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腐敗する教室、沈黙する良心

それからの30日間。 俺たちは王都の兵舎で、共同生活を送ることになった。


最初の数日は、まだ「日常」があった。

「こんなのおかしい」「帰りたい」と泣く女子がいて、それを慰める男子がいて、

俺にも「大丈夫か?」と声をかけてくれる奴がいた。


だが、空気が変わるのは早かった。 訓練場の土と、魔物の血と、焦げた肉の匂い。

この世界のリアルな「暴力」に触れるたび、クラスメイトたちの目は険しくなっていった。


「うおおお! 見ろよ、俺のパンチで岩が砕けた!」 モンクのダイキが歓声を上げる。

「私の歌でみんなの疲れが取れるの? すごーい!」 吟遊詩人のミカがはしゃぐ。


そして、カイトは別格だった。 彼はたった数週間で、王国の騎士団長すら凌駕する剣技を身につけた。

光り輝く聖剣を振るい、中級魔物を一撃で葬る姿は、まさに物語の英雄そのものだった。


【天王寺カイト:Lv 15】


一方、俺は。


「……はぁ、はぁ。くそっ、重い……」


俺は訓練場の隅で、クラスメイト全員分の荷物と水筒を運んでいた。

訓練に参加することすら許されず、与えられた仕事は「雑用」のみ。

ステータス画面は、召喚された日からピクリとも動いていない。


【藤丸レン:Lv 1】 【Next Level:Error】


「おいレン、水遅いぞ! 喉渇いてんだよ」 元不良のゲンタが、泥だらけのブーツで俺の肩を小突く。

「あはは、レンってばウケる。道化師ってマジでピエロじゃん」 ギャルたちがクスクス笑う。

その笑顔に、かつてのような悪気のない明るさはなく、「自分より下の人間がいる安心感」が

透けて見えた。


最初は「レン君大丈夫?」と声をかけてくれていた女子たちも、今では俺と目を合わせようとしない。

レベルが低い人間と関わると、自分たちの「品位(評価)」も下がる――この世界の空気が、

彼女たちの良心を腐らせてしまったのだ。


園芸部の橘エマが、遠くから俺を見て、申し訳なさそうに視線を逸らすのが見えた。

(……いいんだ、エマ。謝るなよ) 俺は泥水を拭いながら、心の中で呟く。

お前らは悪くない。悪いのは、人を数字でしか評価しないこの世界だ。


「レン! 大丈夫か!?」


駆け寄ってくるのはカイトだけだ。 彼は、厨房から貰ってきた冷えた果実水を俺に差し出す。


「ごめんな、俺がもっと王様に言えば……」 「……やめろよ、勇者様。お前の聖なる手が汚れるだろ」


俺はカイトの手を振り払ってしまう。 惨めだった。 親友の純粋な優しさが、今は一番の毒だった。

カイトが輝けば輝くほど、俺の影は濃くなる。俺たちはもう、同じ世界の住人じゃないんだ。

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