存在しない花
大輝は湧き出る興奮感を抑えていた。
もうすぐだ……もうすぐで!
長かった狭い道の出口が見えた。
魂が奪われる眺めだった。
眼下に石造りの、美しい街並みが広がっていた。
正確に切り出された石材は精緻に組み上げられ、それを手掛けた者たちの途轍もない建築技術の高さを示していた。
どこからか射し込む太陽の自然光が、地底の都を照らしていた。
長く続いた洞窟の奥にあったのは、入り口からは想像できぬ大空洞と、そこを埋め尽くす神秘の建築物群だ。
古びた、古代の都市の遺跡―――
「素晴らしい……」
カルロは呟いた。
他の人物達も感動と驚愕で言葉が出なかった。
そうだとも。古代人の技術は今よりも素晴らしいものだよ。
目の前に、石造りの大きな橋が立っていた。
橋の奥に、太陽光が集中していた。
大輝は橋を渡る。
他の人物達は今だ眼下の都を見ていた。
大輝は抑えきれない興奮を胸に、橋の奥に行った。
そこには、空洞があった。
大輝は空洞に入った。
空洞内の中心に、花壇があった。
花壇には、咲き乱れる青いチューリップがあった。
「美しい」
カルロがいつの間にか後ろに居た。
「ありえない……」
「何がだ?」
「青いチューリップは自然界では存在しない花だ」
カルロは驚いた。
同時に興奮した。
「なら、今宵、また一種類増えるな」
大輝は用心深くチューリップを見つめた。
そして、空洞の片側にまた入り口があることに気づいた。
なんの迷い無く大輝は入り口に向かった。
入り口の奥は、真っ直ぐな洞窟になっていた。
地面に何か転がっていることに気づいた。
空薬莢が無数に転がっていた。
さらに自動拳銃コルト・ガバメントも落ちていた。
大輝は拳銃を拾い上げ、奥を進んだ。
洞窟は長かった。
ようやく出口が見えた。
そこは、まるで墓地のように無数の石造りの棺桶があった。
「ここは墓場か?」
誰かが背中を叩いた。
「うおっ!驚いた、君か」
薫子だった。
薫子は無表情で大輝を見ていた。
「単独行動は危険だよ」
「すまない、好奇心溢れる正確でね」
「すまないとかの問題ではない、お前の単独行動のせいでチーム全員が危険にさらされる可能性がある」
俺の心配じゃないのね……厳しいお方。
その時、薫子の背後に居る人物に気づいた。
「いいか、今後は―――」
「危ない!!」
大輝は薫子を押した。
後ろから何かが飛びついた。
大輝は頭を下げて避けた。
それは壁に当たった。
大輝はそれを見た。
少年だった。
四足歩行で歩き回る少年だ。
歯は全て鮫のように鋭い牙が生えていた。目の強膜は黒く、虹彩は赤く染まっていた。
大輝は拳銃を構えた。
「動くな!撃つぞ!」
だが、少年は壁を這った。ありえない!
壁を這った少年は穴に入り、姿を消した。
「あれは何!?」
薫子は怒鳴り声で聞いた。
「知るか!俺が聞きたい!」
その時、上から何かが降りてきた。
青年だった。
少年と同じ容姿をした男が上から降りてきた。
「お前、動くな!撃つぞ!」
だが、男は人間とは思えない奇声を発して走ってきた。
「来るな!」
男は静止しなかった。
「許せ!」
大輝は拳銃を一発撃った。弾丸は男の右肩に炸裂した。
だが、男は怯みながらも走ってきた。
「嘘だろ!?コカインでもやってるのか?!」
男は口を開けて近寄ってきた。
大輝は危機感を覚え、拳銃を撃った。
弾丸は頭に炸裂した。
血と肉片を撒き散らしながら、男は倒れた。
大輝は男の近寄った。
「即死、だよな?」
信じられない。
こいつはラリってるのか?
臭いな。
風呂は行ってないのか?