互いを知るのが第一歩
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麻薬取締官、通称、麻取。
彼等は麻薬の取締や薬物の不正ルートの解明などの薬物犯罪の捜査や、正規麻薬の不正使用・横流し・盗難等の監視・捜査を行う職員である。厚生労働省の職員であるが、その職務は保健所の職員といったような業務とまるで違う。麻薬という薬を取り扱うことから彼らの半数は薬剤師という頭脳としても優秀な集団だ。尚且つ、彼らには警察にすら許されていない特権、則ち銃を使用することが法律で許されている。麻薬という裏組織と対決する仕事には何が起きるか分からない。
目には目を。歯には歯を。凶器には凶器を。
一発目から撃つことを許される彼らには、それを使い熟す体力もなければならない。
「す・な・わ・ち、わたしたちは知力、体力、勇気の魅惑なる三コンボをかねそろえたハイパーウルトラスーパーエキスパートなのじゃあーー!」
わたしは指先を天井に掲げた。
一瞬、沈黙が訪れる。
「で、あんたたち。覚悟は出来てるよね」
改めて、わたしは声を低くした。
「だから、俺は悪くねーんだよ!」
そのエキスパートの邪魔をしたこの憎き二人組。
暗く小さな取調室。ここは麻薬取締本局の取調室である。
「分かると思うけど言うわね、わたし宮崎佳苗、麻薬取締官・現場指揮部長。若いからって馬鹿にしたら痛い目みるわよ。いい? マトリよ、略してマトリ」
「マトリックスぅ?」
「惜しい。確かにさっきまでサングラスかけてたけども」
じゃなくて。
わたしは一度咳払いをして、椅子に座る二人をキッと睨みつけた。
「貴方等はわたし達が何ヶ月もかけて積み上げた犯人確保計画を無駄にしたんぞ!! 犯人逃がしちゃったんだぞ!! どう責任とってくれんだーーー!!」
「姉ちゃん、叫び過ぎは肌に悪いぜ」
「誰のせいだよ」
はぁ、溜息一つ。
どうやらわたしはとんでもない奴らと出会ってしまったようだ。
ただでさえ日頃の疲れが溜まっているのだというのにわたしの体は悲鳴をあげている。
「東京都練馬区在住、神埼准太郎。二十一歳男性、フリーター」
右に座る短髪の男はびくりと肩を揺らす。
「東京都豊島区在住、東宮院要。十八歳女性、スナックアルバイト」
左に座る長髪の女性は透き通るような声で返事をした。
まるで先生の出席に意気揚々と答える学級委員長のようだ。
わたしはパイプ椅子に腰をかけた。
決して綺麗とは言えない、少し湿った空気を肌に感じられる取調室。殺風景な物置小屋を連想させる。室内に、古びたデスクが真ん中で存在感を出していた。わざとらしく当てられたライトの光を浴びる二人組は、デスクを挟んで向かい側に高姿勢に並んでいる。
拗ねた二人組に、わたしは声色を低くした。
「あなた達をここに呼んだ理由は、分かりますよね」
「しっらねー」
「はて、なんのことやら」
額にピキリと青筋が浮かぶ。私は机を叩き付けた。
「まさかあんた等、犯人とグルなんじゃないだろうね」
「……ああ?」