこに居たのは、やはりというべきか子竜。


「っ、大人なら何とかしてくださいよ! リュークハルトさん!」

「テメェ、こんな時だけ子供の振りをするのかよっ!」

「十代後半なんて、大人と子供の間なんですから、どう言っても構わないんです!」


 隣にいた男ーーリュークハルトに叫ぶ理鷲だが、ふざけるなと言いたげな彼に、そう返す。


「それに、火事になるから火魔法使うなって言ったのは、リュークハルトさんじゃないですかっ」

「ああそうだよ! っ、もう逃げるぞ!」


 時間の無駄だと判断したのか、理鷲を乱暴に引っ張り上げながら立たせたリュークハルトは、そのまま走り出す。


「は、はい!」


 理鷲も慌ててリュークハルトに併走すれば、当然のように二人を追い始める子竜。


「つか、逃げるから、追いかけてくるんじゃね?」

「私も思いましたが、仮に試すとしても身を守る(すべ)は無いんです!」

「防壁は?」

「基礎レベルの防壁で、子供とはいえドラゴンの攻撃を防げると思います!?」


 つまり、真正面からぶつかるには死を覚悟しないといけないわけで。


「まだ何一つ達成してないのに、死にたくないんです!」


 神様からの頼みごとも、変化魔法の習得も、学校に代理で通うことも、まだ何一つ達成できていない。

 そして、何よりーー死んでしまえば、元の世界へ帰れなくなる。


(それだけは絶対に嫌!)


 理鷲は手を握りしめ、拳を作る。

 正直、防壁以外にも手が無いことはない。


(けど、これ(・・)をこの人の前で出すのはなぁ)


 自分がシルフィリア家に置かずに持ってきた『もの』。

 上手く使えば、ドラゴンに口を使わせないようにすることは出来る。

 だが、理鷲のそんな戸惑いが、判断や彼女の足を鈍らせた上に、遅れだした彼女のことを併走していたリュークハルトが気づかないはずもなくーー


「逃げる最中に考え事とは、良い度胸してんな。お前」


 やや低めの声で、リュークハルトは告げた。


「……いろいろと限界になってきたので」


 限界なのは体力だけではない。

 いくらサバイバル生活に慣れてきたからとはいえ、完全に慣れたわけではないし、理鷲にしてみれば小枝などが散らばっている不安定な足場ばかりなのだ。

 理鷲は、あのドラゴンはどうしたのだろうか、と振り返る。


「どうやら、何とか()けたみたいだな」

「はい、そうみたいーー」


 理鷲の言葉は途切れた。

 サバイバル生活に入り、有り得ない速度で上達し、反応してしまうようになった彼女の気配感知が何かに気づいたのである。


「どうした?」

「何かが向かってくる」

「何かって、ドラゴンか?」


 リュークハルトの疑問には答えず、理鷲は集中して周囲を探る。

 いざという時のために、手は剣に置いておく。

 そして、がさがさという音に、二人がそちらに目を向けながら、警戒して構える。


(鬼が出るか、(じゃ)が出るか。さあ、何が来る?)


 理鷲の持っていた剣の鞘から刀身ーーいや、剣だから剣身か?ーーが覗く。

 そのまま、しばらく待っていれば、


「みゃ~」


 と鳴きながら子猫のような生物が姿を現した。


「猫……? いや、猫科の生き物?」


 そもそも、猫が森に棲むものなのだろうか。

 いや、種類によっては棲むものも居るのだろうし、理鷲が今居る場所は異世界なのだ。居てもおかしくはない。


「リュークハルトさん、この子……」


 自分の判断よりも、この森の生物に詳しいであろうリュークハルトに目を向ければ、彼は顔を顰めていた。


「おい、そいつから距離を取れ。小さいって事は、親が側に居るはずだ。あの子竜と違ってなぁっ!?」


 注意しつつ、理鷲の襟を引っ張る。

 それと同時に、大きな爪が理鷲の目の前を(かす)り、爪が当たったのか彼女の髪数本がその場に舞う。


「っ、あの子供。ヘルタイガーのかよ!? 子竜といい、いつからこの森は、こんなに物騒になりやがった!」


 リュークハルトが叫びながら、子猫のような生物の親ーーヘルタイガーの爪を避け続ける。


「ヘルタイガー?」

「あの爪に当たるなよ。一気に瀕死状態になる」


 理鷲の問いに、リュークハルトはどうすっかな、とヘルタイガーを見る。


(ヘルタイガー、ってことは虎だよね。まあ、猫科なのは間違ってないんだけどさ)


 理鷲は改めてヘルタイガーを見る。

 何というか、デカい。動物園で見た虎よりもデカい。

 しかも、一瞬でこちらを殺してしまいそうな鋭い牙と爪もある。


「……どうすれば、勝てますかね。いや、逃げきれますかね」

「……さあな」


 理鷲の問いに、リュークハルトは知らないと返す。


「倒す、しかないんですかね」

「死ぬぞ?」


 「だったら、どうすんだよ」とも思わないのだが、「さて、どうしたものか」と理鷲は思案する。

 そもそも理鷲はヘルタイガーの能力や実力を知らないのだ。

 知っているのは、リュークハルトから教えられた、爪に当たれば即瀕死ということだけである。

 爪の強度も分からない今、不用意に剣を振るわけにもいかない。剣が壊れれば、理鷲の人生も終わりに近づくからだ。


「魔法、効いてくれますかね」


 それなら、遠距離でも対応できる魔法で応戦した方が、まだ良いのではないのだろうか。


「さあな」


 先程から同じ返事ばかりだが、リュークハルトは『瀕死』とは言ったが、はっきりと『死』を口にはしていない。


(つまり、物は使い(よう)で、勝てないわけじゃない!)


 ポジティブと言われても良い。

 今生きることが、どんなことよりも最優先だ。

 理鷲は無言で抜剣する。

 こちらに来て数日の付き合いだが、もちろん、それだけで終わらせるつもりはない。


「来なよ。私が相手になるからさ」




第七話(2)へと続きます



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