危険、羞恥の身体検査
* * *
「だから俺らは被害者なんだよ、お願いだからいい加減にしてくれ! ただでさえ、一週間もやし生活で全世界がもやしに侵略された気分に陥ってるんだ。あさもやし、ひるもやし、よるもやし、もやしもやしもやし。もう、もやしのモの字もみたくない! なんであいつはあんなにも安いんだ! そして日持ちしないんだーくっそー!」
「分かった、もやしの幻覚をみてるのね。まさか神埼さんも麻薬中毒者だなんて。これはさらに詳しく調べる必要があるね」
「あらやだ死亡フラグ」
神埼、東宮字の取り調べは未だ続いている。
わたしが彼らを疑い始めて早一時間。こちらは尋問をしているはずが漫才をしている気分だ。それにしても、彼らは一体どんな過酷な生活を強いられているのだろうか。
「宮崎さん、わたしあなたが怖くてうまく話せないんです。武器は置いてください」
先ほどまで何を問いただしても「もやし」としか答えなかった東宮院がはじめてまともなセリフを吐いた。
取り調べが進展したように感じて、わたしは少しうれしかったのだろう。渋りもせずに頷いてしまった。
「仕方ないな、じゃあ置いてあげる」
懐に忍ばせていた拳銃を置く。
あとから考えれば、非常に軽率な行動であったと思う。しかし許してほしい。
「安心できません。宮崎さんの身体検査を所望します」
まさかこのようなせりふが飛び出すとは、いったい誰が予想するものか。
「え? と、東宮院さん? そのいやらしい手つきはなに?」
「確保ー!」
「わたしのキメぜりふを盗まれた! 著作権の侵害よ!」
東宮院はわたしのスーツを無理やりはぎ取ると、体中をまさぐるように触る。
「もしかしたらここにナイフを隠し持っていたりするかも知れませんね」
「なにするの! あっ、ん、やめ、」
「いやいや、こんな場所に手りゅう弾を潜めている可能性も」
「ちょっとどこを、ひゃっ」
「この流れはここにマシンガンを装備していることを示唆しています」
「するかーーーー!!」
わたしはポカリと東宮院にチョップを繰り出してしまった。
はっとしたのも時すでに遅し、東宮院はあくどい顔で白い歯を見せた。
「あなたはやってしまいましたね。これでわたし達は宮崎さんあなたを暴行罪で訴えられます。ふふ、計画通り……」
なんたることなの、淫らな格好で破廉恥なことをされた上に、こんな失態を犯すだなんて。お嫁にいけないじゃない!
「いや、あの、その前にまず、身なりを整えてくれないか? 俺の目にはさっきの映像、刺激的すぎた、ぜ。あはは」
神埼は耳まで真っ赤にして顔をそむけた。
――本当に、お嫁にいけない。
「部長!」
部下の声にわたしは振り向いた。
息を切らせて走り寄る彼に眉を潜める。
「上から二人を解放するよう命令が……」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
一体どういうことなの!?
わたしの声に神崎と東宮院はにやりと不敵な笑みを浮かべる。ざまあみろとでも言うかのように。
「だから言ったろ。俺は無実なんだよ、無・実」
「そうですね、解放してくださるというならば訴訟は控えましょう」
さて、帰るぜー。
立ち上がる二人に待ったをかけて、わたしは急いで部下に問う。
「なぜ上部がそんことを! 判断するのはわたし達じゃない!」
むりやりにでも帰ろうとする東宮院を手を広げて制止するが、するりと脇から逃げられてしまう。
仕方ないので神埼の頭を掴む。もう少し待てと言っているではないか。
「イタタタタ、髪の毛つかんでるよ髪の毛!! 捜査の邪魔をしてしまったのはごめんってー! だから帰らせろ! というか痛い、抜ける、これブチブチいってる!!」
「神崎さんは黙ってなさい。そしてあなた、あなたよあなた」
わたしは部下に分厚いファイルを渡した。今回一連事件の重要資料だ。
「とりあえずこの件は引き続き続行ね。取り逃がした犯人がのちのち厄介なことにならないように。他のものは潜入調査、情報収集ね。いい? 現行犯逮捕できなかったこの借りは必ず返すわよ」
臨機応変。これが我らのモットー。予想外の出来事があったとはいえ、最終的に完全なる逮捕を目標としているのには変わりない。まずは目先の仕事をやり遂げる。すべき課題はたくさんあるのだ。
「でね、神崎さん……って髪の毛しかない! 随分抜いてしまった!! ちくしょうわたしとしたことが……」