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アインスノイール~四家物語~ 鷺ノ宮理鷲編  作者: 夕闇 夜桜
第一章:二人の少女、異世界へ来(きた)る
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第一話:神様からの依頼


第一章:二人の少女、異世界へきた




「本っ当に、申し訳ない!」


 真っ白な空間に二人の人物がいる。

 一人は十代の少女であり、目の前の光景に思いっきり顔を引きつらせていた。

 もう一人は白装束の男で、若干引き気味な少女に向かって、土下座をしていた。


「え、事情も聞いてないのに、謝られても困るんですが」


 少女は何となく、そんな話し方の方がいいと思ったため、こんな話し方になっていた。


「本っ当に、申し訳ない!」


 相手ーー白装束の男はずっと、少女に向かって、このように謝っている。


「とりあえず、話してもらえませんか? 私に謝られる理由を」

「……それは……」


 白装束の男は少しずつ話し始めた。


 男は現在の職に就いてから何年も経つのだが、ある日、何気なく人間界(した)を見られる水晶で見たときのことだった。

 ある国の貴族の令嬢がとある目的で、近くの森に入っていった。

 令嬢は魔法が得意で、いざとなれば自分の身すらも守れるぐらい武術も得意だった。

 普段なら護衛の一人ぐらい連れて出掛ける彼女だが、その日は珍しく誰も護衛には付かなかった。

 案の定、命の危機に陥る令嬢だが、そこは冷静に対処し、危機から逃れた。


「でもーー」


 危機は完全に去っていなかった。

 一人で森を彷徨う令嬢に目を付けたモンスターが彼女を襲い、令嬢も何とか魔法で応戦するが、油断していたために、背後から襲われ、生死の境を彷徨っていた。


「さすがにそのままというわけにもいかなかったから、彼女の体に魔法を掛けたんだ」


 魔法といっても、簡単な防御壁で、モンスターに襲われないためのものだ。

 それに、魂自体も危なかったから、保護して傷が付いた部分を治した。


 そこまでは良かった。


「あれ?」


 異変が起きたのは次の日だった。


「その子の魂が気づいたらどこかに行ってたんだ。それで今は他の神様(ひと)にも協力してもらいながら、全力で捜してます」

「……」


 何やってるんですか。

 少女の目がそう訴えていた。


「それで、彼女の肉体(からだ)は無事なんですよね?」

「うん。彼女の家で寝かせられてる。倒れているのを友人たちに見つけられて、家に運び込まれたから」


 それを聞き、少女は安堵の息を吐く。


「でも、いくつか問題があって」

「問題?」


 少女の言葉に、男は頷く。


「彼女の魂を捜すための時間が無いんだ」

「なら、私を喚ばずに捜せばいいじゃないですか」


 少女の正論に、男は俯きながらも言う。


「まあ、そうなんだけど……僕の不注意で迷惑掛けたからね。だから、彼女の魂が見つかるまでの間、彼女の身代わりというか、代役をしてほしい」

「はい?」


 聞き間違えでなければ、身代わりになれ、と聞こえたのだが、と少女が確認のために男を見るが、男は少女に対し、首を横に振り、聞き間違えでは無いことを示す。


「最初は憑依させてもいいかな、って思ったけど、そっちはそっちでまたいろいろと問題があるから」

「たとえば?」

「魂と肉体は繋がってるからね。無理やり離そうとすれば、どちらも傷つく。肉体を傷つけて魂を離す方法もあったけど、事故とかで死にかけたくはないでしょ」

「そうですね」

「それに、憑依先の肉体と合わなければ、これまた双方に大ダメージがあるからね」

「だから、憑依は無理、と」

「うん」


 憑依が難しいものだと説明した男は頷く。

 少女も少女で思案する。

 別に、魂が見つかるまでの間ならいいのではないのか。

 それがどのぐらい掛かるのか気になるが、それ以外にも気になることはある。


「でも、何で私? 他の人でも良さそうなのに」

「あー、それは、彼女の名前と見た目が似てるからだよ」


 少女の尤もな質問に、男はそう答える。


「令嬢の名前はリズフェリア・シルフィリアというんだけど、君の名前ーー鷺ノ宮理鷲(さぎのみや りず)という名前が近い響きだから、選んだ」

「すっごく無理矢理な気もするけど、納得しておいてあげます」

「ありがとう」


 少女ーー理鷲の言葉に、男は笑みを浮かべる。


「それじゃあ、話は少し変わるけど、ここからは簡単に世界説明ね」


 世界名はアインスノイール。

 四つの大陸と複数の国々から出来るこの世界は剣と魔法が存在し、住んでいる種族も様々で、争いや身分制度もあるが、平和といえば平和な世界だ。

 令嬢ーーリズフェリアがいた国はミストレイアといい、四季が豊かで、農作物などが豊富な国である。


「これぐらいかな?」

「いえ、十分な方ですよ」

「そう言ってもらえるのなら嬉しいけど……他のことについては、知識として送っておくから確認しておいてね」

「はい」


 男の言葉に、理鷲は頷く。


「あ、行くのならいくつか質問が」

「何かな?」


 理鷲の言葉に、男は首を傾げる。


「まず最初に、会話はできますか? やっぱり、魔法ですか?」

「うん、会話は出来るよ。言語の読み書きもね。アインスノイールは住んでいるところで言語が違う者もいるけど、それを全部引っくるめて、全部の言語が理解できるようにしておくから。これは君への迷惑に対するお詫びだしね」


 なるほど、と理鷲は頷く。


(これで言語の問題はクリア。本も読むことが出来る、と)


「では、次です。身体能力などはどうなりますか?」

「基本的には今までとは変わらないけど、剣みたいな武器とかの扱いは慣れてもらうしかないかな。まあ、強化してほしいって言うのなら、してあげるけど」


 それを聞いた理鷲は思案する。

 はっきりと言うのであれば、理鷲は身体能力は高い方であり、運動神経もいい方である。なので、強化されてもされなくとも、理鷲的には変わらないし、異世界だというのなら魔法で補うこともできるだろう。


「次に、私と彼女の見た目が似ているって言ってましたけど、完全に似ているわけではありませんよね?」

「うん、君の髪と目は黒だけど、あの子は若草色の髪に紺の目だからね」


 だが、違うのはそこぐらいで、性別、髪形、背格好はほぼ一緒だ。


(もう一人の自分とか、平行世界(パラレルワールド)みたい)


 そう思う理鷲だが、ある疑問が湧くと、男から受け取った魔法に関する知識から尋ねる。


「変化の魔法がありますが、限界もありますよね?」

「そうだね。どの魔法にも限界があるにはあるよ。もちろん、君が言った変化魔法にもね。何なら、僕が君に掛けても良いけど、解除するとき大変だから、出来れば自分でやるのを薦めるよ」

「そうですか……」


 理鷲がリズフェリアの代わりになるには、変化魔法の習得が必要なのだが、そのためには魔法を基礎中の基礎から覚えて使いこなす必要がある。


(問題は変化魔法の習得までにどれくらい掛かるか、か)


 それを考えるも、理鷲は溜め息を吐いた。


「でもね、気をつけなよ。この世界は君の故郷のように、安全ではないんだから」


 モンスターもいるし、危険とは常に隣り合わせ。気を抜けば、命を落とすことだってある。


「でも、大丈夫。絶対に、故郷に返してあげるから」


 それを聞き、理鷲は目を見開いた。


「あと、携帯持ってるでしょ? ちょっと出してもらっていい?」

「え? あ、はい」


 怪訝しながら理鷲が携帯を取り出せば、男が軽く手を添える。次の瞬間には光り輝くも、それもすぐに終わった。


「この世界には、充電なんて出来る場所が無いからね。アインスノイールにいる間は魔力式にしておいた。使うのは君の魔力だから、必要になれば魔力使って充電してね」

「わざわざ、ありがとうございます」


 そう言いながら、


(異世界なのに、携帯についてはスルーした方が良いのかな)


 と思った理鷲は間違ってない。


「それじゃあ、そろそろ行ってもらおうかな」

「え、あの?」

「行くのはリズフェリアの実家であり、彼女が眠るシルフィリア家。安心して。話は通じてる(・・・・・・)し、相手も理解してくれてるから」


 不安そうな理鷲に、男はそう言う。


「え? いや、話が通じてるって、え?」


 いきなり現れた扉が開き、男にぐいぐい、と背中を押される理鷲。


「あの、押さなくっても自分で歩けますからっ」

「いいからいいから、行ってらっしゃーい」


 そのままドン、と男に押されれば、扉を越えて倒れ込む。


「っつ……」


 地面に生えていた草が受け止めたため、怪我をしなかったが、理鷲は起き上がると、扉の向こう側にいる男に恨めしそうな目を向ける。


「じゃあ、お願いねー」

「ちょっ、」


 そんな手を振る男に声を掛けようとした理鷲だが、無情にも扉は閉まる。


「……」


 思わず呆然とする理鷲だが、頭の中にはいろんな情報が流れ込んでくる。

 世界についてや国の歴史。魔法や武器の種類に使い方。王族の名前や国で働く人々の役職名。


「っ、やっぱり安請け合いすんじゃなかった」


 後悔しても後の祭り。

 引き受けた以上はやるしかない。


「十六歳は異世界で、か」


 理鷲は肩を竦め、小さく笑みを浮かべると、目的地であるシルフィリア家に向かって、歩き出すのだった。






 一方で、無理やり理鷲を送り出した男は、というとーー


「はぁ……」


 肩の荷が下りたかの様に息を吐いていた。


「でも、これで良かったんだよね?」


 男はそう言いながら、背後に目を向ける。


「うん。理音(りおん)には文句言われるかもしれないけど、理鷲ちゃんが適任だと思ったからね」


 男の後ろから姿を現した女性はそう答える。


「神の一人である僕としては、あまり勧めたくはなかったんだけど、君の頼みは断れないからね」

「まあ、その点についてはおいおいするとして、あの子たちは拒否するだろうけど、私たちの事情も何も知らない理鷲ちゃんに強く言えないだろうし、知らない所へ行かせようとはしないだろうから大丈夫でしょ」


 それを聞いて男こと神はやれやれ、と肩を竦める。

 相手が知り合いだからいいものを、知らない人の所に彼女を行かせて、ぞんざいに扱われたらどうするつもりだったのか。


「もし、関係のない他人(・・・・・・・)の所へ行ったら、私が連れ返す」

「それじゃあ、隠した意味、無いじゃないか」

「それとこれとは話が別よ」


 何となく、神は女性の頼みを聞かない方が良かったのではないか、と思う。

 理鷲が自分が選ばれた本当の理由(・・・・・)を聞いたら、どんな反応するのか。

 もし、彼女が怒り狂えば、神は甘んじてその罰を受けるつもりだ。怒っても当然だから。

 逆に泣かれても宥めるだけだからいい。


(ただ、無表情でじっと見られたら、耐えられそうにない)


 何となく、そんな感じがする。


「じゃあ、私はそろせろ行くから、理鷲ちゃんのこととリフィちゃんの魂捜し、頑張ってね。アインスノイールの神様」


 バイバイ、と手を振って去っていく女性が完全に見えなくなると、はぁ、と溜め息を吐く神。

 彼女と話すと疲れるのは、無意識に神経を集中させているからだろう。理鷲の携帯に対し、魔力式充電を提案したのも、元々は女性の案だ。


「さて、それじゃあ、僕も頑張りますか」


 軽く伸びをし、自身の任務を開始する神だった。



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



次回、理鷲、シルフィリア家に向かいます



それでは、また次回



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