デンジャラスってまさにこれ
「うおおおお!! 危っねええええ!!」
男の叫び声が響く。
困惑を表すべく首を傾げる、そんな暇もなかった。
激しい騒音と共に揺れる室内。立ち込める砂煙。
たくさんの叫び声が響き渡るなかで、わたしは口を押さえて席込んだ。
逃がす訳には、いかないのだ。
* * *
「見ての通り、あなたは完全に包囲されています。大人しく来てもらいますよ」
わたしはやたらと面積の大きいサングラスを外して見せた。
先程まで極悪面を絶やさず、体中にピアス穴を開けた不品行な若者。頭を鮮やかな金髪に染めている、そんな彼の細い瞳はみるみると色褪せていく。パクパクと口を動かす姿はまさに滑稽だ。
喫茶店の一角に対峙した、若い男とわたしの二人を囲む集団。
ある者はサラリーマン、ある者はカップル、またある者はウエイトレス……を装ったわたしの誇るべき仲間、いわゆる麻薬取締官である。
男は足元にある紙袋をちらりと見ると、諦めたように肩を降ろして頭を下げた。
――ようやく降参したわね。
わたしは満足げに頷き、右手を高々と上げて叫んだ。
「確保ーーーっ!!」
スタートダッシュの合図だ。
室内に響くわたしの声に、一般人に扮した我が誇りなる仲間達が一斉に走り出した。若者は取り押さえられ、またひとつ、世の秩序は正される。
こうして事件は解決していくのだ。解決、するはずだった。
「うおおお!! 危っねえええええ!!」
そして舞台は冒頭に戻る。
男の叫び声が響くと同時に、一瞬にして壁が粉砕する。騒音と衝撃が室内を揺らした。
砂煙が立ち込めるなか、喫茶店の一室はたちまち混乱の渦へと巻き込まれる。
一体、何が起きたのか。
「おいおい待てよ、どうすんだよこれ。なんかとてつもなく室内が風通しが良くなっちまったじゃねーか。ちなみに俺は何も悪くない」
「運転していたあなたが悪くないというのなら、誰が悪いというのですか。わたしはびっくりですよ、あなたの運転技術と責任転換術にびっくりしていますよ」
もくもくと視界を奪う砂煙の中、話し声とシルエットだけは微かに伺えた。短髪の男と長髪の女の二人組らしい。
混乱した頭を整理しながらわたしはよーく目を凝らした。
どうやら喫茶店にどでかい穴が開いているらしい。お外の通行人とこんにちは。
薄暗く、しゃれた喫茶店に昼間の光が差し込む室内。暫くしてようやく煙が拡散し、野蛮な暴走人物の正体が露わになった。
わたしは顔をあげて、二人を凝視した。 正義と悪が対峙する空間に割り込んだ、謎の侵入者。
そう、彼らは極めて異質な存在であったのだ。
「……あ、犯人いなくなってる」