白の世界
(・・・ここはどこだ?確か俺は死んだはずじゃ・・・?)
目覚めると俺は真っ白な世界にいた。
「気が付いたかね?」
突然背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには一人の老人が立っていた。
その姿を見て、俺は本能的な恐怖を感じ、反射的に叫んでいた。
「おまえは何だ!?いや、そもそもここはどこだよ!」
「おまえは何だ、とは失敬な。しかしおかしいな。この姿は人に見えるようにしてあるつもりなんだが・・・」
そういって考え込む老人。
そう、確かにその姿はとても完璧なヒトだった。老人ではあるが鍛え上げられた男の体。その姿はルネサンスの彫刻のような体は、逆に非人間的な印象を与える。これならむしろ、幼稚園児が粘土で造った人形の方が、よっぽど人間味があるだろう。
そこで老人は検討することをやめたのか再び口を開いた。
「そうだな、あえて言うなら私は神だ。もっとも、それは君たちの概念で最も近いだけに過ぎないがね。もっと正しく言えば、君たちの世界や他の多くの世界を創り、管理しているものだ。死んで輪廻にのって転生するはずだった君の魂も、私が掬い上げたのだよ」
(おいおい、死後の世界って本当にあるんだな。神なんてやつがいるとは・・・)
突然の話に驚いて言葉が出ない。そもそも自分が死んだという実感が湧かなかった。なんといっても自分の体はそこにあるし、いつもと変わらない感覚なのである。混乱する頭で俺は尋ねた。
「お前が神様だったとして、なんで俺をここに呼んだんだ?異世界転生でもさせてくれるのかよ。」
「君が望むのであればそうしよう。このまま元の世界で新たに生まれ変わってもよい。ほら、望む未来を言ってごらん。」
(これは本当にラノベみたいな展開だな。あそこで死ぬはずじゃなかったとかそういうオチか?)
どこか現実として感じられないまま、そんなことを考えていると、老人が再び口を開いた。
「君の心の声は聞こえているが、別にそういう訳ではない。君は確かにあそこで死ぬはずだった。君が転生することになったのは単なる偶然だよ」
俺の運命を握っているのに、そこには何のためらいもない。その不遜な態度は確かに神のそれだった。
「死ぬ前に戻る、てことはできないのか?」
「それは無理だ。私が用意するのは二度目の人生の選択肢だけなのでね・・・」
少し落胆する。少し考えた後、俺は質問した。
「ビーストハントオンラインの世界に、以前使っていたアバターで転生できたりするのか?」
「ふむ、それに似た世界ならある。アバターは、君が使っていたものにしよう。それでよいかね?」
「ああ、それでいい」
俺がこの世界にしたのは理由がある。ビーストハントオンラインの世界ならだいたいわかっているし、アバターもそれなりにやりこんでいてモンスター相手にでも十分通用するからである。
「いいだろう。では、二度目の人生を存分に楽しみたまえ・・・」
その声とともに、景色が急に薄れていく。次の世界への希望に胸を膨らませ、遠ざかる老人の姿を見ながら俺の意識はホワイトアウトしていった・・・
≪side???≫
「つくづく君も外道だよね。彼の望んだ世界とは違う世界だろう?あそこは・・・」
突如として聞こえた年齢不詳な声に、先程神と名乗った老人は苦笑する。
「私は彼の要望にもっとも近い世界を選んだに過ぎんよ。それがあの世界だっただけだ」
「彼の望む世界などわかっていたくせに・・・」
「それはどうかな?それに転生者を選ぶのはよくあることだろう」
「それはランダムに選ぶものだ。少なくとも僕は、転生者を選ぶために意図的に死なせたりはしないよ・・・」
どこか責めるような口調とともに去っていく声の主の気配を感じて、老人は一瞬だけ後悔の表情を浮かべ、一人つぶやく。
「確かに彼には悪いことをした。しかし、仕方なかったのだ。一人の犠牲と世界など比べものにならないのだから・・・」