考古学発掘隊
大輝は飛行機の中で寝てしまったのか、気づけば既にフィリピンについていた。
「いい夢は見れたかな?」
カルロが笑みを見せながら言った。
「すいません、どうも昔から俺は飛行機に乗ると寝てしまう体質なんで」
適当に言い訳を考え、言った。
「これからは?」
「車で現場まで向かう」
外にはワゴン車が待機していた。
大輝は、首を鳴らしながら、飛行機を降りた。
ワゴン車の後部座席に乗り、出発するのを待った。
カルロが助手席に乗り、運転手がワゴン車を出発させた。大輝は退屈しのぎのために、夏目漱石の坊ちゃんを取り出し、読み始めた。
「車内の読書は目を悪くしますよ」
「安心してください。既に悪いです」
そう言えばとばかりに、大輝は聞いた。
「俺の愛犬は?」
「後で届きます」
それを聞いて安心した。犬は人よりも忠実で、飼い主を裏切らない。俺が世界で唯一、信頼できる人物だ。いや、犬物か……
「到着までは?」
「もうすぐですよ」
そこは人気の無い、町外れの乾燥地だった。
だが今は、多くのテントがある。
よく見ると、武装した人物達が居る。
「あれは?」
「雇った傭兵だ。みなベテランばかりだ」
大輝にとって、兵士はベテランかベテランじゃないの問題ではなく、忠実か忠実じゃないかの問題だった。忠実じゃない兵士はいつ裏切っても、おかしくないからな。
車が止まり、カロルは下りた。大輝も慌てて降り、カロルの後ろについてきた。
1人の男が来た。男はオールバックの白髪で、青い目をし、しわだらけの顔をしている。
だが、1970年の起きたベトナム戦争でのアメリカ軍のような、熱帯野生服を着ている。
M1956型個人装備を着け、手榴弾2個をぶら下げ、やって来た。
明らかに老人であったが、年齢を感じさせない屈強な体つきをしていた。つまり、マッチョだ。
「やあジョン。こちらは日本人のクロキタイキだ」英語でカルロが説明した。
「どうも、武装傭兵部隊総隊長のジョン・ハドソンです」
「どうも、黒木大輝です」
大輝は左手を差し出した。ジョンは一瞬ためらったが、快く握手した。
ジョンは2人を案内した。
「黒木君、ここでは英語でしゃべれよ」
カルロは黒木に小声で忠告した。
テント内に入ると、2人の男が種類を纏めていた。
「こちらは、考古学発掘隊護衛部隊隊長のロシュです」
ロシュがお辞儀した。ロシュは背が高く、剛直で意思が固そう顔だ。黒っぽい髪を軍隊風に短く刈り上げ、その青い眼差しは、まるで歴戦戦士のように鋭く、強靭な意志が宿っていた。
黒いアルマーニのスーツを着て、右耳に用心深くイヤホンを隠したその姿は、傭兵とは程遠いシークレットサービスのようだ。
「こちらはシャルトラン。武装傭兵部隊少尉だ」
シャルトランは、アメリカ陸軍新装備IIFSに似た装備をしていた。
顔は細長く血色が悪い。並外れた痩身で、無装飾のアメリカ軍制式採用銃のコルトM16A2を右手に抱えながら近づいてきた。
「テントの裏で、部隊が準備しています。遺跡の入り口はテントの裏です」
シャルトランは恐ろしいくらい低い声で言った。
テントの裏に案内された。
裏では、5人の男が迷彩服や野生服などを着て、旧ソ連のよって開発されたテロリストの銃AK47やその進化型ANアバカンなどを装備して、待機していた。
よく見ると、2人は傭兵らしくない人物が居た。
「あの人たちは?」
大輝はカルロに聞いた。
「今回の医療係を担当する野村たけしと助手の山岸薫子だ」
野村は白衣を着ていた。眼鏡を掛け、無造作なぼさぼさな髪型だ。
助手の山岸薫子は、袖なしの白いシャツとチノクロスのショートパンツという格好で腕を組んでいた。体つきはしなやかで背が高く、長い黒髪、図抜けた美人とは言わないが、大輝は動物的な強さを彼女から感じられた。遠目では分からなかったが、以外に巨乳だ。
大輝の前では、巨大な崖が聳え立っていた。
入り口と思われる場所には、正四角形の穴が開いていた。穴の周りには、細長い木の板が打ち付けられてた。
大輝は感心した。これぞ地獄の入り口だ。崖が崩れたら、俺は死ぬな。
「いつ中に?」
大輝はカルロに尋ねた。
「先に調査隊を送ったが、数分前に通信が途絶えた」
代わりにジョンが答えた。
「原因は?」
「いまだ不明。電波の届かない位置に居るだけだと思うが、万が一の事態も考えられる」
大輝はぞっとした。昔の古代人の仕掛けた罠に引っかかったのか?
カルロはジョンに聞いた。
「調査隊の装備は?」
「UZIやイングラムMAC11などといたって軽装備です」
どこがだと大輝は思った。UZIとMAC11はよく映画で無法者が撃ちまくる銃じゃないか
「早速中に入ろう」
「分かりました。ロシュ!」
ロシュが慌てて駆け寄ってきた。
「何でしょうか!?」
「お前が護衛部隊を指揮するんだ。分かったな?」
「了解しました!」
ロシュは敬礼した。
ロシュを始めとして、シャルトランと5人の傭兵が中に入り、カルロが大輝と野村とその助手の薫子を連れて、後に続いた。
中は思ったより暗く、通路は狭かった。
「私は野村です。こちらは山岸」
野村は右手を差し出してきた。
「俺は黒木大輝」
大輝は握手した。
「良かったですよ。同じ日本人が居て」
「まったくですな」
本当はそう思っていない。なぜなら相手は得体の知れない男と女だ。