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感染者の創造  作者: 岡田健四郎 原案:岡田健八郎
始まり
2/13

依頼

【主要登場人物】

黒木大輝くろきたいき

天才生物学者。1人旅を趣味とする。異性に興味がない。美術と独身生活を愛する孤独な男。


野村のむらたけし

ウイルス学者。新種ウイルスを発見し、歴史に名を残すことを夢見ている。


フェルディナンド・アイビ

フィリピン人少女。元気のある優しい美人のため、学校ではアイドル的存在。


山岸薫子やまぎしかおるこ

野村の助手。自分の問題は自分で解決するべきと考えており、誰にも心が開けない。


山岸百合やまぎしゆり

薫子の妹。姉とは反対で誰にでも心が開ける。


カルロ・アリギエーリ

イタリア古美術収集家。黒木と面識がある。


ジョン・ハドソン

傭兵部隊総隊長。老人だが、強靭な肉体を持つベトナム戦争経験者。ベトナム戦争での影響か、アジア人を恐れている。


ロシュ

武装傭兵部隊隊長。戦争経験者だが、どの戦争経験者かは言わない。


シャルトラン

武装傭兵部隊少尉。


マクシミリア神父

フィリピン教会の神父。ヨーロッパ人。元エクソシスト。



 彼ははっと周りを見渡した。そこは殺風景の平地だった。地面には、大勢の兵士の死体が転がっていた。兵士と言っても、明らかに古代の兵士だ。彼は兵士の鎧と盾を見た。ローマ兵だった。


 黒木大輝は、はっと目を覚ました。頭がぼんやりしたまま、ベッドから降りた。

「…夢か…」

大輝は頭を働かせようと頬を叩いた。電話が鳴っていた。

「えっと…もしもし?」

「クロキタイキトオハナシガシタイ」片言の日本語だ。訛りからしてイタリア人かな?

「イタリア語で大丈夫です」とりあえず日本語で言ってみた。

すると、向こうはイタリア語で何かを言った。大輝は頭の中で訳した。こいつは確か、黒木大輝に用があると言ったな。

「私がそうです」イタリア語で答えた。

「やあ大輝君。君に話がある」やけに馴れ馴れしい人だな。

「失礼ですが、どなたですか?」

「おっと、名前は名乗らないとな。私はカルロ・アリギエーリ」

カルロ?どっかで聞いた名だな…

「君に助けられた男だ」

そう言えば、この前バスの中で突然倒れた老人が居たな。俺がすぐに緊急措置を取ったおかげで一命は取り留めたけどな…

「えっと、何の用ですか?礼なら要りませんから」

「実は私は来週フィリピンに行くことにした」

「それはそれは、おめでたい」

「そこで是非にと君に同行してもらいたい」

耳を疑った。「同行?失礼ですが、話がまったく掴めません」

「君は優秀な生物学者だと、君の同僚が言っていたぞ」

「確かに生物学は得意分野ですが、あくまで生物学であって、医療技術ではありません」

「同じことだ」

「いいえ、まったく違います」

しばらく沈黙が続いた。

「では、もしフィリピンで古代遺跡が見つかったと言ったら、君はどうする?」

黒木の血が騒いだ。古代遺跡だって?」

「本当ですか…?」興奮を押さえた声で聞いた。

「ああ。つい最近、フィリピンに滞在中の私の執事が、フィリピンで遺跡を発見したと」

「それで?」

「私は古美術などに興味があってな。話によると君は美術や遺跡などを愛する男だと聞く」

黒木は完全に負けた。「あなたの勝ちだ。同行させてください」

その返事に向こうは満足した。

「来週だ。自家用機でフィリピンに行く。集合場所は、ジュネーヴ」

「ニューヨーク州のジュネーヴですか?」

「スイスのジュネーヴだ」

「なら、そちらに行くのにかなり時間が掛かりますね」

「なぜ?」

「日本とヨーロッパは遠いんですよ?」

「君はイタリアに滞在中だと聞いたが」

そうだった。あの悪夢のせいで自分は日本にいると思っていた。

「では、来週ジュネーヴに行けばいいんですね?」

「詳しい場所はファックスで送る」

「では」

「いい夜を」

電話が切れた。


 黒木は眠れないときの特効薬――湯気が立つココアを味を楽しむようにゆっくりと口に注いだ。

彼の両親は大富豪であったため、世界各地に別荘を建てている。イタリアも例外ではない。

彼の部屋は生物学の博物館のようだと、両親にからかわれた記憶がある。動物図鑑、人体模型、小型動植物の標本、ウイルスレポートなどが、部屋に飾ってある。

黒木は木製の椅子に腰をかけ、ココアのぬくもりを味わった。

 彼は昔から図抜けた美男子とまでは行かないが、同級生や同僚が、理知的と評する魅力があった。

豊かな黒い髪、好奇心に満ちた鋭い瞳、人の心をつかむ、渋い深い声、運動選手並みの肉体、大人びた顔。同じ研究所に勤める女性研究員たちからは、かなりの人気と人望があった。

 学生の頃は謎の少年扱いされ、好奇心の目を向けられた。知識が豊富で勉強ができ、なおかつ運動神経も良かったことからか、バレンタインデーには山のようなチョコを貰った。どの教科の発表でも手を抜かず、コンピューター・グラフィックなどで分かりやすく説明するため、いつも発表の時は生徒からも教師からも期待されたものだ。

 黒木は鏡で自分を見つめた。昔から何も変わっていないな。唯一変わったことは、面白みが減ったことだ…

幼少の頃から、あらゆるものに興味が出たら、図書館やインターネットでよく調べたものだ。独自の調査書を作ったこともある。生物学と美術と宗教は特に興味があった。生物学者になったのも、興味があったからだ。何百種類もの細菌やウイルスを調べるのは楽しかったな。

だが、年をとるごとに、段々と面白みが減った。今ではウイルスと美術以外には何も興味がない。

昔は良かった。昔は世界は未知のパンドラボックスだったな…

 よく同僚達に言われたものだ。

「お前に<愛>はないのか?」

そのたびに決まって答える。

「俺は3つのものを愛してる」

 黒木が人生で愛の対象になっているもの――――生物学、美術、独身生活。

最後の独身生活は、黒木にとって自由そのものだった。何にも縛られることなく、世界を旅したり、好きなだけ眠ったり、好きなだけ食べたり、好きなだけ勉強したり、好きなだけ遊べたりする。

 独身生活はいい。まさに神が、俺に与えてくれた最愛の生活だ。

 1匹のシュパード犬が舌を出しながら黒木の所にやって来た。

おっと、もう2つ愛するものがあったな。愛犬のサム、そして、エヴァンゲリオン。

 ファックスが受信した。紙がゆっくりと出てきた。

「完璧な予定だ。来週から忙しくなるぞ」

ファックスには地図が載っていた。

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