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感染者の創造  作者: 岡田健四郎 原案:岡田健八郎
発祥の地
6/13

巨漢

 今夜は嵐か。

 黒木は窓の外に目をやった。

 外は暗かった。

 遺跡の近くに宿舎があったのは幸いだった。

 フィリピンだと思って馬鹿にしていたが、この宿舎は近代的だ。

 店主の愛想も良い。

 テレビからニュースが流れていた。フィリピン語――タガログ語を知ってるのはこれまた幸いだ。

『――付近では猟奇殺人が続いています。被害者は首筋を食いちぎられて死亡するケースが多く―』

 猟奇殺人だと?用心しないとな。

 黒木は目を奪われた。

 宿舎のオフィスの向こうは磨りガラスになっている。その向こうは廊下だ。

 廊下に影が見える。

 黒木はベッドの下に隠してあった小さな箱を取り出した。

 鍵を開け、箱を開けた。

 拳銃を取り出した。銃把にマガジンをセットすると、腰に収めて注意深くドアに近寄る。

 ドアの隣に非常用懐中電灯が置いてあるのは幸いだった。

 傾注電灯を取ると、ドアを開けた。

 そこに居たのは――山岸薫子と言う女性だ。

「やあ君か、何のようだ?」

 山岸は不機嫌そうな顔をしていた。

「実は地下室で不振な物音がして」

「ほう?それで?」

「あなたに地下室に来てもらいたいの」

 黒木は一瞬嫌がった顔をしたがすぐに元に戻した。

「俺に?頼もしい傭兵が居るだろうが」

「傭兵達は皆どこかに行ったよ」

「ならカロルに頼め」

「老人は大切に」

「店主は?」

「お出かけ中」

 黒木はため息ついた。

「よし分かった、見てやるぞ」

 そう言って山岸に案内してもらった。

 地下室への入り口は金属製の扉で塞がっていた。

 これまた幸い、扉の鍵は解除されている。

 扉を開けると、地球の裏側まで繋がっていると思うくらい長い階段が下に続いている。

「よし、一緒に行くぞ」

 山岸が黒木に向いた。

「一緒に?1人で見に行けないの?」

「俺は暗闇恐怖症って言ってな、暗闇に居るとパニックを起こす」

「本当に?」

「それに長い時間暗闇に居ると体中の細胞が突然変異を起こして暗闇に適合した体に進化してしまう。俺はそんなのごめんだね」

 山岸はため息ついた。

「何だかんだ言って、本当は1人になるのが怖いんだろ」

 図星だった。突然変異説は言わなければ良かった。

 ここは正直に気持ちを言おう。

「うん、1人じゃ怖い」

「本当にタマついてるのか?」

「弾?ああ、装填してるよ」

 山岸は何言ってるんだという顔をして懐中電灯を照らして階段を下りた。

 黒木は慌ててついていった。

 階段は驚くほど長かった。

 黒木は気が散るくらい退屈だった。

 だが終わった。

 終点に到着した。

 階段を下りきると、今度は下水道の様なトンネルが続いている。

 山岸は進んでいく。黒木もついていく。

 まったくこの女性には心底感心させられる。

 男勝りの女だな。嫁にしたら夫婦喧嘩に勝てないだろうな。

 そう思いながら歩いていると、壁側にドアが見えた。

 黒木はドアに近寄る。

 ドアノブは錆付いて開かない。

 仕方なくドアを蹴り開けた。

 中の光景は素晴らしく忌々しいものだった

 壁に繋がった鎖が所々あった。

 鎖の先には手枷足枷のような感じのものが付いていた。

 何より不気味なのは、手術用の台のようなものに、布を被された何かがあった。

 黒木は布を恐る恐るどかせる。

 思わず叫びそうになった。

 死体だった。

 若いフィリピン人の女性の死体が乗っていた。

 後ろから気配が感じた。

「ミス山岸、ここは危ない」

 後ろを振り向く。

 だが、そこに居たのは山岸ではなかった。

 豚の顔を被った何者かが立っていた。

 と気づいたときには意識が薄れた。

 まずい――そう思った瞬間が最後の記憶だった。


金属が擦れる音がして、黒木は目覚めた。

 そこは相変わらずあの部屋だった。

 唯一違うのは、手が後ろに捻られ、手錠が掛けられている。

 いや、手錠ではなく縄だった。

 誰かが刃物と刃物で擦っている。

 誰かはすぐに分かった。

 店主だった。

 太った眼鏡を掛けたフィリピン人店主が包丁を擦っている。

「お目覚めか?」

 店主が気づいた。

「お前……何をしている?」

「見ての通り解体作業の準備さ」

「何を解体する気だ?」

「無論お前だ」

 この答えで分かった。

 こいつはきちがいだ。

「お前は何者だ」

「どうせ死ぬんだ、教えてやる。俺はレイプ常習犯だ」

 自称か?

「エッチした女はすぐに殺す」

「じゃあ、最近の猟奇殺人もお前か?」

「違うな、だがあれは面白い」

 店主はテレビをつける。

 そこにはベッドに縛られている若い女性が映っていた。

 突然店主が現れた。

『へへへ、いいことしてやんよ』

 テレビの店主はズボンを脱いだ。

 そして、無抵抗の女を痛めつけ、そして――

 女性のわめき声が聞こえる。

「いつみても勃起しちまうな」

 この瞬間、黒木の頭がプツリと切れた。

 あの変態野郎は許せない!

 黒木はそう思った。

「さて、女の方もそろそろだろ」

 女?山岸か!

「彼女をどうした!?」

「この地下に彷徨う野郎に襲われてるだろ。生きてるんなら、俺がエッチするさ」

 男は近寄る。

「神に祈ったか?」

「ああ、祈ったよ」

 黒木はそう答えた。

 店主は笑った。

「覚悟は出来たな?まずは男の大事な所を壊してやるよ」

「お前のを壊してやる!!」

 足にも縄を縛ってないのは店主の最大の失敗だった。

 黒木は自由な右足で店主の股間を思いっきり蹴る。

 店主は悲鳴を上げた。

 そして股間を押さえる。

 黒木は立ち上がり、右足で店主の顔面を蹴る。

 店主は倒れこむ。

 黒木は何度も何度も店主の腹や顔の蹴りを入れた。

 店主は全身打撲だらけだ。

 黒木は包丁を拾い、縄を切って腕を自由にさせる。

 そして店主の左足に足枷を嵌める。

「そこで大人しくしろ」

 黒木は山岸の所に向かおうとした。

 だが、部屋の隅に何かが置いてあった。

 水平2連狩猟用散弾銃だ。エレファントガンとも呼ばれている。

 よく映画やアニメで出てくる銃口が2つの散弾銃だ。

 黒木はありがたく散弾銃を拾い、部屋を出た。



 川岸は懐中電灯を照らしながら歩いていた。

 黒木って男、容姿はいいけど根性は無い。

 1人で地下室にいけないなんていい例だ。

 その時、何かが引きずられる音がした。

「聞こえた?黒木?」

 後ろを振り向く。

 黒木の姿が無い。

 逃げてったの?

 とことん根性ない男。

 だが暗闇の中から何かが現れた。

 それは驚愕だった。

 それは一般男性の平均身長を越えた身長を持つ巨漢だった。

 大鉈を引きずりながらそれは近寄ってくる。

 全身にローマ帝国を思わせる鎧をつけていた。

 頭には顔を隠せる兜がある。

 大鉈は血塗れだ。

 川岸は本能的に逃げた。

 逃げろ逃げろ逃げろ

 本能がそう命ずる。

 だが最悪なことに行き止まりに当たる。

 振り返れば巨漢は追ってきている。

 もう終わりだ。

 そう感じたのか、全身から力が抜ける。

 巨漢は気づけば目の前だ。

「……覚悟は出来たよ……」

 そう吐き捨てる。

 巨漢は大鉈を振り上げる。

 横を見ればドアがあった。

 だがドアノブは無い。

 本当に終わった。

 川岸は目を閉じる。

 だが、金属が擦れる音がした。

 川岸は目を開ける。

 巨漢が横を見た瞬間、その顔を何かで殴られた。

 黒木だった。

 黒木が散弾銃で巨漢の顔を殴った。

 巨漢が怯む。

 黒木は巨漢の腹部を何度も銃で殴る。

 巨漢は倒れこむ。

「大丈夫か!」

 黒木が駆け寄ってくれた。

 このときの黒木は頼もしい男に見えた。

 巨漢が立ち上がる。

「後ろ!」

 川岸は叫ぶ。

 黒木はとっさに振り返り、散弾銃を2発撃った。

 1発目は巨漢の腹部、2発目は右肩に炸裂した。

 巨漢が近寄ってくる。

 黒木は散弾銃をブーメランのように投げた。

 散弾銃は巨漢の顔に当たった。

 だが近寄ってくる。

 黒木は天井を見た。

 細いパイプのようなものがあった。

 黒木はジャンプし、両手でパイプを掴む。

 巨漢が目の前だ。

 黒木は両足で巨漢の顔を思いっきり蹴る。

 渾身の一撃だ。

 巨漢は倒れこむ。

 黒木は腰に納めている拳銃を取ると、巨漢に乱射した。

 弾丸は巨漢の体のあちこちに命中した。

 巨漢は大鉈を捨てて、どこかへ逃げる。

 黒木は川岸に近寄る。

「大丈夫か?」

「え、ええ…」

「立てるか?」

 川岸は立ち上がる。

 黒木はそれに満足し、川岸の手を引いて出口に向かった

 頼もしい……川岸はそうはっきり感じた。

 これまであったどの男よりも頼もしい。

 さっきとはまるで別人だ。

 川岸はただついていった。

 前とは立場が逆転した。

 この男――黒木は川岸つれ、ただ出口を目指す。

 

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